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第6話

 一円まできっちり割り勘で会計を済ませ、駅へ向かう。ホールは駅からすぐの場所にあったため、あっという間に駅に着いた。

「今日はありがとう」

「こちらこそ。またたこ焼き買いに行くよ」

「ありがとう! いつでも待ってるで」

 何気ない、商売用のリップサービスなのかもしれないが、あそこに太陽がいる限り、太陽が去った相手への恋慕を抱き続けているのだと思うと、朔の心がチクリと痛んだ。


 長い長い一日だった。日中は普通に仕事をして、数年ぶりの一推しバンドのライブに行って、そして。

 太陽の意外な一面、いや一面のみならず二面も三面も見たような気がする。

 また一緒にライブ、行けたらいいな。

 そのときは単純にそう思っていた。


 週明け。ライブの余韻もまだまだ残る中、いつも通りの一週間がまた始まる。今夜は金曜のお礼も兼ねて太陽の店を訪れよう、朔は朝から心に決めていた。

「資料できてる?」

 いつものいけ好かない先輩が、いかにも不機嫌そうに声を掛けてきた。おはようぐらい言えないのかよ、と朔も不機嫌になる。

「できてます」

 ぶっきらぼうに答えすぎたか、先輩が少しむっとしたような表情に変わったその時。

「モデルのKと俳優のYがパートナー宣言だって!」

 女子社員数人がキャッキャと騒いでいる。KとYは男性だ。

「Kのことけっこう好きだったのにショック~」

「でもイケメン同士だしお似合いだね」

「うんうん、応援したくなった」

 昨今では同性どうしのカップルが関係を公言することは珍しくなくなってきつつあり、世間の目も少しずつ変わってきたのだなと思っていたら。

「そんな話、会社でするな! 気持ち悪い」

 吐き捨てるように言った先輩の一言で、その場は水を打ったように静まり返った。そしておしゃべりしていた女子社員たちはすごすごと各自持ち場へと戻っていった。

 確かに会社で仕事と関係のない話をきゃあきゃあとくっちゃべっていたのは良いこととは言えない。しかし、最後の言葉は必要だっただろうか。朔は太陽が自嘲するように言った「気色悪いやろ」という言葉を思い出していた。今までに何度となくそういう反応をされてきたからこその言葉なのだろうと思うと、胸が痛んだ。


***


「いらっしゃい! 待ってたで!」

 いつもの赤エプロンにひとつくくりの太陽が、いつものようにリズミカルにピックを回していた。その様子になぜかほっとする朔だった。

「金曜はお疲れ様」

「お疲れ! めっちゃ楽しかったわ」

 あの夜の、届かぬ想いに身を焦がす太陽の姿はそこにはなく、すっかりいつもの陽気な屋台の兄ちゃんである。

「俺こっち来てまだ友だちおらんから、また遊んでな」

「俺で良ければ」

 答えながら、朔は奇妙な寂寥感に襲われた。ここはそんな感情が芽生えるシーンではないだろうに、どうしてこう胸が締め付けられるような心持ちになるのだろう。

「あの、さ」

「ん?」

「探さないの? その、好きな人」


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