「やっぱエリダヌス最っ高やな! ええもん観たわあ」
「うん。明日からも頑張れる」
終演後、二人は再び落ち合った。別々にチケットを取っていたため、当然席も離れていたのだ。
「俺も久しぶりに来られて良かったよ」
「の割には落ち着いてるな」
「そう? 今すごく興奮してるけど」
実際のところ、朔の心の中では言葉にしがたい溢れんばかりの想いが渦巻いていた。感無量といったところだ。しかし感情が表に出るタイプではないし、興奮をどうしても表現しないといけないわけでもない、と朔は考えている。逆に、太陽は全部出してくるタイプだ。わかりやすくて、見ていて気持ちがいい。嫌なことがあっても、太陽に重会えばいつのまにか心にまとわりついていた暗雲が消え失せ、胸がすいたような気持ちになる。
「ほな一杯やりながらライブの感想語ろうや。いけるクチ?」
「まあ適量」
と話していたら、たこ焼き屋の屋台が目についた。ライブ帰りの客をターゲットに出しているのだろう。見つけたと思った瞬間、太陽はその屋台めがけて走った。そして瞬く間に買ってきた。
「どんだけ好きなんだよ、たこ焼き」
「競合店の偵察やん。仕事熱心やろ」
言うが早いか、早速一個を口の中に入れた。はふはふと空気を含んで熱を逃がしながらたこ焼きを頬張る表情が子どもみたいだな、と朔は思った。
「ん? 食べる?」
「じゃあ一個」
朔は太陽と違って、熱に警戒しながら慎重に口に運ぶ。
「出汁はうまいけど焼きが今ひとつかな~。具もちっこいな」
厳正なる審査をしているような神妙な面持ちで、太陽はすっかり飲み込んでしまったたこ焼きの評価をする。
「うん、やっぱり太陽が焼くたこ焼きがうまいよ」
それまで食べるのに、喋るのに忙しくたえず動いていた太陽の口が止まった。そしてこれまでずっと喋りっぱなしだった声もぱったりと途絶えたので、不思議に思った朔は隣を歩く太陽に目線を移した。
夜の闇の中を歩いているのに、屋台にいるときのように赤かった。赤い電球に照らされているわけでもないのに。それにこんなに喋っていない太陽は珍しく、喉でも詰めたのかと心配になってくる。
「どうかした?」
「……いや……」
こんな歯切れの悪さも、太陽らしくない。その妙な空気を払拭すべく、
「さ! どこの店入ろっか? 何系がいい?」
いつも以上に跳ねるような声で、太陽が言った。
数分後、駅に向かう途中にあったとある焼き鳥屋に、二人はいた。
先ほどたこ焼きを食べたため、食べるものは控えめに、オーダーは酒が中心となった。ふたりともよく飲む方で、次々にジョッキやグラスが空になってはなみなみ注がれたそれと取り替えられた。
エリダヌスのファンになったきっかけ、ファン歴や推しメンバーは誰なのか、好きなアルバムベスト3から始まり、何より今夜のライブの感想を熱く語り合った。朔にとっては、社会人になってからというもの、ここまでエリダヌスについて語れる機会はなかったし、当時一緒に追いかけていた友人も今となってはすっかりそれぞれの生活があって疎遠になってしまっていた。だからこの夜は、朔にとってとても有意義で心躍るひとときとなった。