「ねぇ、センパイ」
「どうした、ましろ?」
「大喜利……すべったね」
それ以上言うな。ましろの思い付きで大喜利大会をやってみたが、お笑いスキルのないアタシたちにリスナちゃんを満足させられるだけのネタを披露できなかった。
:ましろん、ドンマイ!
:すべっても可愛いよ!
:ましろんは存在するだけでOK!
「リスナーさん、ありがとう!」
「おい、お前ら。ましろを甘やかすな」
:クロちゃんはお笑いスキル磨いた方がいい
:大喜利をもっと勉強しな
:ましろんの足を引っ張らないでね
「なんで、アタシが責められているんだ!」
「しょうがないよ。センパイの大喜利力がボクの予想以上に低かったから」
「アタシは芸人じゃない!」
:え! イケメン芸人じゃないの!
:ラーメン、つけ麺の人じゃなかったの!
:クロちゃんです!の人じゃないの!?
ましろのリスナーたちまで、アタシをおもちゃにし始めている。
まぁ、コイツらが失礼なのは今に始まったことじゃない。
ましろと一緒に配信を始めた時から、アタシを目の敵にしている。
もう、チャンネル登録者10万人達成する『しろ×クロちゃんねる』の一員として認めて欲しいよ。
「まぁ、センパイが芸人であるか、ないかは置いておいて」
「おい、置いておくなよ!」
:ましろん、ナイスボケ!
:ましろんのボケセンスは完璧
:クロちゃんも見習わないと
「おい、お前ら! ましろに甘すぎだぞ」
「みんな、やさしいからね。いつもありがとう」
:ましろちゃんのボケに振り回されているクロ様も可愛い
:ましろちゃん、ナイス!
:可愛いクロ様に目が離せない
アタシのリスナーちゃんまでが敵に回り始めている?
四面楚歌って、こういう時に使うのかな?
「センパイ、クールキャラでいなきゃって力入れずに、のんびりやろうよ」
「ましろ」
そうだな。アタシたちは”お互いに気張りすぎないでやる”をモットーにこのチャンネルを始めたんだ。
ポンコツなアタシを喜んでくれるリスナーちゃんがいるなら、それでもいいか。
「だけど、あまりポンコツにならないでね」
コイツ、ちょいちょい心を抉ってくるな。このあざと女子代表め!
「そういえば、センパイ」
「なんだ、ましろ?」
「ボクらの目標のチャンネル登録者10万人達成したけど、これからどうしよう?」
「そうだな」
アタシ達はチャンネル開設当初、チャンネルの収益化のため”チャンネル登録者10万人”を目標に掲げて活動をスタートさせた。
リスナーちゃん達に良い配信をしたいという気持ちは、もちろんある。
でも、アタシ達にも生活がある。アタシ達は配信以外に仕事と呼べることを何もしていない。
リアルのアタシ達は、アタシが清掃のバイトで、ましろは無職。今は声優時代の貯金を切り崩して生活しているらしい。
アタシも諸事情で貯金がほとんどない。清掃のバイトだけじゃ全然暮らしていけない。そんな時、ましろに「ボクのマンションに一緒に住みませんか?」と誘ってくれた。それからアタシは、ましろのマンションに居候させてもらっている。
ましろも声優時代の貯金だけでは暮らしていけないと思って配信者として活動することを計画していた。アタシも声を使った仕事である配信者に興味があった。ましろに一緒に活動したいとお願いして共同チャンネル『しろ×クロちゃんねる』を立ち上げた。
チャンネルを収益化させるため、登録者10万人が最低条件だ。
配信中にスパチャという臨時収入をもらえることもあるけど、それだけで生活するのは厳しい。チャンネルの収益化という安定した収入が欲しいという気持ちでアタシ達は今日まで走ってきた。
だけど、リスナーちゃんのおかげで目標である”チャンネル登録者10万人”を達成して、『しろ×クロチャンネル』は収益化の称号を掴むことが出来た。
チャンネル登録者10万人という大きな目標を達成してしまって、アタシは一種の燃え尽き症候群みたいな状態になっている。
ここまでリスナーが増えてチャンネルも大きくなった。何か次の大きな目標を決める時期が来た。ましろとも話し合ったが特に目標が決まらないまま、今日のチャンネル登録者10万人記念配信を迎えてしまった。
アタシは頭の片隅で次の目標が何が良いかな?という疑問が頭の中を行ったり来たりしている。
:クロ様、次の目標はありますか?
:聞きたいです!
:わくわく!
来ちゃったか。リスナーちゃん達がアタシが触れて欲しくない質問をコメント欄に投げかける。
リスナーちゃん達も気になっているな。そうだよな。目標もなく、だらだら配信をやっているだけのアタシ達を応援したくないよな。
折角、ここまで着いてきてくれたリスナーちゃんを悲しませないためにも何か目標を立てないとな。
「センパイ、リスナーさん達も気になっているよ」
「う~ん、何が良いかな?」
「そうだ! リスナーさんに訊いてみない?」
「いいのか? リスナーちゃんに丸投げみたいじゃないか!?」
「ボク達はリスナーさんのおかげで10万人達成できたんだよ。今度は恩返しの意味も込めて、どんなボク達を見たいかその
なるほど。ましろの考えも一理あるな。アタシ達はリスナーちゃんあっての存在だ。リスナーちゃん達が見たい姿を見せるのが仕事だ。そのヒントをもらえるかもしれない。
「そうだな。リスナーちゃん達に訊いてみよう」
「OK! みなさん、今の聞いたよね? これからボク達がどんな目標を掲げて活動して欲しいかコメント欄に書いてください。お願いします!」
:2人の3D配信での生トーク
:2人の顔出し配信
:ベタだけど、登録者100万人!
「いや、顔出しは無理だよ! 顔出しが恥ずかしいから配信者をやっているのに」
「ボクは別にいいけど……でも、恥ずかしい」
:ましろん、かわいい
:照れましろん、助かる
:ましろんの照れボイス、サンキュー
こいつ、リアルの顔も自信ありのくせに。何が顔出しは、恥ずかしいだよ。その顔で高校時代にどれだけの男子を弄んだことか。
まぁ、ましろのボケはスルーしよう。それにしてもリスナーちゃん達はアタシ達にやって欲しいことがこんなにあるなんて。
こうやって求められることは嬉しいな。
でも、現実的に出来そうなものがほとんどないな。
3Dライブか。正直、やってみたいけど。配信キャラの3D化はめちゃくちゃお金が掛かる。それよりもアタシは歌が苦手だ。それもあって歌配信を極力しないように、ましろと話し合っている。
「登録者100万人か」
配信者として活動する人間が誰もが目指したい目標の定番だ。
だけど、チャンネル登録者10万人に増やすのだって大変だったのに。その10倍を目指すなんて、ちょっと無謀な気もするな。
:クロ様達のファンを増やすためにいいかも
:その瞬間を見たいです!
:私も!
さっきまで3Dライブが良いと言っていたリスナーちゃんたちがアタシの呟きに反応している。その結果、チャンネル登録者100万人の一択になっている!
:クロちゃん、険しい道を選ぶか
:流石、漢の中の男の娘ですな
:わしは止めんぞ
「誰が男の娘だ! アタシは……」
おいおい、みんな落ち着け! 確かに配信者が全員掲げる定番の目標だけど、簡単じゃないぞ。登録者100万人を目指します!って宣言してその目標が達成できなくて引退した配信者をアタシはたくさん見ている。
「わぁ、チャンネル登録者100万人だって! 凄い目標だよ、センパイ」
「そうだな……」
「でも、センパイ。みんなが見たいって言っているよ」
ましろの奴。アタシが登録者100万人を目指すと宣言させようとしている。アタシがこういう断りづらい状況が苦手と知って仕掛け来てる。
「さぁ、どうするクロちゃん?」とアタシは試すようにニヤニヤした顔でこっちを見ている。
「わかったよ! アタシ達は登録者100万人目指す!」
:キター!
:クロちゃんが登録者100万人宣言!
:前言撤回前に拡散だ!
やば、ましろに唆されて言っちゃった。今更配信のノリで言っちゃいましたなんて言えない。
リスナーちゃんを焚きつけちゃって100万人目標に対するコメントでコメント欄がいっぱいだ。
もう訂正出来ない。しかもアーカイブにも残るから物的証拠もある。ましろが「センパイ、やっちゃったね」という小バカにした顔でニヤニヤしてやがる。ムカつく!