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第19章: 目覚める嵐


空気がますます重くなっていく中、アレックスとエラゴンの戦いは続いていた。

足元の地面は戦いの激しさを物語っていた――無数のクレーター、深い亀裂、そしていたるところに刻まれたエネルギーの痕跡。

アレックスの呼吸は荒くなり、動きも次第に鈍くなっていた。

戦いの中で大きく成長を見せたものの、経験と残虐性において勝るエラゴンが、徐々に戦況を支配し始めていた。


「これで終わりか?」

エラゴンは嘲笑しながらアレックスに歩み寄った。

彼の黒い剣が闇のエネルギーを纏い、最後の一撃を加える準備を整えていた。


アレックスは立ち上がろうとしたが、身体は限界に達していた。

全身の筋肉が痛み、呼吸するだけでも苦しい。

辛うじて槍を支えながら、エラゴンがゆっくりと近づいてくるのを見つめるしかなかった。

その表情からは、アレックスの苦しみを楽しんでいることがはっきりと伝わってきた。


すると突然、小さな影がアレックスとエラゴンの間に立ちはだかった。

ルナだった。

その目には強い決意が宿っていたが、小さな手は震えていた。

それでも彼女は両腕を広げ、必死にアレックスを守ろうとした。


「やめて! アレックスを殺させたりしない!」


エラゴンは一瞬、驚いたように瞬きをした後、大きな笑い声を上げた。

その声は戦場に響き渡り、まるで嘲るようにこだました。


「お前が俺を止める? 可愛らしいな」


ルナは一歩も引かなかった。

エラゴンの圧倒的な威圧感に震えながらも、懸命に立ち続けた。


「アレックスは、あなたが思っているよりずっと強い。私は絶対に、あなたなんかに彼を傷つけさせない!」


「感動的だな。でも、お前はただの邪魔者だ」


アレックスが反応するよりも早く、エラゴンは手を伸ばし、ルナの首を掴んだ。

その力は凄まじく、彼女の小さな身体を軽々と持ち上げた。

エラゴンの顔には、さらに歪んだ笑みが浮かんでいた。


「虫けらと遊んでいる暇はないんだよ」


「ルナを放せ!」

アレックスが叫んだが、その声は弱々しく、身体は動かなかった。


エラゴンは容赦しなかった。

彼はルナを戦場の外へと投げ飛ばした。

彼女の身体が岩場に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。

静寂が戦場を支配し、岩に激突した音だけが虚しく響いた。


アレックスの動きが止まった。

目は、倒れたルナの身体に釘付けになった。

息をすることさえ忘れたかのように、彼の胸に満ちたのは、これまで感じたことのない感情だった。


それは、抑えきれないほどの怒り。


風が吹き始めた。

最初は穏やかだったが、次第に激しさを増していく。

枯れ葉や瓦礫が宙を舞い、嵐のように渦を巻いた。


エラゴンは目を細め、片腕を上げて暴風から身を守ろうとした。


「……なんだと?」


突風が鋭く切り裂き、エラゴンの頬に細い傷を刻んだ。

彼は流れる血を指で拭いながら、驚きを隠せなかった。


「ほう……面白い」


アレックスの身体がゆっくりと宙に浮き上がった。

まるで見えない力に支えられるように。


傷が驚異的な速さで癒え、数秒のうちに完全に回復した。


彼の乱れた髪は逆立ち、空のような鮮やかな青に輝いていた。

鎧は軽量化されながらも、より洗練され、強靭な姿へと変貌を遂げた。

そして槍が変化し、より長く、より荘厳なデザインへと進化した。

その先端には、クエツァルコアトルがとぐろを巻くように彫り込まれていた。


アレックスが目を開けた。

そこにあったのは、もはや以前の彼ではなかった。


迷いや温もりは消え去り、残っていたのは冷徹な殺意だけ。


霊体として現れたクエツァルコアトルが、満足げに頷いた。


「ようやく目覚めたな、アレックス。お前自身を受け入れる時が来た」


エラゴンは一歩後ずさった。

彼の胸に、滅多に感じることのない感情が湧き上がる――警戒。


「これが貴様の本当の力か……面白い。これは期待できそうだ」


アレックスは答えなかった。

彼の目に映るのは、ただエラゴンのみ。


「どうした? 何か言うことはないのか?」


「……たった一つだけだ」

アレックスは槍を構えた。

風がさらに激しさを増し、嵐の中心が彼自身であるかのように渦巻いた。


「貴様を……許さない」


次の瞬間、アレックスは驚異的な速度でエラゴンに突進した。

槍がしなやかに、まるで彼の一部のように動いた。


金属音が響き、暴風が彼の攻撃に同調するかのように吹き荒れた。


エラゴンは必死に防御を試みたが、アレックスの一撃一撃がますます強く、精密になっていく。

そしてついに、戦いの流れが逆転した。


剣の化身であるエラゴンが、初めて防戦一方に追い込まれた。


「ハハハ! そうこなくてはな! 俺を楽しませてみろ、ガ

キ!」


しかし、アレックスは何も言わなかった。


彼の目的はただ一つ――エラゴンを倒すこと。


その覚悟を、エラゴンははっきりと感じ取った。


アレックスは、もはや別人だった。


そしてエラゴンも、それを理解していた。


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