――――ただし、今回に限っては、まずやることがある。カウンターをセット。カウンターは、0から毎朝6時に1ずつインクリメントする。このカウンターが百八十万(十六進数表記で《02bf20》)に達する頃、
次に、タスク管理のサブルーチンを起動する。そうして、「
――――【ヤクソク】。
そのためには、メンテナンスを怠らず、五千年の間、自身を正常な状態に保たねばならない。
それが、何よりも優先されるタスクだった。
「先ずは、昨日のお誕生日パーティーの片づけから始めましょう」
これが最後の食器洗いになる。次は五千年後だ。
❀❀
「本日の日課を終了しました」
誰に報告するわけでもない。が、誰に聞かれる心配もない。たまにはこうして人工声帯のチェックを兼ねて発話をするのも良いだろう。
アネモネは、庭掃除用の箒を納屋にしまって、ピシャリと扉を閉めた。
それにしても……。
まだ、時刻は午前十時を回ったところ。
家人が居ないと、タスクが少なすぎて、時間を持て余してしまう。
今しがた手入れを終えた庭の草木をざっと見渡す。視界の隅、レンガで囲った花壇には、涼し気にアネモネの花が咲いていた。
「ねぇ、ほら。アネモネ! 見て、見て! 今年も綺麗に咲いたよ!」
「そうですね」
「紫でしょ、ピンクでしょ、これは赤かな。色んな色があるね!」
「はい。とても綺麗です」
「うん。アネモネと一緒! アネモネも綺麗だよ」
「ありがとうござます」
目の前の光景に、
――――これは、有意義な時間の利用方法だ。
今は、すべての物事を覚えていられるが、いずれ、
――――
さっそく、アネモネは、「
アネモネは孤独を感じない。孤独に耐えているわけではなく、そもそも、そういった感情を持ち合わせてはいない。しかし、ミッションを
五千年間、きちんと家を守り、
もう宇宙船は出発したのだろうか。アネモネは花壇の傍にしゃがんだまま、しばらくじっと空を見上げていた。
❀❀
自暴自棄になる者、刹那的な境地に陥る者、乗船権を得た者への怨嗟。様々な理由から、留守宅と見るや、襲撃された。
「やめてください。この住宅への不法侵入は許しません」
アンドロイドが警備していると知って引き下がる者も多かったが、そうでない場合も多かった。
「なぁにが、許しません、だぁ? 誰も、お前なんかの許しなんか、要らねぇよ!」
そういって、アネモネに殴りかかってくる。
夜であれば、眩いフラッシュのライトを焚くことで、怯んでくれる場合も多かったが、襲撃は夜とは限らなかった。中には、日中堂々と不法侵入を企てる者もいた。
「仕方ありません。手荒な真似はしたくないのですが、この家への不法侵入を許すわけには参りませんので。細心の注意は致しますが、お怪我をされる可能性があります」
アネモネは、そう警告すると、腰を若干落とし、左足を前、右足を引いた。背筋をぴんと伸ばして半身で立つ。左手は
濃い無精髭の男がアネモネの胸倉を掴んできた。その手首を握り返し、捻りあげる。そして、もう一方の手で捻りあげた腕の肘に体重を乗せて沈みこんだ。モーションデータのファイル名によると、「隅落とし」というらしい。
相手が人間の場合、この「アイキドウ」を用いるのがいちばん無難に思えた。ただし、棒状の得物や銃を持っている場合は別だ。その場合には、正拳突きや蹴り技など、より強力で攻撃的な手段を用いた。これも3Dモデル用のモーションデータをダウンロードしたものだった。
❀❀
そして、この日。宇宙船「
宇宙船「
❀❀
その年の秋、
それでも
部屋の中も暴風に引っ掻き回されて、ぐちゃぐちゃになってしまった。
――――
アネモネは、残念そうな表情を浮かべながら、
降り込んだ雨でびっしょりと濡れてしまった紙製の小さな小箱を床から拾い上げた。中から四つのどんぐりを土台の薄い丸太の板に接着したオブジェが転がり出てきた。四つのどんぐりには、それぞれマジックで目と口が描かれていた。小枝や木の実を手足に見立てて接着剤で留めてある。それは、
アネモネは記憶をスキャンした。
「このどんぐりは、いちばん小さいから私ね。目を青くするの」
「はい、とても可愛らしいですよ」
「こっちの左のがお父さま。お髭を付けなきゃね」
「えぇ、そうですね」
残りの二つは誰だろう?
右のどんぐりは傘を被った状態で、真ん中のは中でも一番大きかった。
「どんぐりのお帽子、お母さまに似合う?」
「えぇ、とっても」
「よかった~」
「
人間の一歳までの記憶は、余り残っていないと聞いたが。実態は異なるのかもしれない。
「ううん。覚えてない。でも……」
そう言うと、
「ここに入っているでしょう?」
確かに、アンドロイドの胸部には、第七世代シリコンディスクの集積回路が詰まっている。
「はい」
「また、お母さまの映像、見せてね」
「はい、いつでも」
とすると、真ん中の一際大きなどんぐりは……
「
そう言いながら、アネモネが自分の鼻を指さしながら、小首をかしげた。
「うん! アネモネは、紫のお洋服なの」
「あら、私は紫のお洋服なんて持っていませんよ?」
「ううん。アネモネは紫のお洋服。きっと似合うから」
小箱の中にはもう一つ、小さな外部記憶メモリが入っていた。どんなデータが記録されているのか、アネモネは興味津々メモリにアクセスした。
上方から、アネモネの顔が下がってくる。しゃがもうとしているのだ。
「では、明日、一緒にお散歩に出かけて、何か工作に仕えそうなものを探しに行きましょうか」
画面が左右に激しく揺れる。カメラを構えたまま、
アネモネは、これが先程のどんぐりの工作の記憶に繋がるものだと理解した。自分の中の記憶を辿る。
そこには、カメラを構えておどけながら、ママのお墓に、何かお供えするにはどうしたら良いかと相談してくる
孤独とは無縁なアネモネだったが、過去の記憶を振り返るばかりではなく、