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第11話 チャンネル登録者100万人を目指す一歩

「みなさん、こんまし~。あなたのお耳の恋人ましろだよ~!」


:俺らの天使様、降臨!

:俺だけの天使様だ!

:いや、俺だよな? ましろん?


 ましろがいつもの挨拶すると、ましろ目当てのエロオヤジリスナーがましろの取り合いを始める。

 そんなコメント欄をましろが「本当にキモいオヤジたち」と蔑む目で見ている。


 ましろのリスナーよ。これがお前たちが天使と崇める小悪魔の本性だぞ。

 今日のましろの立ち絵の衣装は白のワンピースだ。ワンポイントでピンクの四つ葉のクローバーを形どった髪留めをつけている。

 ましろのリスナーが思い描く理想の女の子を具現化したデザインだ。

 流石、神絵師と呼ばれるハイエナさんだ。ましろのリスナーの好みを熟知している。


「みんな、こんクロ~。キミのお耳の王子様クロナだ」


 今日のアタシの立ち絵の衣装は白のジャケットに白のパンツ。ワンポイントで金の四つ葉のクローバーのネックレスをしている。

 さらに白いシルクハットに右目にはレンズが片っぽしかないメガネみたいなものをかけている。

 ハイエナさんが「自信作が出来たから、配信で使って!」と急に、ましろ経由でもらったけど。


 この立ち絵は何の衣装を着ているんだ?

 アタシは、自分の分身である立ち絵が着ている衣装が何のなのか理解できていない。

 ハイエナさんに詳細を訊いても「見ればわかるから」の一点張り。わからないから訊いているのに。


:クロ様! こんクロ!

:クロ様の怪盗ゴートみたい!

:モノクルもお似合いです!



 あぁ、これ怪盗なんだ。てっきり、ホストのコスプレかと思っていた。

 このレンズが片方しかないメガネって”モノクル”って言うんだ。

 知らなかった。怪盗ゴートって何かのアニメなのかな? 配信終わったら調べてみよう。

 昔、勉強のためにたくさんアニメを見ていたけど最近見ていないから流行りのアニメについていけてない。

 せめて、リスナーちゃんがコメント欄で言ってくれるアニメだけでも把握しなくちゃ。


 それにしてもアタシが怪盗か。ハイエナさんはアタシの立ち絵に怪盗の衣装を着せたのかな?

 アタシに怪盗のイメージでもあったのかな?


:怪盗クロナの登場ですね!

:私たちのハートを奪うためにやって来たのですね!

:もうすでに私のハートは盗まれています!


 なるほど。そういうことか。アタシはリスナーちゃんのハートを盗んでしまうハート泥棒ということか。


 困るな、ハイエナさん。確かにアタシはリスナーちゃんのハートを盗む常習犯かもしれない。だけど、立ち絵まで怪盗にする必要があるかな? ほら、またリスナーちゃんのハートを奪っちゃったじゃないか。アタシはなんて罪作りな女なんだろ。


 アタシがリスナーちゃんの反応に酔いしれていると、ましろが「センパイ、大丈夫ですか?」って哀れむような目で見ている。

 なんだ、ましろ? 妬いているのか? 仕方ないだろ、アタシは無意識でリスナーちゃんのハートを奪ってしまうハート泥棒なんだから。


 真白に対して余裕を見せるも「リスナーさんしか褒めてくる人いないもんね」と言いたそうな顔で、こっちを見ている。

 そんなましろの顔にアタシはムカついた。

 なんだよ! ましろ! いいじゃないか! クソみたいな現実でバイト生活を頑張ってるアタシをリスナーちゃんだけしか褒めてくれないんだ。ちょっとくらいチヤホヤされる状況を楽しんでもバチが当たらないだろ。


「センパイ、リスナーさんに褒めらたからって照れないでよ。こっちが恥ずかしい」


「ま、ましろ! 配信中に言うなよ!」


:クロ様が照れている!?

:可愛い

:デレクロ様もありだわ!


 リスナーちゃん、違うんだ! 確かにあまり嬉しくて照れしまったのの事実だけど、キミたちが思い描いてるカッコいいクロナを汚さないために配信中は出ないようにしたんだよ。それをましろの奴が暴露しやがって。ましろ、お前にはブランディングイメージを崩すリスクが分かっていないのか?


「まぁ、センパイ安心してよ。センパイがどれだけ照れてもボクの方が可愛くないから」


「ましろ~!」


:ましろんのポイズンストレート炸裂!

:ましろんより可愛い子はいない

:クロちゃんのKO負け!


「リスナーさん、ありがとう。やっぱり、ボクの方が可愛いって」


「はいはい、どうせアタシは可愛くないですよ」


「センパイ、いじけちゃって可愛い」


:ましろんのアメ攻撃だ!

:アメとムチの見事なコンボ!

:@ハイエナ クロちゃん、ネタ提供ありがとう! いじけクロちゃんのイラスト描くね!


「は、ハイエナさん!」


「ハイエナさん、こんばんわ! もうセンパイばっかりずるい! ハイエナさん、ボクにもイラスト描いてよ!」


:@ハイエナ OK プンプンましろんも描いてあげる!

:神イラスト!

:いくらで取引してますか?


「やった~! ハイエナさん、ありがとう」


「ハイエナさん、お忙しいのにありがとうございます。あのいじけクロちゃんはツイートしないでください。アタシが買い取りますので」


:ハイエナさん、クロ様のイラストを是非ツイートしてください

:ツイートしないのなら、わたし達が買い取ります。

:言い値で買い取ります


「リスナーちゃん!」


 アタシの恥ずかしいイラストがリスナーちゃんの手に渡ってしまう。

 ハイエナさんのことだから絶対にツイートして拡散するつもりだ。

 ましろが「センパイ、もう諦めな」ってニヤニヤしながら、でこっちを見ている。


「じゃあ、センパイ。そろそろ始めようか」


「あぁ、そうだな」


「じゃあ行きますよ! シロ×クロちゃんねる、はじまるよ~」


 ましろのハイテンションな進行でアタシ達の配信チャンネル”シロクロちゃんねる”がスタートする。


「さぁ、今日もシロ×クロちゃんねるが始まったね。ちなみに今日初めて見に来たよーってリスナーさんもいますか?」


:初めてです(嘘)

:ましろん、初めてです

:俺の初めては、ましろんです


「うん、初めましてのリスナーさんはいないね」


:ましろんのスルースキル発動

:流石、ましろん!

:俺たちが育てたおかげだな


「そうみたいだな。じゃあ、このまま企画に行くか」


「OK、センパイ!」


 アタシたちは今日やる企画の準備を始める。

 ましろ、今日からアタシたちはチャンネル登録者100万人という大きな目標に向かう配信者なんだよな。根拠はないけど、アタシたちなら出来そうな気がするよ。根拠のない自信って大事だよな。

 ましろに視線を向けると、「そうだよ、センパイ!」って言ってくれている気がする。いつもは生意気でわがままな後輩だけど、配信者として心強い奴はいない。


 それに今日は、アタシたちの『しろ×クロちゃんねる』でも人気の企画を用意している。まだ新しいリスナーは、いないみたいだ。

 だからこそ、今見に来てくれているリスナーちゃんたちを大切にしなくちゃいけない。


「今日はチュイッターで告知していた企画『妄想劇場』を開始します」


:8888

:待っていました!

:クロ様~!


 おう、リスナーちゃんがいい反応してくれている。

 これはアタシたちのリスナーに1番人気の企画だからな。

 もちろん、ましろのキモいリスナーたちの大好物でもある。

 アタシたちの『しろ×クロちゃんねる』の人気を上げる切っ掛けになった企画の1つだ。


 さぁ、ましろ! リスナーちゃんたちを楽しませながら、チャンネル登録者100万人を目指して走りきるぞ!

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