殺し殺して、数カ月。
はははなんかもう、何にも考えられなくなってきたな。
追放された俺は、相変わらずソロで異化獣を殺しまくる生活を送っていた。もちろん団を通してないから給料なんて一銀貨だって入って来やしねぇ。
完全なる趣味。あるいは気晴らしだ。
襲ってくる異化獣を殺して、殺して、ただ殺し続けるだけの不毛な毎日。
俺のこの行動は、デメトリオやイヴァンたち金獅子団にすぐに知られる事になったが「勝手な事をするな」「俺たちの存在意義を奪う気か」とぎゃあぎゃあ騒ぎやがるから力で黙らせてやった。
追放決闘で負けはしたが、実力であいつらに遅れは取らない。
そもそも俺以外は壁の外にいつまでも居られないからな。
居ればいるほど命が縮む、魔風の荒野に長居をして文句を言い続ける奴も居ない。命を賭けた地獄の我慢比べは誰だって御免だろう。
それでもイヴァンだけは何度か来て怒鳴っていたがうっとおしいから無視をした。アイツ以外と元気そうでな。今日も異化獣は居ないと知ると、一通り喚き散らして壁の向こうに返っていった。
あの馬鹿はすぐに死のうとするからな。ザマァ見ろ。
あとはデメトリオのおっさん。
「ん、お前が俺たちの代わりを全部するってんなら、まぁ楽でいいなぁ」
とか言ってやがった。
あの親父は戦闘系の法則を持ってるはずだが、どうにも戦う事にこだわりが感じられない。異化獣との戦いも、避けられるならば避けたいと思ってる節さえある。それがおっさんになるほど長生きした理由かもしれねぇが。
次はリコだ。金を受け取った次の日からぱったり顔を出さなくなった俺に盛大にキレていた。そのうち俺が外で異化獣を狩ってるらしいと聞いてひどく心配していたが、最近はそれも言わなくなった。
たまに顔を出しても
「もういいよ。もう好きにしなよ……」
と悲しそうな顔で言いやがる。
ちなみに、もらった金貨は最初の戦いでほとんど使った。刃物を投擲する戦い方は、弾さえあれば大軍をひとりで相手に出来る利点はあるが、金がかかり過ぎる。
さすがにリコに、追加の金をもらうのは気が引けた。
ゆえに、俺はすぐに戦法を変える事を余儀なくされた。要するに飛ばせる手頃な塊であればいいのだ。壁の外に転がるてきとうな岩やレンガ。建築資材の類が俺の新しい武器になった。
それだけでは敵を釘付けにするには不足だったから、土を盛り上げた土塁を突く言って異化獣の侵攻をせき止める方法を取った。奴らがまごついている間に、岩やレンガや土の塊を雨あられと撃ち込む戦い方に変えた。
これはかなり効果がある戦法だ。
欠点があるとすれば、弾の確保と土塁の積み上げに膨大な時間がかかる事。
誰か人を雇えればよかったんだが、壁の外で長時間自由に動けるのは俺だけだ。
俺がやりたい事を十分にやるには、何でも自分でやるしかない。
俺は日夜壁の外で過ごす事になり、必然生活の場は壁の外に変わっていった。
「あいつ等も、マジで何がしたいんだろうな……」
今日も魔風と共に、異化獣の群れがやってくる。
土と泥と異化獣の血にまみれてこの数カ月たった一人の防衛線を維持した結果、俺が居れば、排斥騎士団は不要だという結論に達した。
これであいつ等が無駄に死ぬことは無くなったわけだ。
とはいえ、そもそも俺のがこやってるのは、団のヤツラを死なせたくないから、ではない。
そもそも、あんな奴ら生きてようが死んでようが俺にはどうでもいい。
ただ、アイツらの死に方が、生き様がとにかく気に入らなかっただけだ。
俺が気に食わなかった。
ただ、むかついた。
否定したかった。
何かを変えたくて、とりあえず足掻いてみただけとも言える。
ガキの我がままみたいなもんだった。
俺の働きのおかげで、イヴァン達排斥騎士の仕事は無くなった。アイツらは今開店休業状態だ。誰も戦わず、誰も死なない。けが人が減るから、リコの仕事も減ってるらしい。
世界の法則を否定したいっていう俺の目的はとりあえず限定的にだが、達成したとも言えるだろう。だが、それだけだ。
「しまったな。これいつまで続ければいいんだろな」
自分で作った即席の塹壕の中。土まみれの俺は馬鹿馬鹿しくなって笑った。
虚しさで胸が潰れそうだ。
永遠に先の見えない同じ事の繰り返し。
イヴァンとパルカが見た絶望もこういうものだったのかもしれないと思える。
法則に縛られて身動きが取れず、生き方は変えられない。
タイムリミットが近づいて、焦りだけが膨れていく毎日。
その末に求めるのは、少しばかりの栄誉がある
「アイツらが死にたい気分、やっとわかって来たな」
今日も俺は、手に持った剣で、虎型の異化獣を切り伏せる。
近場の石を飛ばし兎の化け物を押し潰す。
俺がこうしてる間は街は安全だろう。イヴァンもリコも街の奴らも法則という義務から解放される。だが俺が居なくなるだけで元に戻っちまう一時的なものだ。
戦士の法則を持つ
変わらないんだ。何も変わらない。
きっと問題は、もっと根本的なものだ。
やはり魔風と法則だろう。そのふたつの要素がこの世界を今の形に規定している。これを始めたのは誰か? 始まったのはいつか? どんな事にだって始まるはあるはずだ。それを知る事が出来ればあるいは……
はじまりを知れば、終わらせ方も分かるかもしれない。
「変える力が欲しい。世界丸ごとひっくり返すような力だ」
それは俺自身の為でもある。そもそもが俺の我がままなのだし。
ただただ、気に入らないナニカを否定したかったから始めた事だ。
「くそ、神め死ね。何とかならねーのかよ、このクソ風はよぉ!」
喚いて嘆いてうそぶいて。
疲れ果てたは後にそういえば、と思い出す。
『神様を信じて無い顔をしています!』 と俺に言った変な女が数カ月前に居た事を。
「——なぁんだ、やっぱり神様、信じて無いじゃないですかぁ?」