アザゼルはフレイヤの反応とアレックスの慎重な視線を見て、軽く笑った。一歩後ろに下がり、まるで何も気にしていないかのように悠々と伸びをした。
「フレイヤ、フレイヤ… そんなに警戒しなくてもいいじゃないか。俺は戦いに来たわけじゃないさ」
彼は片方の口角を上げて微笑んだ。
「じゃあ、一体何しに来たのよ?」
フレイヤは苛立ちを隠さずに言い放った。
アザゼルはため息をつき、カフェの天井をちらりと見上げた後、再びアレックスに視線を戻した。
「昔、神々とそのアバターたちは、互いに争い続けていた。それぞれのプライドのために、同盟を結ぶことすら考えずにな。ただの混乱だったよ……だが、今回は違う」
彼の表情がわずかに真剣になる。
「今の時代、権力を持つアバターたちは、過去のそれとは比べものにならないほど危険で、しかも結束している。もはやただの小競り合いじゃない…彼らは組織化されているんだ」
アレックスは眉をひそめた。
「それが俺と何の関係がある?」
アザゼルは笑った。
「簡単な話さ。かつて俺は彼らのライバルだったが、もうこの神々の戦争には興味がない。何しろ、俺は堕ちた身だからな」
フレイヤは疑いの眼差しを向けた。
「つまり、傍観するってこと?」
アザゼルは首を横に振り、微笑んだ。
「いや、逆さ。俺は助けたいんだ」
その言葉にフレイヤもケツァルコアトルも驚いた。
「助ける? 」
フレイヤは信じられない様子で問い返した。
アザゼルはアレックスをまっすぐに見つめた。その表情は読み取りづらい。
「エラゴンを倒したことで、お前は多くのアバターや神々の祝福を受けた。それどころか、一部の悪魔からもな……だが、その一方で、お前は強大な敵も作った。エラゴンはこの戦争の単なる戦士ではない。彼はある神々と悪魔たちの計画の駒だった。そして、その駒が消えた今、やつらはお前を狙いに来るだろう」
アレックスは拳を握りしめた。
「お前が俺を助けて、何の得がある?」
アザゼルは肩をすくめた。
「まぁ…単純に、この世代のアバターがゲームのルールをぶち壊していくのを見るのが面白いってことさ。それに……」
彼の目が鋭く光る。
「俺は、神々が好き勝手に運命を操るのが気に食わないんだよ」
アレックスの心にいるケツァルコアトルが不機嫌そうに唸った。
「チッ……こいつの厄介なところは、決して本当のことを全部言わないことだ」
「それと……」
アザゼルはチラリとケツァルコアトルを見て、からかうように笑った。
「まさか、"ケツィ" まで残っていたとはな」
「俺をそんな風に呼ぶな、このクソ野郎!」
アレックスの脳内でケツァルコアトルが激怒する。
アザゼルは大笑いした。
「ははは、お前は昔から変わらないな」
アレックスは二人のやり取りを見つめながら、アザゼルを信用していいのか分からずにいた。
「つまり……俺を助けたいと言っているのか?」
アザゼルは頷く。
「その通りさ。気に入るかは別としてな、お前にとってこれからが本番だ」
アレックスの背筋に冷たいものが走
る。
知らぬ間に、エラゴンを倒したことで彼は何か巨大なものを動かしてしまったのかもしれない。
そして今、堕天の悪魔が彼の側につこうとしていた。