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第34話 夏場の焼きもちも悪くない

「もう、センパイのバカ……。信じられない!」


 センパイの空気の読めない発言でせっかくのデートの雰囲気が台無しだよ。何が「兄弟みたいだな」だよ! 

 あのカップル感満載の空気の中で、よくその発想が浮かぶよね。遠回しに「お前は異性として見てない」って言われた気がしてムカつく。


 そんなセンパイにこそが、ボクが大好きってことを分からせてやる。

 センパイにボクを異性として意識させてやるという気持ちがメラメラと燃え上がった。


 ボクはトイレに行くと言ってメイク直しを終えて戻ってくると、ビーチに人だかりが出来ている。

 なんだろう? あそこってセンパイといた場所だ。

 まさか……? ボクは嫌な予感がして小走りで戻ると、その予想が的中してしまった。


「ねぇ、お兄さん。1人?」


「あの……」


「ねぇ、わたしたちと一緒に遊ぼうよ!」


 センパイが逆ナンされている!

 肌がこんがり焼けているちょっとヤンチャなお姉さん達に囲まれている。肉食系女子って古い言い回しがお似合いのガンガン攻める精神を形にしたお姉さん達は、おっぱいを寄せてあげて巨乳アピールをする派手なビキニ姿を必死にセンパイにアピールしている。


 そのセクシーアピールはセンパイに届かず、周りに群がるモテないブサイク達の鼻の下を伸びさせている。お姉さん達、残念だね。

 でも、お姉さんたち、センパイがかっこ良くて恋人にしたい気持ちは痛いほど分かるよ。残念なことに、このビーチにはセンパイよりカッコいい人は誰もいない。新しい出会いを求めて勝負水着でやって来て、収穫ゼロだと悲しいよね。


 そんな時にイケメンのセンパイを見つけたら、声をかけずにはいられない。わかるよ。ボクがお姉さんと同じ立場なら、同じことをしていたかもしれない。


 だけど、お姉さん。センパイはボクのだ!

 ボクは男に餓えた野獣おねえさんからセンパイを救うためにダッシュする。


 ボクが普通にセンパイに近づいてもお姉さん達に効果はない。

 こういう時は手っ取り早く分からせてあげるのが1番。


「センパイ、お待たせ!」とボクはセンパイの腕に思いっきり抱きつく。


「ましろ?」


 ボクたちのラブラブアピールに、お姉さん達は言葉を失う。

 だよね。ボクらはどこから見ても美男美女のお似合いカップルでしょ! あんたたちが割って入る余裕はないんだからね。


「あの、わたしの彼に何か用でしたか?」


「いや、何でもないです」


 ほら、ボクらのデート邪魔しないでよ。

 ボクらの関係が分かったら、さっさと消えなよ。

 空気を察した負け犬おねえさん達は「彼女連れか……」と捨て台詞を言いながら、去って行く。

 は~い、残念でした~。ボクはセンパイとのデートを楽しむから、お姉さん達はビーチで次のチャンスを探してね。


「ましろ、ありがとう」


「もう、センパイ。お姉さんたちに囲まれてアワアワしないでよ」


「いや、急に囲まれてびっくりしちゃって」


 何、そのピュアなリアクション! センパイ、自分が女の子のドストライクな見た目ビジュなのご存知ですか? 

 センパイは女の子だけど、このビーチにいるブサイクくんと比べものにならないくらいにイケメン偏差値高いんだから。


「あの感じ……久しぶりだな」


「センパイって昔からモテてたよね!」


「あぁ、女の子には……」


 女の子にモテる自分に落胆するようにセンパイはタメ息を漏らす。

 センパイは高校時代から女の子にはモテまくりだったよね。

 ボクが知る限り、毎日女の子から告白されたり、連絡先交換されたりとモテエピソードが山のようにあったよね。今もあの時と変わらない格好良さは健在だけど。


「センパイ、そんなに女の子にモテるのが嫌なら、アタシは女だ!って言い返せばいいのに。もしかして、女の子にチヤホヤされるのこと……満更嫌じゃないかもって思っている?」


「バレたか」と爽やかスマイルをボクに向けた。


 マジか。センパイって女の子にモテることを意外と楽しんでいたんだ。 そうじゃないと思っていたのに。


「まぁ、冗談半分だぞ。女の子がアタシを慕ってくれるのは正直嬉しい。だけど、アタシは女だ。恋人として期待に応えられない。今は昔より恋愛の形は自由だから、関係ないかもしれない」


 センパイは海に目を向けながら、自分の想いを呟く。


「でも、ほとんどの子がアタシを男と勘違いして告白する。勇気を出して告白した相手が男じゃなくて女だって分かったら、その子が傷つく。だったら、アタシが男のフリをすれば誰も傷つかないだろ」


 そう言うセンパイの顔はどこか寂しそうにボクには見えた。

 センパイ、優しすぎるよ。紳士ってセンパイみたいな人のことを言うのかな。こんな可愛いセンパイをイケメンと勘違いした女達が悪いのに。


「センパイって優しいね」


「ありがとう」


 ボクらは白い砂浜にしゃがんで、静かに海を眺めた。

 海水がザブンと波打つ音に耳を傾けた。他のカップルがイチャつく雑音が聞こえなくなり始める。この時間が永遠に続けばいいのに。

 本当は水の掛け合いをしたり、砂のお城を作ったり、もっとイチャイチャしたい。

 でも、センパイと2人の時間が過ごせれば何でもいい。

 いや、やっぱりそれだけじゃ嫌だ!

 ちょっとイチャイチャしたい。

 ボクはセンパイに気付かれないように、そっとセンパイの肩に頭をちょこんと乗せた。


「おい、ましろ。頭、乗せるなよ!」


「いいでしょ!」


「しょうがないな」


 センパイって押しに弱いから、ボクのわがままを聞いてくれる。

 いや、優しいからが正しい。ボクの人生でこんなに優しい人とは出会ったことがない。

 そんなに優しくされると、もっと甘えちゃおう。

 ボクはセンパイの腕にぎゅっとくっつく。


「おい、くっつくな! 暑いだろ」


「ボクは暑くない~」


「……調子いいんだから」


 あぁ、帰りたくない。このままずっとセンパイと一緒にいたい。

 さっき、センパイを逆ナンしてきたお姉さん達だ。センパイに相手さてなかったからって、あんなブサイク達と遊んでいる。


「ましろ」


「なに?」


「お前も、ああいうのが好きなのか?」


「え?」


 センパイの視線の先に、さっきのお姉さんたちがいた。

 大きなおっぱいをブルンブルンさせながら、ブサイクと海水のかけあいをしている。ボクも男だから、興味ないわけじゃない。

 だけど、ボクとクとセンパイのデート風景に入ってこないで欲しい。

 ビーチの端の方で楽しんでくれないかな?


 あれ? どうしてセンパイがそんなことを気にするの?

 なんで、ボクがあのお姉さんを見たと勘違いしているの?

 もしかして、焼きもち!? もう、センパイ可愛すぎる!

 正直、興味ないって答えたいけど、ちょっといじわるしちゃおう。


「どっちって言って欲しい?」と、ボクはセンパイの耳元で甘えた声で囁く。センパイの肩がピクリと震えた。


「あぁ、もういい! 今のは忘れろ!」


 センパイは顔を真っ赤にして誤魔化そうとしている。

 配信ネタ探しに来たという名目で合法デートだから、少しは配信ネタのことも考えないといけない。

 だけど、この可愛いセンパイエピソードは誰にも教えない。ボクだけの大事な思い出にしちゃおう。


「なに、ニヤニヤしているんだよ!」


「なんでもないよ!」


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