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第15章: 過去からの脅威



アレックスは教室に座り、授業に集中しようとしていた。しかし、ルナが先生について小声で話しかけ、彼の注意を引こうとする中、アレックスの心は別のところにあった。最近の訓練やケツァルコアトルが語った迫りくる試練の言葉が頭を離れなかったのだ。


突然、教室の扉が開き、全員の視線がそちらに向けられた。優雅で自信に満ちたフレイヤの堂々たる姿が現れ、その存在感だけで教室は静まり返った。学生たちはフレイヤとアレックスのやり取りを興味津々に見守る。


「アレックス、話があるわ。今すぐよ。」

フレイヤの声は冷たく、拒否を許さない調子だった。


ルナはすぐに立ち上がり、抗議した。

「どういうつもり?勝手に彼を連れ出せると思ってるの?」


フレイヤは冷ややかな笑みを浮かべ、ルナを無視してアレックスだけに話しかけた。

「大事なことよ。あなたに選択肢はない。」


気まずそうにしながらも、アレックスは渋々承諾した。ルナは明らかに不満そうだった。



---


フレイヤはアレックスを校外の静かな場所へ連れて行き、誰にも見られない場所で足を止めた。その表情は真剣そのものだった。

「アレックス、あなたを狙っている者がいる。危険なアバターよ。あなたを殺すまで止まらない。」


アレックスは信じられないように彼女を見つめた。

「何だって?なぜ俺が狙われるんだ?まだ全然何も分かっちゃいないのに。」


フレイヤは腕を組み、鋭い口調で続けた。

「あなた自身の問題じゃないわ。ケツァルコアトルのせいよ。これは古い復讐劇なの。あなたはその渦中に巻き込まれているだけ。」


その時、ルナが隠れて追ってきたのが発覚した。彼女は怒りに満ちた表情でフレイヤに詰め寄る。

「どうしてそんなに色々知ってるのよ?」

驚いたアレックスはルナに声を上げた。

「ルナ、一体何してるんだ?こんなところに来ちゃいけないって…」


フレイヤは深いため息をつき、アレックスに向き直った。

「ほっときなさい。無駄な議論をしている時間はないわ。あなたの神に聞きなさい。彼が全てを知っているわ。」


アレックスはケツァルコアトルを呼び出し、その巨大な神霊の姿が現れた。その存在感は圧倒的で空間を支配しているようだった。しかし、彼が話し始める前に別の存在が現れた。それはフレイヤの神、フレイアだった。彼女は尊敬と挑発が混じった表情でケツァルコアトルに挨拶した。

「久しぶりね、ケツァルコアトル。」

フレイアの声は甘美だが、その裏には危険な気配が漂っている。


「久しぶりだとは思わないな。」

ケツァルコアトルは冷淡に答えた。


フレイヤとルナは無言で、神々の言葉の応酬を見守った。やがてケツァルコアトルは手を上げ、精神世界を作り出した。そこに過去の出来事が映し出される。


アレックス、ルナ、フレイヤはケツァルコアトルが作り出した精神世界へと引き込まれる。空は血のように赤く染まり、広大な戦場が果てしなく広がっていた。


ケツァルコアトルの語り


ケツァルコアトルは低く厳かな声で語り始めた。

「数世紀前、我々神々は、自らの意思を託すためにアバターとして人間界に現れることを決めた。選ばれたのは、我々の意志を担うにふさわしい者たちだった。しかし、その中にただ一人だけ、ルールを受け入れない者がいた。それが混沌と破壊の神、アペプだ。」


風景が変化し、巨大な漆黒のドラゴンが現れる。その瞳は深紅に輝き、鱗は光を吸い込むかのように暗い。爪の下の大地は崩れ落ち、その存在自体が周囲を絶望で包み込んでいた。


「アペプは、神々の均衡を破壊し、神も人間も支配しようとした。彼のアバターに選ばれたのは、常に残虐で無慈悲な者たち。憎悪に支配された人間たちだった。」


風景は、ケツァルコアトルのアバターとアペプのアバターの壮絶な戦いを映し出す。ケツァルコアトルのアバターは、翡翠の鎧をまとい、黄金の槍を携えた勇敢な戦士。一方、アペプのアバターは、純粋な闇でできた巨大な剣を振るう影に包まれた巨人だ。


「当時の私のアバター、イツコアトルは、これまでで最も勇敢な戦士の一人だった。彼はアペプのアバターと何日にもわたる戦いを繰り広げ、その跡には破壊だけが残った。」


風景には激しい戦闘が描かれる。イツコアトルは槍でエネルギーの旋風を呼び起こし、アペプのアバターは影の軍勢を召喚して応戦する。戦いは互角のように見えたが、アペプのアバターが放つ圧倒的な攻撃により、イツコアトルは敗北寸前に追い込まれる。


ケツァルコアトルは一瞬沈黙し、その声はさらに重くなる。

「その時、イツコアトルは究極の犠牲を払った。自身の生命力を全て使い果たし、アペプのアバターを封印し、神そのものを弱体化させ、霊的な領域へと退却させたのだ。」


イツコアトルが勝利の後に膝をつき、鎧が崩れ落ち、光の奔流となって消えていく様子が映し出される。


アレックスは恐れと好奇心が入り混じった声で尋ねた。

「その後、どうなったんだ?」


風景が再び変わり、霊的な姿のアペプが怒り狂いながら、闇の深淵に引きずり込まれる様子が映る。


「アペプはいつか戻ってくると誓った。これまで以上に強大になり、次の私のアバターを真っ先に倒すと。そのために、彼の現在のアバター、エラゴンが君を狙っているのだ。」


フレイアが口を挟む。

「しかし、今回はアペプは一人ではないわ。彼は均衡のない世界を望む他の神々と同盟を結び、この戦争は人間やアバターだけでなく、神々同士の争いでもあるのよ。」


アレックスは状況を飲み込みながら問いかけた。

「それで、俺はどうすればいいんだ?自分の力だって、まだよく分かっていないのに。」


ケツァルコアトルはアレックスを真剣な目で見つめる。

「だからこそ、お前を鍛えている。失敗は許されないのだ。」



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再び現実へ


精神世界が消え去り、一行は元の場所に戻った。だが、会話を続ける間もなく、空が暗くなり、不吉な気配が辺りを包み込む。


遠くから一人の人物がゆっくりと歩み寄ってくる。それはアペプのアバター、エラゴンだった。漆黒の鎧に深紅の装飾をまとい、その威圧感は悪意そのものを体現していた。背中には巨大な剣を背負い、歪んだ笑みが血の渇きを露わにしている。


エラゴンは嘲るような声で言った。

「これがケツァルコアトルのアバターだって?ただのガキじゃないか。失望したよ。」


アレックスが返答する前に、ケツァルコ

アトルが完全な姿で現れ、エラゴンと対峙した。

「お前の神に伝えろ。今回も復讐は成し遂げられないとな。」


エラゴンは笑いながら応える。

「復讐なんて必要ないさ。俺が代わりにやってやる。」


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