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第2話 遠日点

 光速の99・995%で太陽から遠ざかる大乗ダイジョウに届く太陽の光は、大乗ダイジョウが出発してすぐに太陽から出た光だ。大きな周回軌道の前半、太陽から遠ざかっている間は、いつまでも出発した頃の太陽しか見ることができない。


 ✿✿


 天藍テンラン十五歳。

「あぁ、わかった、マザー。ショートしてるところ見つけちゃったよ」

「よく故障個所が特定できましたね」

「へっへーん。やったね。これでやっと、おかゆから解放される!」

 天藍テンランは、大人では入れないような狭い機械の隙間から体を引き抜いた。えっと、半田を剥がしてあげなきゃだから、これ。んで、絶縁しなきゃだから……これ?」

 工具箱から、必要な工具類を取り出し、船内カメラに見せた。


「そうですね。それで大丈夫そうです。問題箇所が見つかりさえすれば、あとはドローンに任せれば良いって言っても聞かないのでしょう?」

「にひひひ、その通り! こんな楽しいこと、ドローンにあげたりしないよ!」


 そう言うと、天藍テンランは、工具を両手に、再び先ほどの機械の隙間に体を押し込んだ。

 お米を炊く機械だけ、どうしてなのか、水加減をいくら調整しても、必ずおかゆになってしまっていた。そのため、炒飯など固めに炊いたご飯を用いた料理が作れない状態だった。

 大乗ダイジョウは、突貫工事で建造が進められたために、運航や直接生命維持に関わるシステム以外は、色んな問題を抱えていた。天藍テンランは、宇宙船大乗ダイジョウという、恰好のフィールドを得て、機械工学を実地に学ぶ機会を得た。


 ✿✿


 天藍テンラン二十五歳。

 天藍テンランの父親が亡くなった。


 宇宙船大乗ダイジョウで老衰によって人が亡くなるのは、これが初めてではなかったが、肉親に看取られながら亡くなるのは、これが初めてだった。

天藍テンランさま、どうしますか? 特例として、宇宙葬にすることも可能です」

 一見、残酷なようだが、死体といえど、長期間に渡って飛行する宇宙船においては、貴重な資源なのだ。そのため、通常であれば、アミノ酸まで分解し、資源として再利用される。しかし、今回は娘の天藍テンランが傍に居る。家族感情として、再利用が容認できないと感じるならば、それも致し方ない。特例として父親を宇宙葬としても良い、そういう意味だった。


「いいえ。大切な資源よ。辛いけれど、皆で大切に使いましょう。お父様も分かってくださるし、聞けばそうしろと仰るわ。そういう人だもの」

「承知しました」


 ✿✿


 天藍テンラン三十五歳。

 五十年の旅の折り返し地点。ちょうど宇宙船大乗ダイジョウが太陽から一番遠くにいるタイミング(遠日点)で、船内で暮らす人たちで集まって、パーティーを行った。

 パーティーの最中、昨日、冷凍睡眠装置の不調で蘇生処理を受けたばかりという、三十歳の男性に口説かれた。今は天藍テンランの方が年上だが、地球を出発した時は、二十歳も天藍テンランの方が年下だった。

 口説かれているのは自分だというのに、まるで第三者の身に起きた事象を俯瞰しているかのような気分で、

「ロリコンには興味ないわ」

 と言ってしまった。

 当然、男は怪訝な顔をし、ただ脈の無いことだけは伝わったようで、それ以上はつき纏われることはなかった。


 ✿✿


 天藍テンラン四十五歳。

 コンピューター上でCADを用いて設計を行っている。


天藍テンランさま、今度は何を作っているのですか?」

「車椅子よ。電動の」

「なるほど。地球に帰還した際に使われるのですね」

「そうそう。マザーは、運動しろ、運動しろって言うけど、限界があると思うのよね。なので、地球に降りてしばらく動けないのも困るので、こんなの用意しておいてはどうかなって」

「良いアイデアだと思います」

「でっしょう? 設計が出来上がったら、地球の重力下で問題ないかシミュレーションしてくれる?」

「承知いたしました」

「うまくいきそうなら、船内で生活中の人たち全員分作成お願いね」

「はい、もちろんです」

「他の、冷凍睡眠装置で過ごしてる人たちは平気なの?」

「平気ではないです。約一年間、無重量での生活をしますので、足の筋肉が落ちてしまい、帰還後すぐには動けないと思います」

「え、じゃあ、どうするの? 車椅子を約5千万個作っちゃうの?」

「さすがにそれは無理だと思います。足の筋組織のサポートを行う装置を付けてもらいます。こちらは、人数分ありますので」

「え、じゃあ、車椅子なんて要らなかった?」

「いいえ。さすがに天藍テンランさまのように、何十年も船内で過ごされた方には、サポート装置だけでは不十分ですので」

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