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第8話

「これちゃうかな」

 三十分ほど作業を繰り返しただろうか、おもむろに太陽が声を上げた。見た本人が言うのだから間違いないだろう。その企業は情報処理の会社で、駅から朔が勤める会社の反対側、つまり屋台側にあった。従業員数は百名ほどで、朔はまだましか、と息を飲む。朔が勤める会社は従業員数六百人超だからだ。百人なら、まだ、なんとか。

 トップページから会社概要のページに飛ぶ。部署は五つほど。ここからいかに絞り込むか――


「他に何か手がかりはない? 仕事の話とか、してなかった?」

「ん……年度末は忙しいって」

 それはだいたいどの部署でもだ。手がかりにならない。捜査は行き詰まってしまった。とその時、

「こんなん手がかりになるかどうかわからへんねんけど」

 何かを思い出したように太陽が言い出した。

「大阪に出張することがようあるって。で、大阪行った時もたこ焼き買うけど、俺のの方がうまいって言うてくれた」

 先ほどの情報よりよっぽど有益だ。総務部や海外営業部あたりでないのは確かだろう。

「他にこの社章つけた人買いに来ないの?」

「ちらほら来るよ。何回もリピる人はあんまりおらんけど」

 言った後太陽は肩を落としてため息をついた。リピーターが少ないと、自分で言って落ち込んだようだ。

「じゃあ今度来たら訊いてみようよ」

「な、何を?」

「その人のこと」

「何て訊くんな」

「あなたと同じ会社の、よくここのたこ焼きを買いに来ていた人を知りませんか、って」

「そ、そんなことよう訊かんわ!」

 太陽は赤らんだ顔を背けてしまった。乙女かよ、と朔はつっこみそうになったがやめておいた。実際そうなんだろうな、と思ったから。純情で、一途に、恋をしている。こんなに思われて、相手は幸せだな、とも。羨ましい、を通り越して、妬ましさすら抱いてしまう。朔だってなんとしてもその相手を一度拝んでみたくなった。


 その夜はそこまで。捜査は翌日以降に持ち越された。たこ焼きを買う以外に、顔を合わせる口実ができたことは、朔にとって幸運だった。たとえそれが、恋の橋渡しという理由でも。


 顔も名前も知らない、勤務先しか知らない人間を探すのは、言うまでもなく骨が折れた。かといって、こんな赤の他人がインターネットで人捜しの投稿をするのも、会社の前で聞き込み調査をするのも怪しすぎる。さてどうしたものか、と朔は思案に暮れた。

「人捜しの方法ってどんなのがあるかなあ」

 隣の席の女子社員に訊くともなく尋ねてみると、面白いこと好きの彼女はすぐに身を乗り出してきた。

「何? 誰を探すんです?」

「知り合いの片思いの相手」

「えーなんですかそれ! ロマンチック~」

「とも限らないよ」

 朔は口には出さないが、ずっとひっかかっていたことがある。もしも、万が一、相手がもうこの世にいなかったら――

「また無駄口叩いてるのか」

 あの先輩だ。隣の彼女もささっとデスクに向き直ってしまった。

 またこいつの顔を見るのかとうんざりした矢先、先輩が抱えている封筒に目をやった。

 あの、地球儀の社章と同じマークが入っている。


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