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第13章:揺れる心

アレックスは、数日間の厳しい訓練を終え、町の中央広場で一息ついていた。ルナが隣に座り、間近に迫った地元の祭りについて楽しそうに話していた。しかし、その穏やかな雰囲気は突然変わる。遠くからフレイヤが現れ、無邪気な笑顔で手を振りながら彼らに近づいてきたのだ。


ルナはすぐにアレックスの前に立ちふさがり、フレイヤを遮るように動く。

「ここで何してるの?」

その声は一見礼儀正しいが、明らかな不快感がにじみ出ていた。


フレイヤは気にも留めず、穏やかな笑みを保ったまま答える。

「ただ、私たちの愛する勇者様の調子を見に来ただけよ。激しい訓練の後だもの、心配するのは当然でしょ?」

その声には、どこか挑発的な響きが含まれていた。


ルナは眉をひそめ、アレックスの腕を取りながら言い返す。

「アレックスは元気よ。あなたが邪魔する必要なんてないわ。」


アレックスは二人の緊張感を和らげようと、静かに口を開いた。

「ルナ、フレイヤは邪魔なんかしてないよ。ただ挨拶しに来ただけだ。」


しかし、その言葉が終わる前にルナは彼を遮った。

「挨拶なら十分したでしょ。行きましょう、アレックス。」


そう言うと、ルナはアレックスの腕を引き、フレイヤに背を向けた。

「楽しんでね、勇者様。またすぐ会いましょう。」

フレイヤは笑いながらウィンクを送り、ルナの苛立ちを完全に無視した。



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その後、静かな路地を歩いていると、アレックスはルナの行動について考え込み、ついに足を止めた。

「ルナ、一体どうしたんだ?」

彼はルナを真っ直ぐに見つめながら尋ねた。

「フレイヤが現れるたびに、君はそんな態度を取るけど…」


ルナは視線を逸らし、髪の毛をいじりながら小さな声で答えた。

「別に。ただ…彼女を信用していないだけよ。」


アレックスは眉を上げ、納得がいかない様子で言った。

「信用してない?でもそれだけじゃなくて、僕の近くにいるのが嫌なんじゃないの?」


ルナは腕を組み、苛立った表情で彼を見返した。

「あなたを守りたいって思うのはそんなに変?フレイヤはいつもあなたに媚びを売ってる。それに、彼女の本当の意図なんて分からないでしょ?」


アレックスはため息をつき、冷静に応じた。

「フレイヤが何か怪しいことをしたわけじゃないし、僕だって自分の身ぐらい守れるよ。」


ルナはしばらく黙っていたが、やがて静かに呟いた。

「…いつも守れてるわけじゃないけどね。」


その言葉にアレックスは目を見開き、驚いた表情を浮かべた。

「どういう意味?」


ルナは彼の目を見つめ返し、その表情には怒りと心配が入り混じっていた。

「あなたは自分の周りで何が起きているのか、いつも気づいているわけじゃない。訓練やフレイヤのことばかり気にして、最初から一緒にいた人たちのことを忘れてるのよ。」



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その言葉にアレックスは一瞬黙り込んだ。そして、ようやくため息をつきながら、疲れたような笑みを浮かべた。

「ルナ、君がいつもそばにいてくれること、本当に感謝してる。でも、僕を信じてほしい。自分が何をしているのか、ちゃんと分かってるから。」


ルナは視線を落とし、まだ不安そうな表情をしていた。

「ただ…あなたが私から遠ざかってしまうのが怖いだけ。」


アレックスは優しく彼女の肩に手を置き、安心させるように言った。

「そんなことないよ、ルナ。君は僕の大切な友達だ。それに、数日後にあるモトクロスのショーには絶対君を連れて行くし、僕のジャンプは君に捧げるよ。」


ルナはゆっくりとうなずいたが、まだ完全には納得していない様子だった。



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その夜、ルナは自室で昼間の出来事を思い返していた。机の上には、すべてが始まる前に撮った写真が飾られている。それは、町の祭りでアレックスと一緒に笑っている彼女の姿だった。


一方、アレックスも自分の部屋で神槍を見つめながら考え込んでいた。ルナの言葉が心に響いている。そして、フレイヤが語った戦争と犠牲についての言葉も同じように胸に残っていた。



それぞれの場所で、二人は思い悩んでいた。自分が大切に思うものを守るために、一体どれほどのものを犠牲にする覚悟があるのかを。


第13章 終わり


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