「みんな、センパイがチャンネル登録者100万人目指すって! 全配信者が達成したい目標の1つだね。みんなも期待してくれているし、やるっきゃないね、センパイ」
ましろ! 相方のお前がアタシの首を絞めてどうするんだよ。
「センパイ、もうやるしかないよ」と舌をペロッと出して子供っぽいいう顔でアタシを見てやがる。どこまでアタシを挑発してくるんだ、こいつは!
「当たり前だろ。アタシはこの世界で頂点を取るんだ!」
「さすが、センパイ! みんな、ボクらは今日から登録者100万人を目指すから応援よろしくね!」
:了解!
:ましろん、ついて行くであります!
:クロちゃん、ましろん、ファイト!
ましろ、これ以上お前のリスナー達を煽るな!
お前のリスナーたち、怖いんだよ。お前を人気配信者にするためなら、犯罪スレスレの行動だってやりかねない。これ以上、焚きつける発言はやめろよ。
まぁ、ましろのおかげでアタシ達の次の目標も決まった。確かにアタシ達を応援してくれるリスナーちゃんの立場からしたら、推しが大きな目標に向かうのは応援のしがいがあるか。
逆にチャンネル登録者10万人に満足して、だらだら配信を続けてもリスナーちゃんが離れる可能性もある。
大きなチャレンジかもしれないけど、ここまで後押しされたらやるしかないか。
アタシも腹を括るしかない!
アタシは、ましろと一緒に『しろ×クロチャンネル』のチャンネル登録者100万人にする!という大目標に向かって走ることに決めた。
「でも、ただ100万に目指すのって普通だよね」
「はぁ? 何を言っているんだ、ましろ?」
「のんびり登録者100万人目指していたら、リスナーさんも面白くないよね」
ましろは、あご下に人差し指を当てて何かを考え込んでいる。
アイツ、このあざといポーズをする時は、ろくでもないことを考えている合図だ。ましろちゃん、これ以上余計なことは言っちゃダメだよ。
お口にチャックしようね。アタシが口元に指を添えてチャックを閉める身振りをして、ましろの発言を止めようとする。
それを見たましろが、いたずらっ子のような悪い笑みを浮かべている。 ましろは何か仕掛けてくる気だ。
:ましろん?
:何か企んでいるな!
:ましろんの暗躍か?
ましろ、頼むから落ち着いてくれ。配信者は発言に注意しないといけないだろ。何気ない一言で簡単に炎上するご時世だから、発言には気をつけような。
「センパイ、半年で100万人達成にしよう!」
「ましろ!?」
:半年で100万人達成!?
:強気ましろん降臨!
:クロちゃん、ましろんを止めて!
半年でチャンネル登録者100万人達成だと!?
フルマラソンどころか、100メートル走じゃないか!
アタシは、ただの配信者だぞ! プロランナーに9秒台を切れ!っていうくらいの無茶ぶりをするな!
「おい、ましろ。落ち着け。確かに期限を決めるのは大事だ。だけど、半年は早すぎるだろ。せめて1年じゃないか?」
「え~センパイ、ビビっているの? 出来ないの」
なんで、アタシを煽ってくるんだ、コイツは!?
目標達成出来なかった契約を切るって言ってくるスポンサー企業みたいだろ! お前はランナーの苦しみがわからないのか!?
それにチャンネル登録者10万人だって、1年かけて達成しただろ。
その10倍の人数を半分の時間で達成するなんて。無謀すぎるスケジュールだろ。
なんだよ、その「え~、センパイできないんですか?」って人を小バカにした顔は? ムカつく! ましろのあおり顔を見ていたアタシの中で何かのスタートを知らせるピストルの音が響く。
「いいよ! 半年で100万人やってやるよ!」
:クロちゃん、ましろんの策略にハマった!
:証拠を残すために切り抜け!
:証言はこっちで抑えたぞ!
もう後戻りできない。ましろ、どうしてアタシを追い詰めるんだよ!
しめしめ、上手くいったぞ!みたいな顔をするな!
「あとあれだね」
「まだ何かあるのか?」
「ダメだった時のことも考えないと」
「はぁ?」
「だって、リスナーさんが折角応援してくれたのに、ただダメでしたならつまらないよ」
:ダメなら、ましろのエロい謝罪ボイスを希望
:仕方ない。ましろんのえっちいボイスで勘弁してやるか
:えっちな企画なら何でも
「おい、ましろ! お前のリスナーが暴走しているよ」
:わたしはクロ様の恥ずかしがるボイスでお願いします
:クロ様のエッチイラストもありです
:きゃあ、何がいいかな
「センパイのリスナーちゃんもえっちな奴がいいみたいだよ」
「おい、みんな! ダメだからって嫌らしいことはしないぞ!」
:えー!
:つまらない
:がっかり
「露骨に悲しむなよ」
「確かにセンパイの言うとおりだ。えっちなボイスだけじゃボクらのリスクが少ないよね」
アタシにとってはエロボイスだけでもリスク高いぞ。お前はエロボイスで荒稼ぎしているから全く抵抗ないだけだろ。
「そうだ! ダメならボクたちが引退ってどうかな?」
「はぁ!?」
:ましろん、やりすぎ!
:断固阻止!
:ましろんリミッターが壊れた!
「ましろ、それはやり過ぎだろ!」
:クロ様、ましろちゃんの暴走を止めて!
:クロ様たちに引退して欲しくない
:ましろちゃん、やめて!
リスナーちゃんも、ましろの暴走を焦っている。
ましろ、いくら配信を盛り上げるためと言ってもリスクがデカすぎるぞ!
「センパイ。ボクら以外にも登録者100万人目指している配信者なんて、たくさんいるんだよ! みんなが本気で目指している。ボクらだって本気だってことをリスナーさんに見せないと!」
ましろがめっちゃ真面なことを言っている。普段、ふざけたボケしか言わないのに。こういう時だけ真面目なことを言うなよ!
確かに、チマチマ100万人登録者目指すよりも半年でダメなら引退の方がリスナーちゃんたちも見ていてワクワクするし、応援したくなるよな。
「まぁ、ビビりのセンパイには重すぎるかな。100万人は諦めて別の目標にした方がいいかな」
おいおい、ましろちゃん? 誰がビビりだって?
アタシのことかい? アタシも舐められたもんだな。クロナさん、カチンと来ちゃいましたよ!
ましろに煽らてアタシの中にあったはずのブレーキは完全に壊れた。
「誰がビビりだ! やってやるよ! 半年でダメなら引退してやるよ!」
「おぉ、さすがセンパイ」
:これは大事件だ!
:号外、号外! 企画失敗したら、クロちゃんが引退!
:いや、ましろんも道ズレ!
ましろはアタシの目の前パチパチと賞賛の拍手を送るも、その顔は「センパイ、やっちゃいましたね!」と小バカにしている。
お前って奴は、相方を弄んで楽しいのかよ。
:クロ様、私たちはクロ様を応援します!
:友達、友達の家族を登録させます!
:クロ様の素晴らしさを布教します!
「リスナーちゃん……」
キミたちだけだよ。アタシを純粋に応援してくれるのは。
あとは、アタシをおもちゃにして楽しむ
でも、アタシも覚悟決めた! 応援してくれるリスナーちゃんのためにも登録者100万人をやるぞ!
「センパイ、みんな応援してくるからがんばろ!」
「あぁ」
アタシの思い描いていた未来予想図は、ましろによって完全に崩壊させられてしまった。たった半年でチャンネル登録者100万人にする。達成できなかったら、配信者を引退する。
アタシは、どれだけ自分の首を絞めたら気が済むんだ。ドMじゃないだぞ。そんな困り果てたアタシを、ましろが嬉しそうに見ている。お前は、可愛い顔をして、どんだけドSなんだよ!
アタシは、もう疲れたよ。アタシは心の中で、ため息を漏らす。