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第4話 ましろとの約束!?

「そうだ、センパイ」


「なんだ、ましろ?」


 半年でチャンネル登録者100万人目指すと啖呵を切って疲弊しているアタシに、ましろは声をかけた。まだアタシに何か無茶ぶりをして来るのか、コイツは? その企み顔をやめろ。コイツ、顔は笑っているけど心の中で何を考えているか分からない時がある。


「これからチャンネル登録者100万人を目指す前に約束して欲しいことがあるんだ」


「約束?」


:てぇてぇ

:ましろの約束?

:俺、何でも聞くよ


 リスナーくん、ましろとの約束なんてろくなものじゃないぞ。

 キミたちだって、ましろと約束して痛い目に遭っているじゃないのか? いや、こいつらにとってはそれがご褒美なのかもな。


「チャンネルが登録者100万人達成したら、ボクのお願いを1つだけ何でも聞いて」


「はぁ! ふざけるな! なんでチャンネル登録者100万人を達成したら、お前の頼みを聞かないといけないんだよ!」


「やだ! 約束して!」


「嫌だよ!」


「じゃないとボクは協力しない」


:駄々っ子ましろん降臨!?

:おじちゃんが何でも買ってあげるよ!

:ましろん、何して欲しいの?


 ましろがおもちゃを買って欲しいわがままな子供みたいなことを言い始めた。お前がチャンネル登録者100万人目指そうって言ってきたのに。 それだけじゃなくて協力して欲しかったら、自分のお願いを聞けって、どこのガキ大将だよ。

 アタシは、もうコイツの無茶ぶりに振り回されたくないんだよ。

 チャンネル開設当初に「センパイがメス声ASMRやったら、登録者増えるよ!」と言われてやってみたら「オカマみたい」、「ごめん、無理」、「クロ様、やめてください」って不評の嵐。

 その他に「センパイの意外な一面を見せたら、動画バズるから」って言われてギャルっぽい口調で配信したら、「クロちゃん、マジでやめて」、「いたい」、「こんなクロ様、見たくなかった」と可哀想なものを見たというコメントでいっぱいになった。


 あれ? なんでだろ。配信中なのに、涙が出そうになる。

 黒歴史を思い出して泣いている場合じゃない。今は、わがままな相方ましろを何とかしないと。


「お前がチャンネル登録者100万人にするって言ったんだろ!」


「そうだけど! お願い聞いてくれないと、やだ!」


 ましろが配信テーブルをバンバンと叩き始める。

 台バンするなよ! 今、配信中だぞ!

 ましろの頭を叩いてやりたいけど、今は配信中だ。

 アタシは、わがままな相方ましろへの怒りを抑えて放送事故を回避するため配信を続ける。


「子供か、お前は!」


「センパイがお願い聞いてくれないなら、ボクは絶対協力しない!」


:ましろちゃん、クロ様を困らせないで!

:私たち、困ったクロ様を見たくない

:クロ様、わたし達はクロ様の味方です。


「リスナーちゃん、ありがとう!」


 アタシはリスナーちゃんたちからのフォローコメントに涙が出そうになる。やっぱりの味方はリスナーちゃんたちしかいない。相方であるはずの、ましろに振り回されたりしてもアタシを慰めてくれる。リスナーちゃんたちのためにも、アタシは頑張るぞ!


「ましろ、落ち着け。お前、本気か?」


「うん!」


 凄い真っ直ぐな目で言いやがって。何が何でも自分の要求を通そうとしているな。とんでもないワガママ配信者だな。親の顔が見てみたいよ。

「いいか、ましろ。もし、ダメだったら、アタシたち配信者を引退しないといけない。そうなったら、ましろも困るだろ?」


「大丈夫! だって、ボクは『しろ×クロちゃんねる』以外に収入源あるもん!」


 そうだ、ましろには他の収入源があるんだ。

 ましろは配信以外にも自分のファンサイトを持っている。

 しかも会員制のサイトで会費が毎月500円。意外と良心的な価格に思えるけど違う。蓋を開けたら、あくまで基本料金が500円で、他にプラン料金がある。それぞれのプランによって会員が受けられるサービスが異なる。高額プランになると、そこでしか聞けない様々なボイスがあるらしい。健全な会話ボイスやASMR。その他にもエロボイスまでも揃えている。

 今、コイツの収益は大半がファンサイトである。万が一、配信者を引退しても、ましろの人気はすぐにはなくならない。配信者引退は、ましろにとって痛手じゃない。


 羨ましい。アタシも早く、配信以外にも稼げるようになりたい。

 どこかの企業案件なんか、もらえるくらいの人気配信者になったら配信だけで生きていける。そうなったらやりたくない仕事をしなくて済む。

 いや、そんなことを考えている場合じゃない。

 正直、アタシの力だけじゃチャンネル登録者100万人は無理だ。アタシのファンも少しずつ増えたけど、このチャンネルはましろ目当てでやってくるリスナーが半数以上だ。今後のチャンネル登録者もましろ切っ掛けで増える可能性が高い。この状況でましろの協力なしでチャンネル登録者100万人なんて夢のまた夢だ。ここは、ましろのご機嫌を取っておいた方がいいよな。


「あぁ、もうわかったよ。100万人達成したら何でも言うこと聞いてやるよ」


 もうやけくそだ! チャンネル登録者100万人達成のためなら、ましろのご機嫌でも何でも取ってやろうじゃないか!


「やったー! リスナーのみんなが証人だからね。約束破ったら、許さないよ!」


:安心しろ、俺たちはましろんの味方だ! 

:ましろん、切り抜きとして物的証拠を残しておくぞ!

:@ハイエナ ましろちゃん、クロちゃんが約束破らないようにFA《ファンアート》形式の契約書を描いて、こっちで発信しておくね!


「ハイエナさん!」


 まさか絵師のハイエナさんまで、ましろの味方になるなんて予想外だった。しかもFA《ファンアート》形式の契約書なんて作らないでよ。


「やった~! ハイエナさん、ありがとう! みんなのおかげでセンパイがボクとの約束を守らないといけない状況になった」


:天使の皮を被った小悪魔ましろん!

:可愛いから許される!

:ましろんは正義!


 自分のリスナーという証人を手に入れたましろは、ドヤ顔でアタシを見ている。しかも配信のアーカイブという証拠映像まで残ってしまっている。もし、証拠隠滅のために今回の配信動画を削除しても、恐らくましろのリスナー達が切り抜き動画として残す可能性もある。


 アタシはチャンネル登録者100万人達成のために、ましろの言うことを何でも聞くという約束を交わす羽目に。


「センパイ。がんばろうね」


「おぅ」


「じゃあ、そろそろ今日の配信は、おしまいかな」


:え~!

:まだ、ましろんの配信みたい!

:延長で ¥10000


「スパチャ、ありがとう! でも、もう閉店で~す。また来てね」


「お前、もう対応の仕方がキャバ嬢だよ」


「てへへ、褒められちゃった」


「いや、褒めてねぇよ! だけど、もう時間も遅いしな」


「そうだね。みなさん、今日もありがとう。これからもボクたちの応援よろしくね。おやすみなさい。おつまし~!」


:ましろん、おやすみ!

:おつまし~!

:良い夢、見ろよ! 10万人達成のご祝儀だ! ¥10000


「またまた、スパチャありがとね」


「みんな、ありがとうな。おやすみなさい。おつクロ~」


:クロ様、おやすみなさい

:今日も楽しい配信ありがとうございました!

:おつクロです!


 アタシたちのチャンネル登録者10万人記念配信は幕を閉じて、明日からチャンネル登録者100万人を目指す活動をしなくちゃな。


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