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第1章 V2: 決意と新たな同盟


アレックスはルナを部屋に寝かせ、静かに毛布を掛けた。彼女の顔は穏やかで、戦いの混乱の後に訪れたこの静寂が、少しの安堵を与えてくれた。アレックスは扉の前でしばらく立ち止まり、彼女を見つめた。まるで、わずかな動きでこの平穏が壊れてしまうかのようだった。


彼の頭の中には、エラゴンとの戦いの記憶がこだましていた。叫び声、怒り、そして何よりも傷ついたルナの姿——その光景が彼の心に深く刻まれた。「こんなことは二度と繰り返させない」そう誓いながら、静かに扉を閉めた。


夜の街を歩きながら、冷たい空気が彼の頭をすっきりさせる。しかし、心の重みは消えなかった。アバターとしての自分のあり方を考えた。エラゴンとの戦いは、自分がまだ未熟であることを痛感させた。勝つことはできたが、それは自分の実力ではなく、理解しきれていない力が絶望の中で目覚めたに過ぎなかった。


「俺はまだ、十分に強くない」彼は低く呟いた。「もしまた同じことが起きたら……俺はルナも、誰も守れない」


その時、彼の内側からククルカンの声が響いた。落ち着いていながらも、力強い声だった。


「だから本気で鍛えたいのか? 全てを捨ててでも、強くなりたいのか?」


アレックスは迷いなく頷いた。「もう、余計なことに気を取られたくない。ただ、鍛錬に集中したい。俺の弱さのせいで、大切な人たちが傷つくのは耐えられない」


ククルカンはしばらく黙った後、静かに言った。


「ならば、お前には協力者が必要だ。私だけでは足りぬ。お前の訓練に必要な存在がいる——フレイヤのアバターだ。彼女は経験豊富で、お前を鍛える気があるようだ……今のところはな」


フレイヤに助けを求めるという考えは、アレックスにとって少し気が重かった。彼女の態度には、どこか掴みどころのないものを感じていた。しかし、彼女の強さは確かだった。もし本当に強くなりたいのなら、この機会を逃すわけにはいかない。


「わかった」アレックスは答えた。「彼女に話してみる。ただし、ククルカン、はっきりさせておく。これはお前のためじゃないし、神々の争いに巻き込まれたくもない。これは俺自身のため、そして俺の大切な人たちのためにやるんだ」


ククルカンは軽く笑った。「わかっている、アレックス。しかし、それもまたお前の運命の一部なのだ。いずれ理解する時が来る」


***


翌朝、アレックスはフレイヤがいるであろう場所へ向かった。街の外れにある公園——静かで人も少なく、アバターたちが瞑想や休息をする場所だった。


フレイヤは石のベンチに座り、風に舞う木の葉を眺めていた。朝日に照らされた彼女の金髪は輝き、その穏やかな表情は、昨日の戦いの激しさを忘れさせるほどだった。


アレックスが近づくと、フレイヤはわずかに顔を向け、からかうような笑みを浮かべた。


「まあ、これは驚いたわね。英雄様がわざわざ私に何の用かしら? まさか、ルナを助けたお礼を言いに来たわけじゃないでしょうね?」


アレックスは歯を食いしばり、彼女の調子に乗らないように気をつけた。「お前に頼みがある」


フレイヤは眉を上げたが、その表情の余裕は崩さなかった。「頼み? 一体何の?」


「鍛えてほしい」アレックスは真剣な目で言った。「今度こそ本気で。強くならなければならない。ククルカンもお前なら適任だと言っていた」


フレイヤは小さく笑った。「あなたの神がそう言ったの? 興味深いわね。でも、確かにあなたには才能がある……けれど、あなたは頑固でプライドが高い。そんなあなたの訓練は、簡単なものではないわよ?」


「どれだけ辛くても構わない」アレックスはきっぱりと答えた。「ルナのような犠牲を、二度と出したくないんだ」


フレイヤの笑顔がわずかに消えた。アレックスの言葉には、彼女の心を動かす何かがあったようだった。しばらく考えた後、彼女は頷いた。


「いいわ、手伝ってあげる。でも、条件があるわ」


「条件?」アレックスは慎重に聞き返した。


「まず、私の指示には絶対に従うこと。質問や反論は一切なし。次に、訓練を受けるということは、あなた自身の弱さと向き合うことを意味するわ。肉体的な強さだけじゃない。心の弱さともね。それでも覚悟はある?」


アレックスは力強く頷いた。「どんなことでもやる」


フレイヤは、今度は満足げな笑みを浮かべた。「いいわ。その意気よ」


そう言うが早いか、フレイヤは立ち上がり、素早くアレックスの腕を掴んで森の中へと引っ張った。


「最初の教訓よ。戦い方を一から学び直しなさい。今までの知識なんて全部捨てなさい。ここからが本当の訓練の始まりよ」


アレックスはごくりと唾を飲んだが、後ずさることはなかった。これが険しい道になることはわかっていた。

だが、それでも彼は進まなければならない。


ルナのために、大切な人たちのために、そして——自分自身のために。



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