『お昼は、どこかで食べるつもりなの?』
その質問の答えは、『施設内のどこかで食べようと思っている』いうものだった。
尊の返信を受け、愛は『なら私がお弁当作ってあげる』とメッセージを返した。
そして今朝、早起きをしてお弁当を作った。
母に手伝ってはもらったが、ほとんどが愛の作ったおかずだ。
「あ、あそこ空いてるよ」
遊園地内の、共有スペース。オープンテラスを見つけ、そこで少し早めの昼食をとることに。
二人用のテーブルを見つけ、愛と尊は対面する形で座る。
愛は、鞄から弁当箱を取り出す。
「はい、こっちが尊のね」
「おう、サンキュ」
今日まで、お昼の話はしてこなかったが……尊も、期待しているのだろう。
弁当箱を受け取り、嬉しそうだ。
尊の弁当箱は、愛のものよりも一回り大きい。
「結構でかいな」
「いっぱい食べるかと思って」
尊は、青色の包みを解いていく。
弁当箱は二つが重なっており、一つはご飯、一つはおかずのものだろう。
愛も同じく、桃色の包みを解いていく。
「おぉ……うまそう!」
弁当箱を開くと、そこに広がっていたの光景に尊は目を輝かせた。
卵焼きに、ミニハンバーグ。ウインナーにブロッコリーと、弁当の定番というおかずが詰められていた。
特に、尊の目が引き付けられたのはハンバーグだ。
「これ、全部愛が?」
「全部、ではないよ。お母さんにも手伝ってもらったし。
あんまり、自信はないんだけど……」
「なに言ってんだ。お前の作るもんはいつもうまいっての」
普段、尊と渚が柊家で食事をするときは、愛も料理を手伝う。
そのため、愛の料理の腕を、尊は知っている。まずいはずがないのだ。
対いて愛は、普段とは違う環境での料理に、本当においしくできたのか気がかりで仕方がない。
母は、ちゃんとおいしいと言ってくれたが……
「ま、まあ、とりあえず食べよっか」
「おう」
箸を渡して、二人で「いただきます」と手を合わせる。
遊園地で、彼のためにお弁当を作ってきて、二人で食べる……周りからはいったい、どのように見られているのだろうか。
まずはハンバーグを箸でつまみ、尊はそれを口に運ぶ。
口の中で何度か咀嚼し、飲みこんだ。愛はその様子を、黙って見ていた。
「ど、どうかな」
「ん……うん、うまいよ」
もぐもぐ、と味わっていた尊の答えに、愛の表情が輝く。
尊の好物でもあり、愛が一番気合いを入れて作ったのが、このハンバーグだ。
安心した愛は軽く笑みを浮かべ、自分も食事を開始する。
一応自分でも味見をしたが、緊張のせいか味がよくわからなかった。
……うん、おいしい。
「ね、ね。これ食べたら、次はどれ乗ろうか」
「そうだなぁ。やっぱジェットコースター……いやでも、食った直後は厳しいか」
「あはは、かもね」
食事をしながら、こうして次の予定を話しながら笑い合う。なんて、幸せな時間だろう。
これまでは、怪人の出現に意識を持っていかれ、純粋に楽しむことができなかった。
だが今日は、博士のおかげで愛の端末には、怪人出現の報せが行かないようになっている。
以前のプールのように、愛のいるところに怪人が現れる可能性も、百パーセントないとは言えないが……
あんなこと、早々あるもんじゃない。
今は、この幸せな時間を、楽しもう。
「お、たこさんウインナーだ」
「あー! お弁当の残りは、
「ぷはは。いいじゃん、こういうのも」
尊も、先ほどのトラウマのことは忘れているようだ。
いや、忘れることなんてできないだろう……でも、少しでもこうして、彼の抱える気持ちを、軽くしてあげたい。
もっと、近くで支えてあげたい……そんな想いが、愛の中で大きくなっていく。
……もし、尊ともっと親密になれたら。恋人みたいに、あーんなんてしちゃうのだろうか。
「どうした、顔赤いぞ」
「ふぇ!?」
「もしかして、気分とか……」
「ちちち、違うから! まったくもって健康体だから!」
昔から、体は強い方だが……ヒーローをやり始めてから、風邪なんか引いたことがない。
だから、これは風邪ではない。顔が赤いのは、もっと別の理由だ。
愛は、おかずを食べるスピードを上げていく。
その姿を見て、尊が柔らかく微笑んだのに、気づいてはいない。
「んぐっ……ぷはぁ! 我ながらおいしかった!」
お茶を飲み、喉を潤わせた愛は、自らの料理の腕前ににやりと笑みを浮かべた。
尊も遅れて完食し、お茶を飲んだ。
「あぁ、うまかった。ごちそうさま」
「うむ、お粗末様」
きれいになった弁当箱を見て、愛は頬が緩むのをなんとか抑えるのに限界だった。
ご飯粒一つすら、残っていない。彼のために、作ったかいがあるというものだ。
弁当箱を片づけ、鞄に収めていく。
「しっかり、弁当箱二つに水筒まで……重くなかったか?」
「だーいじょうぶ、これくらいなんともないって」
それは、強がりでもなく事実だ。
普通であれば、多少なり重くは感じるのだが……良くか悪くか、愛は普通ではない。
ヒーローをやっている愛は、怪人との戦いを経て腕力とかもろもろ強くなっている。
身体能力上昇のヒーロースーツ着用時でない平常時でも、以前よりはかなり鍛えられていた。
それに気付いているのかいないのか、愛は鞄を肩からかける。
「さ、行こうよ尊! 時間は有限、待ってはくれないよ!」
「おう」
愛は立ち上がり、次になにに乗るかを決めていく。