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第3話 100万に達成出来なかった引退します!?

「みんな、センパイがチャンネル登録者100万人目指すって! 全配信者が達成したい目標の1つだね。みんなも期待してくれているし、やるっきゃないね、センパイ」


 ましろ! 相方のお前がアタシの首を絞めてどうするんだよ。


「センパイ、もうやるしかないよ」と舌をペロッと出して子供っぽいいう顔でアタシを見てやがる。どこまでアタシを挑発してくるんだ、こいつは!


「当たり前だろ。アタシはこの世界で頂点を取るんだ!」


「さすが、センパイ! みんな、ボクらは今日から登録者100万人を目指すから応援よろしくね!」


:了解!

:ましろん、ついて行くであります!

:クロちゃん、ましろん、ファイト!


 ましろ、これ以上お前のリスナー達を煽るな!

 お前のリスナーたち、怖いんだよ。お前を人気配信者にするためなら、犯罪スレスレの行動だってやりかねない。これ以上、焚きつける発言はやめろよ。


 まぁ、ましろのおかげでアタシ達の次の目標も決まった。確かにアタシ達を応援してくれるリスナーちゃんの立場からしたら、推しが大きな目標に向かうのは応援のしがいがあるか。

 逆にチャンネル登録者10万人に満足して、だらだら配信を続けてもリスナーちゃんが離れる可能性もある。


 大きなチャレンジかもしれないけど、ここまで後押しされたらやるしかないか。

 アタシも腹を括るしかない!

 アタシは、ましろと一緒に『しろ×クロチャンネル』のチャンネル登録者100万人にする!という大目標に向かって走ることに決めた。


「でも、ただ100万に目指すのって普通だよね」


「はぁ? 何を言っているんだ、ましろ?」


「のんびり登録者100万人目指していたら、リスナーさんも面白くないよね」


 ましろは、あご下に人差し指を当てて何かを考え込んでいる。

 アイツ、このあざといポーズをする時は、ろくでもないことを考えている合図だ。ましろちゃん、これ以上余計なことは言っちゃダメだよ。

 お口にチャックしようね。アタシが口元に指を添えてチャックを閉める身振りをして、ましろの発言を止めようとする。


 それを見たましろが、いたずらっ子のような悪い笑みを浮かべている。 ましろは何か仕掛けてくる気だ。


:ましろん?

:何か企んでいるな!

:ましろんの暗躍か?


 ましろ、頼むから落ち着いてくれ。配信者は発言に注意しないといけないだろ。何気ない一言で簡単に炎上するご時世だから、発言には気をつけような。


「センパイ、半年で100万人達成にしよう!」


「ましろ!?」


:半年で100万人達成!?

:強気ましろん降臨!

:クロちゃん、ましろんを止めて!


 半年でチャンネル登録者100万人達成だと!?

 フルマラソンどころか、100メートル走じゃないか!

 アタシは、ただの配信者だぞ! プロランナーに9秒台を切れ!っていうくらいの無茶ぶりをするな!


「おい、ましろ。落ち着け。確かに期限を決めるのは大事だ。だけど、半年は早すぎるだろ。せめて1年じゃないか?」


「え~センパイ、ビビっているの? 出来ないの」


 なんで、アタシを煽ってくるんだ、コイツは!?

 目標達成出来なかった契約を切るって言ってくるスポンサー企業みたいだろ! お前はランナーの苦しみがわからないのか!?

 それにチャンネル登録者10万人だって、1年かけて達成しただろ。

 その10倍の人数を半分の時間で達成するなんて。無謀すぎるスケジュールだろ。


 なんだよ、その「え~、センパイできないんですか?」って人を小バカにした顔は? ムカつく! ましろのあおり顔を見ていたアタシの中で何かのスタートを知らせるピストルの音が響く。


「いいよ! 半年で100万人やってやるよ!」


:クロちゃん、ましろんの策略にハマった!

:証拠を残すために切り抜け!

:証言はこっちで抑えたぞ!


 もう後戻りできない。ましろ、どうしてアタシを追い詰めるんだよ!

 しめしめ、上手くいったぞ!みたいな顔をするな!


「あとあれだね」


「まだ何かあるのか?」


「ダメだった時のことも考えないと」


「はぁ?」


「だって、リスナーさんが折角応援してくれたのに、ただダメでしたならつまらないよ」


:ダメなら、ましろのエロい謝罪ボイスを希望

:仕方ない。ましろんのえっちいボイスで勘弁してやるか

:えっちな企画なら何でも


「おい、ましろ! お前のリスナーが暴走しているよ」


:わたしはクロ様の恥ずかしがるボイスでお願いします

:クロ様のエッチイラストもありです

:きゃあ、何がいいかな


「センパイのリスナーちゃんもえっちな奴がいいみたいだよ」


「おい、みんな! ダメだからって嫌らしいことはしないぞ!」


:えー!

:つまらない

:がっかり


「露骨に悲しむなよ」


「確かにセンパイの言うとおりだ。えっちなボイスだけじゃボクらのリスクが少ないよね」


 アタシにとってはエロボイスだけでもリスク高いぞ。お前はエロボイスで荒稼ぎしているから全く抵抗ないだけだろ。


「そうだ! ダメならボクたちが引退ってどうかな?」


「はぁ!?」


:ましろん、やりすぎ!

:断固阻止!

:ましろんリミッターが壊れた!


「ましろ、それはやり過ぎだろ!」


:クロ様、ましろちゃんの暴走を止めて!

:クロ様たちに引退して欲しくない

:ましろちゃん、やめて!


  リスナーちゃんも、ましろの暴走を焦っている。

 ましろ、いくら配信を盛り上げるためと言ってもリスクがデカすぎるぞ!


「センパイ。ボクら以外にも登録者100万人目指している配信者なんて、たくさんいるんだよ! みんなが本気で目指している。ボクらだって本気だってことをリスナーさんに見せないと!」


 ましろがめっちゃ真面なことを言っている。普段、ふざけたボケしか言わないのに。こういう時だけ真面目なことを言うなよ!

 確かに、チマチマ100万人登録者目指すよりも半年でダメなら引退の方がリスナーちゃんたちも見ていてワクワクするし、応援したくなるよな。


「まぁ、ビビりのセンパイには重すぎるかな。100万人は諦めて別の目標にした方がいいかな」


 おいおい、ましろちゃん? 誰がビビりだって? 

 アタシのことかい? アタシも舐められたもんだな。クロナさん、カチンと来ちゃいましたよ!

   ましろに煽らてアタシの中にあったはずのブレーキは完全に壊れた。


「誰がビビりだ! やってやるよ! 半年でダメなら引退してやるよ!」


「おぉ、さすがセンパイ」


:これは大事件だ!

:号外、号外! 企画失敗したら、クロちゃんが引退!

:いや、ましろんも道ズレ!


 ましろはアタシの目の前パチパチと賞賛の拍手を送るも、その顔は「センパイ、やっちゃいましたね!」と小バカにしている。

 お前って奴は、相方を弄んで楽しいのかよ。


:クロ様、私たちはクロ様を応援します!

:友達、友達の家族を登録させます!

:クロ様の素晴らしさを布教します!


「リスナーちゃん……」


 キミたちだけだよ。アタシを純粋に応援してくれるのは。

 あとは、アタシをおもちゃにして楽しむ相方ましろとそいつの支援者リスナーだけ。


 でも、アタシも覚悟決めた! 応援してくれるリスナーちゃんのためにも登録者100万人をやるぞ!


「センパイ、みんな応援してくるからがんばろ!」


「あぁ」


 アタシの思い描いていた未来予想図は、ましろによって完全に崩壊させられてしまった。たった半年でチャンネル登録者100万人にする。達成できなかったら、配信者を引退する。


 アタシは、どれだけ自分の首を絞めたら気が済むんだ。ドMじゃないだぞ。そんな困り果てたアタシを、ましろが嬉しそうに見ている。お前は、可愛い顔をして、どんだけドSなんだよ!

 アタシは、もう疲れたよ。アタシは心の中で、ため息を漏らす。

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