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第5章 – 神のアバター

アザゼルは気楽に椅子の背にもたれかかりながら、コーヒースプーンを指で転がしていた。


「ところで…クエツィ、お前はもう彼らに話したのか? 前回の戦争で勝者となったアバターの話を」


アレックスは目を細め、ククルカンを見た。以前、彼がその質問を避けたことを思い出した。


「そういえば、お前ははぐらかしてばかりだったな。」

腕を組み、期待を込めた表情で続けた。

「今度こそ答えてくれるのか? それともまた誤魔化すつもりか?」


ククルカンは舌打ちしたが、それよりも早くアザゼルが嘲笑を漏らした。


「こいつが話さない理由は単純さ…羽毛蛇の誇りがまだそれを受け入れられないだけだ。」


「黙れ、アザゼル…」 ククルカンは苛立ちを隠さずに唸った。


アザゼルは楽しそうに微笑んだ。


「事実は単純だよ、坊や。ククルカンの偉大なるアバターは、そのアバターに敗れた。そして彼だけじゃない、多くの者がな。その上…誰一人として、そのアバターに本気を出させることすらできなかったんだ。」


その言葉に場の空気が一変した。


「…なんだと?」 アレックスは驚きを隠せなかった。


フレイヤは眉をひそめ、これまで沈黙していたルナは胸元のロザリオをぎゅっと握りしめた。


「そう、それほどバカげた話さ。」 アザゼルは続けた。

「あいつは戦争に勝ったが、大した努力もしていなかったんだよ。」


ククルカンは深くため息をついた。


「そこまで言う必要はないだろう…」


「おいおい、いつから真実を語るのが恥ずかしくなったんだ?」


アレックスはテーブルに肘をつき、ククルカンをまっすぐ見つめた。


「それで? そのアバターとは誰なんだ?」


ククルカンはしばらく沈黙し、そして渋々と答えた。


「…お前たちがよく知っている人物だ。」


三人は息をのんで待った。


「最後の戦争で勝者となったアバター…それは——イエス・キリストだ。」


カフェテリアの空気が凍りついた。


最初に反応したのはルナだった。


「…イエス?」 彼女は信じられないというようにロザリオを握りしめた。


「ああ、そうだ。」 ククルカンは肩をすくめた。

「エロヒム、つまり聖書の神のアバターだ。まあ、神の名前なんて多すぎるけどな…まるで気取り屋の有名人みたいに。」


アザゼルは笑った。


「お前も名前がたくさんあるだろう? ククルカン。」


ククルカンは鋭い視線を投げかけた。


「それとこれは違う。」


一方、ルナはまだ事実を飲み込めずにいた。


「…もし彼が勝ったのなら、その後どうなったの?」


ククルカンは彼女を見つめ、次にロザリオの十字架に視線を移した。


「それはもう知っていることだ。」 彼の声はどこか重く響いた。

「彼は勝利を手にしながらも、その座を求めなかった。彼の神を独り玉座に残し、人々を助けるために世界を巡る道を選んだんだ。」


「…勝利を放棄した?」 アレックスは信じられないというように聞き返した。


「ああ、興味がなかったんだ。」 ククルカンは続けた。

「だが、敗北した神々はそうはいかなかった。彼らは力を失い、次の戦争まで待つしかなくなった…もしくは、勝者の神が死ぬことを願うしかなかった。」


アレックスは背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「…だが、それを良しとしない者もいた。」 ククルカンの声は苦々しかった。

「直接手を下すことはできないが、彼らは残された力を振り絞り、エロヒムの守護者たちを操ってイエスを裏切らせたんだ。」


ルナは胸に手を当て、息を詰まらせた。


「それって…」


ククルカンは静かにうなずいた。


「成功したのさ。」 彼はルナのロザリオを指差した。

「そして…彼が守ろうとした人々自身に裏切られ、最期はその十字架の上で果てたんだ。」


ルナの体が震え、アレックスとフレイヤは沈黙したまま、話の重みを噛み締めていた。


アレックスは拳を握りしめた。


「…なら、勝者になる意味って、一体何なんだ?」


ククルカンは静かに彼を見つめた。


「それを知るのは、お前自身だ、アレックス。」

「何千年もの間、勝者のアバターが座についたことはない。だから正直なところ、俺にも分からないし…フレイヤも覚えていないだろう。」


その瞬間、フレイヤの神霊が彼女のアバターを通じて現れ、静かに言葉を紡いだ。


「…その通りね。」 フレイヤは頷いた。

「私も、イエスより前の勝者が何をしたのかは覚えていない。」


彼女は少し考え込んだ後、ふと疑問を口にした。


「でも、一つ仮説があるわ。」


アレックスは眉をひそめた。


「仮説?」


「ええ。」 フレイヤは指を顎に当て、考えるような仕草をした。

「そのアバターは…絶対的な力を使い、全ての神々の記憶を消したのかもしれない。」


「…なぜ?」 アレックスは疑問を投げかけた。


「そこが分からないのよ。」 フレイヤはかすかに眉を寄せた。

「もしそれが

本当なら、なぜそんなことをする必要があったのか…理由が見当たらない。」


沈黙が降りた。


アバター戦争——それは単なる神々の戦いではなかった。

裏切り、犠牲、そして世界の運命を決定づける選択の連続。


そして今、アレックスはその中心にいた。


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