「……」
さんさんと照り輝いていた太陽が急に雲に覆われたように、太陽の表情から光が消えた。
「探してもどうにもならへんし」
「探さなくてもどうにもならないんじゃない?」
「迷惑なだけやろ……」
「太陽がそれでいいんなら、いいけど」
返答どころか、太陽の動きが止まってしまった。俯いて押し黙ったまま。
ピックを返す手が止まって随分経つ。たこ焼きが焦げないか心配だ。
「あの、たこや」
「せやな! うん! 探そ」
急に顔を上げ、いつも以上に大きな声で突然そういうものだから、朔が驚いてしまった。
「いつまでもうじうじとこんなとこしがみついてて俺らしくなかったわ。さっさと当たって砕けて大阪帰ろ!」
地元を『こんなとこ』呼ばわりされたのと、大阪へ帰るという二大衝撃発言に、朔がうろたえる。自分の発言がきっかけで太陽と離ればなれになってしまうだなんて。
「か、帰るの? 大阪」
「ん、きっちり振られてからな。だってそしたらもうここにおる理由ないし」
そうか、そんなもんだ。朔の存在なんて、太陽に取っちゃ在っても無くても変わらないような、そんなものだ。何だかひどく思い上がっていたような、そんな自分を恥ずかしく思い、そして責めた。
「探そうか、一緒に」
「えっ?!」
「俺も手伝うよ」
「ほんま?! 助かるわ!」
屈託なく喜ぶ太陽を見てまた、朔の心がちくちくする。なぜだかわからないけれど。
想い人捜索にあたって、太陽から意中の彼の情報を聞き出す。いつも夜七時頃にやってきてはたこ焼きを買っていった。焼けるまでの間、世間話をしているうちに、落ち着いた佇まいや飾らない人柄、さりげない優しさに惹かれていったという。いつもスーツで、すらりとした長身で細身の体格、派手なつくりではないけれど、温和そうで上品な顔立ち。
朔ははじめこそ熱心に聞いていたが、だんだんと惚気話を聞かされているような気持ちになってきた。それに、聞いただけの情報で言えば、朔と大差ないのでは、とも。一体自分と何が違うのか。自分では駄目なのか。
――ん?
「それだけじゃ探しようないかもな」
気持ちを切り替えるように大きく深呼吸して、朔は言ったが、太陽にはため息交じりと聞こえてしまったようだ。
「やっぱり、無理やんな」
笑っているが、笑っていない。そんな笑顔で太陽は答えた。笑いたくないときに笑うのは癖なのかな。朔が考え込んでいると
「やっぱごめん! 関係ないのに無茶なこと巻き込んで。この件はなかったことにしよ」
「関係ない……か」
口の中でぽつりと繰り返した朔の言葉は、幸い太陽には届いていなかった。
「そうだ、社章とかつけてなかった?」
「車掌?」
「いや、スーツのこのへんに小さいバッジみたいなの」
不思議そうに敬礼の手振りをする太陽に、朔は自身のスーツの襟元を指しながら答えた。
「あー……んと、そういえば、銅の地球儀みたいな……」
朔はスマートフォンを取り出し、地図を表示させ、駅周辺の会社をピックアップ。そして太陽が言う、社章が『銅の地球儀』の会社を探す。地球儀がモチーフ、というだけでは、どういった系統の会社かわからないので、このあたりにある企業を片っ端から検索し、企業サイトへ飛ぶ作業を繰り返した。