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第3話 私の秘密



 ――――――



「はぁはぁ……

 ま、間に合った……」


「おぉ、愛。どこ行って……

 なんでそんな疲れてんの?」


「べ、別にぃ?」


 場所は変わり、ここは愛や尊の通う高校。

 "用事"を終えた愛は、学校へと到着。その足で、教室に入る。


 すでにクラスメートはほとんど揃っているが、まだホームルームの予冷は鳴っていない。

 ぎりぎりセーフというやつだろう。全力で"用事"を済ませて、全速力で戻ってきたのだ。


 しかし、息を切らしている愛を、尊が疑問に思うのは当然のことだろう。


「ちょっと、全力疾走しちゃって……」


「その過程が気になるんだが……

 ま、それよりもだ。見ろよこれ!」


 愛の様子に首を傾げる尊だが、彼女がなにも話そうとしないのなら、仕方ない。話題は変わり、尊の声が弾む。

 目の前までやってきた尊の手には、スマホが握られている。

 見ろよ、と、スマホの画面を愛は突き付けられる。


 ……正直、尊が嬉しそうにしているのはこちらも嬉しいと同時に、なんだか嫌な予感もするのだ。

 そして、その嫌な予感は……だいたい、当たる。


「なになに……げ!」


「また出たんだよ、レッドが!」


「…………へぇー」


 尊は、まるで少年のように目を輝かせている。

 突き付けられたスマホの画面……そこには、とあるニュース映像。愛は、固まる。


 その内容は……

 今朝……というかついさっき出現した怪人を、颯爽と現れたヒーローレッドが、颯爽と怪人を倒し、颯爽と去っていく映像だった。


 さっきの今で、もうこんなものが出回っているのか……感心よりも先に、愛は内心で舌打ちをした。


「げ、ってなんだよ、げ、って」


「あー、いや、あはは……げ、げっぷが、出そうになっちゃって?」


「なんだよそれー」


 つい出てしまった言葉、それをごまかそうとするのたが……

 正直、もっとマシな言い訳があったのではないかと思う。げっぷて……


「すげーよなぁ、一発だぜ一発!

 はぁ、やっぱレッドはかっこいいな!」


 さておき。いったい、誰があの動画を撮っていたのだろうか。

 このご時世だ。やろうと思えば素人だって、ネットに動画をアップできる。


 正直、取材陣やカメラマンのようにちゃんとした対応ができない分、こっちの方がかなり厄介だ。

 隠し撮りされネットにアップロードされれば、アップロードした人物を特定するのも難しい。

 方法は警察に頼むとかなくはないだろうが、そもそもネットに上がってしまっては、誰がアップロードしたか特定してももう遅い。


 はしゃいでいる尊。男の子は、こういうヒーローが好きだ、と認識はしている。

 それでも、だ。こうも全面的に表現されると、愛としても歯がゆい気持ちだ。


「っ……尊ってば、レッドのこと、好き……だよね?」


「おう! めちゃくちゃ好きで、尊敬もしてる!」


「っ!」


 その、屈託のない尊の笑顔に……愛は、なんとも言えない感情に襲われる。

 嬉しいやら恥ずかしいやら、いろんな意味で今にも悶え転がりたい気分だ。しかし、それはできない。


 ……愛の、誰にも言えない秘密……

 それは、怪人に立ち向かうヒーローレッドの正体が、なにを隠そうこの、柊 愛本人だということなのだ。


「ふ、ふーん……」


 ひょんなことから、ヒーローになってしまった愛……当時は、町の人々を守るヒーローなんて、憧れたものだが。

 蓋を開けてみて、びっくりだ。



『あれ、このレッドって……間違いかなぁ? ピンクとかじゃ、なくて?』


『いや、ごめんレッドしか空きがなくてのぅ。

 キミにはレッドとして活躍してもらいたい』


『でも、レッドって男……

 あ、女の子レッドってことですね! し、新鮮だなぁ! これからは、表現の自由? ですもんね!』


『なにを言っとる! レッドと言えば男! 男と言えばレッド!

 これ世の中の常識じゃ!』


『えぇ……

 でも私、女……』


『あと、レッドと言えばリーダーと定番が決まっとるのでな。

 今日から頼むぞ、リーダー』


『なんだって!?』



 あれよあれよと、ヒーローレッドとして活躍することになった。

 それも、男として。


 幸い、顔も隠す全身タイツだから、見た目でバレることはない。自分は小柄なタイプだが、中身が女子高校生と知られなければ、体格からも判断はつかない。はずだ。

 それに、男女の容姿の違いは、スーツの伸縮性でごまかせている。多分。

 成長してきている胸も、体のラインが出ないタイプのスーツなのでわからない。きっと。


 声も、低くを意識すればなんとか乗り切れる。戦闘中は喋らなくて済むし。

 いつも口早なのも、女声だとバレるのを、防ぐためだ。


「あぁ、いつか会って握手してほしいなぁ、レッドぉ」


「……」


 男として振る舞うのも、最初は困惑が大きかったが……

 好きな人たけるがレッドのファンだと知ってからは、よりいっそう気をつけるようになった。


 なぜなら……


「きっと、男の中の男! ってな感じの中身なんだろうな!

 な、愛もそう思うだろ!?」


「あー、うん、ソウダネー」


 この幼馴染は、レッドを男だと……それも、男の中の男だと、信じている。

 まあ、世の中のほとんどの人が、そう思っているだろうが。

 戦隊ヒーローのレッドが、花の女子高生なんて、誰が思うだろう。


 そんな尊に、もしレッドの正体が自分だとバラしてみろ。



『はぁ? レッドの正体がお前とかマジかよ……くっそ萎えるわ。

 ないわー、二度と近づかないでくれ。ぺっ』



 こうなってしまったと、したら。

 あぁ、だめだ……考えただけで、死ねる。

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