空気は、上空からアレックスを見下ろすクエツァルコアトルのエネルギーによって振動していた。まるで獲物を狙う鷹のようだった。アレックスは光の円の中心に立ち、以前の訓練で汗まみれで疲労していたが、今の雰囲気はどこか違っていた。期待感が漂っていたのだ。
クエツァルコアトルは片手をかざし、空を晴らして明るい太陽を露わにした。この訓練のために作られた空間を照らしていた。「アレックス、君は恐怖に耐える力を示した。しかし、それだけでは不十分だ。ただ強くあるだけではなく、君の神聖な武器をも支配しなければならない。その時が来た。」
アレックスは胸の高鳴りを抑えながら、神を見つめた。「僕の神聖な武器?どうやってそれを召喚するんだ?」
クエツァルコアトルは深い声で反響するように言った。「君の槍、盾、そして鎧は単なる武器ではない。それは君自身の一部であり、真の力の現れだ。しかし、それを召喚するには、ただの願望だけでは足りない。風の力を支配するだけではなく、それを武器と結びつける必要がある。」
アレックスは眉をひそめ、困惑した表情を浮かべた。「どうやればいいんだ?風を操ることしか知らないのに。武器を召喚できなければ、どうやって神々やアバターと戦うんだ?」
クエツァルコアトルは厳しい表情で彼を見つめた。「風は君の一部にすぎない。他の者にとっての火、水、大地と同じだ。君がすべきことは、内なるエネルギー、君の本質を武器と結びつけることだ。槍を召喚する時、風がそれに形を与え、力を与える様子を想像するんだ。盾は君の決意を反映し、鎧は君の防御、これからの戦いに備えるためのものだ。」
その言葉が心に響く中、アレックスは準備を整え、目を閉じて集中した。ビョルンとの戦いで初めて槍を召喚した瞬間や、対峙の中で自分を守ってくれた盾、そして自分を強化してくれた鎧を思い出そうとした。しかし、武器を召喚しようとしても何も起こらなかった。
「なぜできないんだ?」と彼は挫折感に苛まれながら呟いた。
「力はただ考えるだけでは召喚できない、アレックス。感じるんだ。風が君を通じて流れ、体中を駆け巡る様子を思い描け。そして、そのエネルギーが槍や盾、鎧へと変わるんだ。ただの道具として使うのではなく、それを君自身の一部にするんだ。」
クエツァルコアトルの声に導かれ、アレックスは深呼吸をした。風を、血管を流れるような流れとしてイメージし始めた。そして、自分の周りの空気が形を取り、何か固体として現れる様子を思い描いた。
やがて、彼の手の中に力が感じられ始めた。槍が現れ、その形は鋭く、雷のように切れ味がある。アレックスはそれをしっかり握り、制御の感覚に驚きながらも、その形を安定させるのに苦労していた。
「やった...」と彼は呟き、その手の中にある槍を見つめた。
クエツァルコアトルは満足げに頷いた。「いい始まりだ。次は盾を召喚するんだ。」
アレックスはまだ槍を片手に持ちながら、もう一方の手を伸ばした。盾を召喚しようとしたが、そのエネルギーは不安定だった。「頼む、頼む!」と呟きながら、風が消えそうになるのを感じた。何度か盾が現れたが、すぐに消えてしまった。
「焦るな、凡人よ」とクエツァルコアトルは辛抱強く見守っていた。「風は変わりやすい力だ。その盾は君の意志を反映する。守りたいもの、犠牲にしてもいいものを考えるんだ。」
アレックスは再び目を閉じ、盾を壊れない壁としてイメージした。それは、自分だけでなく愛する人々を守るものだと。そして、そのイメージは徐々に形を成し、風の固体として現れた。完璧ではないが、少なくとも彼を囲む保護バリアができた。
「これでよし」とアレックスは息を切らしながら言った。「でも、まだ十分に強くない。」
「本当の試練は、それを維持することだ」とクエツァルコアトルは答えた。「力との繋がりを保ち、心を乱されるな。」
アレックスは頷き、疲れながらも最後に鎧を召喚した。以前の戦いで使ったものだ。エネルギーが体を包み込み、守られている感覚、そして新たな力を感じたが、その過程は想像以上に難しかった。
鎧は部分的に現れ、一部が欠けていたが、アレックスは風が自分を包み守っているのを感じた。完璧ではなかったが、少なくとも神聖な武器と自分の力との繋がりを感じられた。
「少しだけど...できた」と彼は疲れた笑顔を浮かべた。
クエツァルコアトルは空から彼を見下ろし、わずかに満足げな表情を浮かべた。「凡人よ、大きな進歩を遂げたな。しかし、これは始まりに過ぎない。君の力と神聖な武器を融合させることが、真の潜在能力を引き出す鍵だ。だが、それを操れるようになるにはまだ時間が必要だ。」
アレックスは疲れ切っていたが、決意を込めて頷いた。「やってみせる。約束する。」
クエツァルコアトルは微笑み、その翼が黄金に輝いた。「よろしい。今は休むがよい。ただし忘れるな、すべての戦いはこれからに繋がっている。」
アレックスは槍と盾を手放し、鎧が消えた。汗が額を流れ落ちる。クエツァルコアトルから与えられた力を完全に支配するには至らなかったが、彼は旅路において重要な一歩を踏み出したと感じていた。風はもはやただの操れる力ではなく、自分自身の一部となりつつあった。そして、時が来れば、その力を使って迫り来る戦争に立ち向かう覚悟を固めていた。
第11章 完