アドニスの言葉に側近たちは何も言わなかった。
無言のまま、視線を此方に向ける。
その視線を前にアドニスは続けた。
「可笑しいとは思っていました。暗殺を依頼して置いて、まるで隠す気は無い。むしろ公表している。『参加者』に
アドニスの中で自身の答えは正しいと言う確信があった。
でなければ、あの記事はおかしい。
『ゲーム』開始前に『参加者』を秘密裏に唯減らしておきたいのなら、ジョセフの死はどんな手を使っても隠すだろう。良くて行方不明。
それどころか、更に見越して『ゲーム』には影武者を送り込む可能性すらある。
ゲーム開始前に一人が死んで一人が行方不明は、流石に「
それに『世界』が送り込んだ影武者ならはアドニスの手駒としても使える筈だ。
でも、それはしなかった。
『世界』は当たり前のようにジョセフの死を明らかにした。
それは正に知らしめるように。
「お前達には共通の敵がいる」
そう、参加者達に宣告するかのように。
昨日のジョセフの一件と。
今日の新聞を見て皇帝の真意を悟った。
『ゲーム』開始前に、秘密裏に『
『
「皇帝は王冠を端から捨てる気が無い」
ではなく。
「王冠は端から捨てる気は無いが、せっかくのゲームだから、全員にチャンスはくれてやる」
正しいのは此方。
つまりだ。皇帝は『
そんなに王冠が欲しいならくれてやる。だが、殺し合え。
だが簡単に、ただ殺し合うだけで玉座が手に入るとは思うな。
此方からは最上級の
王の座を欲しいと言うのなら、その狩人を見つけ、殺せ。
それでこそ、『王』と言う存在に相応しい――……と。
アドニスが導き出した答えは正しいはずだ。
でなければ、可笑しい点が出てくる。
でも、導き出した答えが正しければ。辻褄は合う。
ジョセフの件を公表したことも。
アドニスに「影武者」と言う肝心な情報を提示しなかった件も。
「遊べ」と言った皇帝の言葉も。
アレは自分だけに向けられた言葉じゃない。
昨晩の「ゲーム開始」もまたしかり。
本当に皇帝の言葉通りなのだ。隠す気なんて無い。
「大いに遊べ」そして「余を楽しませろ」
これ等は、
だからジョセフと言う人物の死は、宣告。
これはアドニスと言うイレギュラーも含めた。『ゲーム参加者全員』へ。
「
皇帝からの、
少しの間、銀髪が口を開いた。
「貴方の
金髪が口を開く。
「では、
アドニスは静かに口を閉ざした。
僅かに眉を顰めて、ゆっくりと口を開く。
「『王』を選んだモノ達へ。自ら王と選んだものが無様に負けたのであれば、同時にお前たちの負けである。そのような
一度だけ、息を付く。アドニスは最後の言葉を続ける。
「古き王か、新たな王か、選べ。負けたら全員殺す。これは『10の王』達の、その陣営への警告です……」
これが、2つめの質問に対してアドニスが浮かべた答え。
「ジョセフ皇子の側近を殺した」答えである。
彼の答えに側近2人は何も口にしない。
お互いに耳打ちすることも、嘲り笑う事も、呆れる事も。
長い間が落ちる。
その長い間にアドニスは僅かに顔をゆがめた。
アドニスは自身の考えを正しいと思っている。
ただ、それは前者の答えのみだ。
長い沈黙の末。
最初に口を開いたのは、銀髪であった。
「それが貴方の答えならば、前者に対しては何も補足する事はございません」
それは、肯定と受け取っていいだろう。最初の考えは正解。
だが同時に思う。やはり後者は間違いであったかと。
言ってみたモノの「『王』に属したモノは全員殺す」
コレは腑に落ちない答え。納得できない。
『10の王』については、国民にも知らせは通っている。『ゲーム』も公表済み。
『王』を支持する国民は沢山いた。其々各自、自身の『王』を選んで来た。
名までは公表していないのに、多くのモノが自ら『王』を探し当て、自分の『
皇帝はソレを黙認。何かをすることも無く、
今じゃ皇帝が統治する。この『城下町』以外では、各地違う『王』の名を掲げるモノ達が数多くいると言う。
これに対しても皇帝は何もしない。
それは見せかけか?自分を批判する者達を焙り出したと言うだけなのか。
違う。皇帝は暴君だ。しかし愚王ではない。
彼は自身の傲慢さが、何故実現できているか理解している。
高い税を掲げ、反逆者を殺し、貧民は見捨てて来た。
しかしだ、同時に理解している。
もっとはっきり言ってしまえば。
王の為にと税を出しているは国民なのだ。
暴君であるための金を、装飾品を、食事を、全て用意するのは国民だと言う事。
あの王は、其処はしっかりと理解している。
暴君が皇帝であり続け、贅沢する為には何が必要か。
だから国民は殺さない。
働き蟻を殲滅するような真似はしない。飼い殺しにする。
――例え、それが裏切り者だとしても、だ。
だから、国民を切り捨てるような、アドニスの答えは間違っている。
ただジョセフの一件に関してだけを考えると。
『王と道連れ』――。
その答えを彼らは出す。
「そして、後者に関しては補足をさせていただきます――」
金髪が静かに口を開き。
「全員ではありません。『
否定をすることは無く。ただ冷徹に、言い放った。