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第6章 - 闇の呼び声

アザゼルとの予期せぬ遭遇から七日が経った。それ以来、アレックスは自由な時間のすべてをフレイヤとの訓練に費やし、限界を押し広げるように戦い続けていた。


近くの木の下に座るルナは、微笑みながらアレックスを見守り、励ましの言葉を送る。その間も、彼はフレイヤの素早い攻撃を必死にかわしていた。


風が木々の間を吹き抜ける中、アレックスは鋭い動きでフレイヤへ突進し、右腕から風の刃を放つ。しかし、フレイヤは軽々とそれをかわし、素早く横へ滑り込むと、鋭い蹴りを繰り出す。アレックスは咄嗟に風の盾を展開し、なんとかその一撃を防いだ。


少し離れた場所で、アザゼルが腕を組んで彼らの戦いを観察している。


「速いが、まだ正確さに欠けるな…」と、彼は小さく呟く。「目覚めたばかりにしては強いが、無駄な動きが多すぎる。」


「頑張れ、アレックス!負けないで!」ルナが両腕を振りながら声を上げる。


フレイヤは微笑を浮かべ、再び攻撃を仕掛ける。アレックスも反撃を試みるが、彼女の方が速かった。アレックスの拳をひらりとかわし、鋭い肘打ちを脇腹に叩き込む。


アレックスは数歩後退し、荒い息を吐く。しかし、その顔には笑みが浮かんでいた。


「良くなってきたわね。」フレイヤが姿勢を緩めながら言う。「でも、攻撃の時にまだ隙が多いわ。」


「分かってる。」アレックスは腕を軽く振りながら答えた。「でも、少なくとも前みたいに毎回吹っ飛ばされることはなくなったよな。」


「それは確かに。」フレイヤは笑う。


その時、アザゼルがゆっくりと歩み寄り、いつもの気怠げな表情で口を開く。


「悪くないな、坊主。」


「でも、まだ単調すぎる。」


「お前が言うのか、"堕天使"?」アレックスが眉を上げる。


アザゼルは楽しげに微笑む。


「アドバイスなら山ほどあるが、今は様子を見たい。だが、本当に挑戦が欲しいなら…」


彼が言い終わる前に、空気が一変した。冷たい波動が辺りを包み込む。


アレックスはすぐに警戒し、フレイヤも身構える。ルナは突然の寒気に思わず自分の腕を抱いた。


「…これは?」アレックスが低く呟く。


その瞬間、黒い影が現れた。一匹のコウモリが突如として空中に現れ、近くの岩にとまる。その目が赤く輝いたかと思うと、影のような霧に包まれながら人の形へと変わった。


そして、深く響く声が静寂を破る。


「ほう…こいつが新たなケツァルコアトルのアバターか。」


アレックスは拳を固く握りしめる。


「お前は誰だ?」


謎の男は不敵に笑い、鋭い牙をのぞかせる。


「サマエルと呼べばいい。…敵意はない、まだな。」


「ただ、神々や悪魔たちの注目を集めた少年を見ておきたかっただけだ。」


アザゼルは大きくため息をつき、髪をかき上げる。


「やれやれ…そのうち来るとは思ってたがな。」


サマエルは皮肉げに首を傾げる。


「何をそんなに驚く、アザゼル?神々の戦いは我々にも関係しているのだよ。」


アレックスは息を呑む。神々のアバターだけでなく、今度は悪魔までもが彼に興味を持ち始めたのか。


「それで、何の用だ?」アレックスは鋭い目でサマエルを睨む。


悪魔はニヤリと笑い、腕を組む。


「お前に取引を持ちかけに来た…断れないかもしれない提案をな。」


サマエルの存在が空間を歪めるかのように、周囲の空気が重くなる。ルナは震えながらスカートの裾を握りしめ、フレイヤとアザゼルは鋭い視線をサマエルに向けた。


「取引?」アレックスは警戒を解かずに問い返す。「俺は悪魔と交渉するつもりはない。」


サマエルは肩をすくめ、余裕の笑みを浮かべる。


「今はな。」彼はゆっくりと言葉を紡ぐ。「だが、このまま進めば、いずれはそうせざるを得なくなる。」


アレックスの表情が険しくなる。


「それはどういう意味だ?」


サマエルはわざとらしくため息をつく。


「いいか、坊や。神々の戦争はただの権力争いじゃない。ただの覇権争いでもない。もっと大きな問題が絡んでいる。」


一拍置き、アレックスの表情を観察する。


「多くの神々とアバターたちは、このトーナメントが次の偉大な神を決めるためのものだと思っている。だが、それはただの建前にすぎない。」


フレイヤが歯を食いしばる。


「建前…?じゃあ、本当の目的は何?」


サマエルの笑みが深まる。


「真の戦いさ。」


「前回の戦争で、エロヒムのアバターがその座を拒んだことで、宇宙の均衡が崩れた。それを埋めるために、神々はまたトーナメントを開いたんだ。」


アレックスは腕を組む。


「それで?お前たち悪魔はどう関係している?」


「簡単な話だ。我々は神々の茶番には興味がない。ただ、その裏に隠された真実には関心がある。」


サマエルは一歩前に進み、楽しげにアレックスを見つめる。


「そして、お前もな。」


アレックスの心臓が早鐘を打つ。


「どういう意味だ?」


「お前は"異分子"だからだ。」サマエルは冷たく微笑む。「お前の存在は本来、この戦いの枠組みに入るはずがなかった。」


沈黙が流れる。


「だからこそ、俺は提案する。」サマエルは静かに続ける。「我々と手を組めば、他のアバターを超える力を与えよう。」


アレックスは目を細める。


「断ったら?」


サマエルの笑みが鋭くなる。


「その時は…我々も敵に回ることになるな。」


ルナが息を呑み、フレイヤが前に出る。


「宣戦布告か?」


サマエルは手を振る。


「まだ早いさ。ただ、覚えておけ。世界に

はもっと恐ろしい存在がいる。」


そう言い残し、サマエルは影と共に姿を消した。


静寂が訪れる。


「アレックス…」ルナが心配そうに彼を見つめる。


しかし、彼は一点を見つめ、拳を握る。


「俺は…もっと強くなる。」


風が木々を揺らす。戦いはまだ始まったばかりだった。


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