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第20章: 最後の一撃

戦場は荒れ果てた光景だった。

風はなおも激しく吹き荒れ、アレックスとエラゴンの戦いの余韻を運んでいた。

しかし今、完全に戦局を支配しているのはアレックスだった。


彼の槍は風に導かれるかのように精密に動き、一撃ごとに圧倒的な力を放っていた。

エラゴンはかろうじて防御するも、その衝撃に耐えきれず後退を余儀なくされる。


初めて、エラゴンは生まれてこの方感じたことのない感情に囚われた。


それは——恐怖だった。


「お前…何なんだ…?」

震える声で叫びながら、エラゴンは必死に構えを保とうとした。


アレックスは何も答えなかった。

ただ、冷徹な視線をエラゴンに向け続ける。

そこには一片の迷いも、慈悲もなかった。

彼が歩を進めるたび、空気が重くなり、まるで戦場そのものがエラゴンを拒絶しているかのようだった。


「アペプ…何とかしろ!」

エラゴンは絶望的な叫びを上げ、己の神に助けを求めた。


だが、アペプの声は冷たく響くばかりだった。


「貴様、それでも私のアバターか?

たかが小僧に怯え、我が名を汚すつもりか?

我が力を継ぐ者として、その誇りを見せてみろ!」


その言葉に奮い立たされたエラゴンは、怒りと屈辱に満ちた咆哮を上げる。


「俺が…貴様なんかに負けるわけがない!」


彼は最後の力を振り絞り、剣に全エネルギーを込めた。

暗黒の光を纏った刃が、狂気のように脈動し始める。


地面が割れ、衝撃波が戦場を駆け巡る。

激痛を無視し、己の限界を超えてまで力を解放するエラゴン。


「貴様を粉々にしてやる!」

絶叫と共に、彼はアレックスに向かって突進した。


次の瞬間——


戦場が暗黒の爆発に包まれた。


衝撃波が地を裂き、周囲の木々がなぎ倒される。

煙と砂塵が舞い上がり、辺りは静寂に包まれた。


エラゴンは肩で息をしながら、崩れそうな体で戦場を見渡す。

そして、勝利を確信したかのように、かすれた笑いを漏らした。


「は…はは…やった…俺の勝ちだ…!」

笑いはやがて哄笑へと変わる。


「見たか…!俺は…勝ったんだぞ!」


だが、その笑いはすぐに凍りついた。


強烈な突風が煙を吹き飛ばし、視界が開ける——

そこに立っていたのは、傷一つないアレックスだった。


彼の鎧は眩い光を放ち、槍はさらに威圧感を増していた。

先ほどの一撃など、まるでなかったかのように。


「……嘘だろ…」

エラゴンの顔から血の気が引く。


アレックスは静かに歩みを進める。

足音が戦場に響くたび、エラゴンの恐怖は膨れ上がった。


「ありえない…これは…悪夢だ…」

呆然と呟きながら、エラゴンは必死に後退する。


逃げなければならない——

そう思った瞬間、足がもつれた。


転倒し、背後の岩に追い詰められる。

もはや、逃げ場はなかった。


「や、やめろ!俺を殺すな!」

エラゴンは両手を挙げ、必死に命乞いをした。


アレックスは無言で彼を見下ろす。

槍を構える姿は、まるで神の審判のようだった。


そして、ついに静かに口を開いた。


「お前には降伏する機会を与えた。

それを拒んだのは、お前自身だ。

ならば、その選択の代償を払え。」


エラゴンは震えながら目を閉じた。



アレックスの槍がゆっくりと掲げられる。

その瞬間、風が再び荒れ狂い、戦場の全てが息を呑んだ。


これは、アバター・オブ・ケツァルコアトルとしての彼の運命を決定づける一撃だった。


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