「これちゃうかな」
三十分ほど作業を繰り返しただろうか、おもむろに太陽が声を上げた。見た本人が言うのだから間違いないだろう。その企業は情報処理の会社で、駅から朔が勤める会社の反対側、つまり屋台側にあった。従業員数は百名ほどで、朔はまだましか、と息を飲む。朔が勤める会社は従業員数六百人超だからだ。百人なら、まだ、なんとか。
トップページから会社概要のページに飛ぶ。部署は五つほど。ここからいかに絞り込むか――
「他に何か手がかりはない? 仕事の話とか、してなかった?」
「ん……年度末は忙しいって」
それはだいたいどの部署でもだ。手がかりにならない。捜査は行き詰まってしまった。とその時、
「こんなん手がかりになるかどうかわからへんねんけど」
何かを思い出したように太陽が言い出した。
「大阪に出張することがようあるって。で、大阪行った時もたこ焼き買うけど、俺のの方がうまいって言うてくれた」
先ほどの情報よりよっぽど有益だ。総務部や海外営業部あたりでないのは確かだろう。
「他にこの社章つけた人買いに来ないの?」
「ちらほら来るよ。何回もリピる人はあんまりおらんけど」
言った後太陽は肩を落としてため息をついた。リピーターが少ないと、自分で言って落ち込んだようだ。
「じゃあ今度来たら訊いてみようよ」
「な、何を?」
「その人のこと」
「何て訊くんな」
「あなたと同じ会社の、よくここのたこ焼きを買いに来ていた人を知りませんか、って」
「そ、そんなことよう訊かんわ!」
太陽は赤らんだ顔を背けてしまった。乙女かよ、と朔はつっこみそうになったがやめておいた。実際そうなんだろうな、と思ったから。純情で、一途に、恋をしている。こんなに思われて、相手は幸せだな、とも。羨ましい、を通り越して、妬ましさすら抱いてしまう。朔だってなんとしてもその相手を一度拝んでみたくなった。
その夜はそこまで。捜査は翌日以降に持ち越された。たこ焼きを買う以外に、顔を合わせる口実ができたことは、朔にとって幸運だった。たとえそれが、恋の橋渡しという理由でも。
顔も名前も知らない、勤務先しか知らない人間を探すのは、言うまでもなく骨が折れた。かといって、こんな赤の他人がインターネットで人捜しの投稿をするのも、会社の前で聞き込み調査をするのも怪しすぎる。さてどうしたものか、と朔は思案に暮れた。
「人捜しの方法ってどんなのがあるかなあ」
隣の席の女子社員に訊くともなく尋ねてみると、面白いこと好きの彼女はすぐに身を乗り出してきた。
「何? 誰を探すんです?」
「知り合いの片思いの相手」
「えーなんですかそれ! ロマンチック~」
「とも限らないよ」
朔は口には出さないが、ずっとひっかかっていたことがある。もしも、万が一、相手がもうこの世にいなかったら――
「また無駄口叩いてるのか」
あの先輩だ。隣の彼女もささっとデスクに向き直ってしまった。
またこいつの顔を見るのかとうんざりした矢先、先輩が抱えている封筒に目をやった。
あの、地球儀の社章と同じマークが入っている。