戦場は荒れ果てた光景だった。
風はなおも激しく吹き荒れ、アレックスとエラゴンの戦いの余韻を運んでいた。
しかし今、完全に戦局を支配しているのはアレックスだった。
彼の槍は風に導かれるかのように精密に動き、一撃ごとに圧倒的な力を放っていた。
エラゴンはかろうじて防御するも、その衝撃に耐えきれず後退を余儀なくされる。
初めて、エラゴンは生まれてこの方感じたことのない感情に囚われた。
それは——恐怖だった。
「お前…何なんだ…?」
震える声で叫びながら、エラゴンは必死に構えを保とうとした。
アレックスは何も答えなかった。
ただ、冷徹な視線をエラゴンに向け続ける。
そこには一片の迷いも、慈悲もなかった。
彼が歩を進めるたび、空気が重くなり、まるで戦場そのものがエラゴンを拒絶しているかのようだった。
「アペプ…何とかしろ!」
エラゴンは絶望的な叫びを上げ、己の神に助けを求めた。
だが、アペプの声は冷たく響くばかりだった。
「貴様、それでも私のアバターか?
たかが小僧に怯え、我が名を汚すつもりか?
我が力を継ぐ者として、その誇りを見せてみろ!」
その言葉に奮い立たされたエラゴンは、怒りと屈辱に満ちた咆哮を上げる。
「俺が…貴様なんかに負けるわけがない!」
彼は最後の力を振り絞り、剣に全エネルギーを込めた。
暗黒の光を纏った刃が、狂気のように脈動し始める。
地面が割れ、衝撃波が戦場を駆け巡る。
激痛を無視し、己の限界を超えてまで力を解放するエラゴン。
「貴様を粉々にしてやる!」
絶叫と共に、彼はアレックスに向かって突進した。
次の瞬間——
戦場が暗黒の爆発に包まれた。
衝撃波が地を裂き、周囲の木々がなぎ倒される。
煙と砂塵が舞い上がり、辺りは静寂に包まれた。
エラゴンは肩で息をしながら、崩れそうな体で戦場を見渡す。
そして、勝利を確信したかのように、かすれた笑いを漏らした。
「は…はは…やった…俺の勝ちだ…!」
笑いはやがて哄笑へと変わる。
「見たか…!俺は…勝ったんだぞ!」
だが、その笑いはすぐに凍りついた。
強烈な突風が煙を吹き飛ばし、視界が開ける——
そこに立っていたのは、傷一つないアレックスだった。
彼の鎧は眩い光を放ち、槍はさらに威圧感を増していた。
先ほどの一撃など、まるでなかったかのように。
「……嘘だろ…」
エラゴンの顔から血の気が引く。
アレックスは静かに歩みを進める。
足音が戦場に響くたび、エラゴンの恐怖は膨れ上がった。
「ありえない…これは…悪夢だ…」
呆然と呟きながら、エラゴンは必死に後退する。
逃げなければならない——
そう思った瞬間、足がもつれた。
転倒し、背後の岩に追い詰められる。
もはや、逃げ場はなかった。
「や、やめろ!俺を殺すな!」
エラゴンは両手を挙げ、必死に命乞いをした。
アレックスは無言で彼を見下ろす。
槍を構える姿は、まるで神の審判のようだった。
そして、ついに静かに口を開いた。
「お前には降伏する機会を与えた。
それを拒んだのは、お前自身だ。
ならば、その選択の代償を払え。」
エラゴンは震えながら目を閉じた。
アレックスの槍がゆっくりと掲げられる。
その瞬間、風が再び荒れ狂い、戦場の全てが息を呑んだ。
これは、アバター・オブ・ケツァルコアトルとしての彼の運命を決定づける一撃だった。