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「はぁはぁ……
ま、間に合った……」
「おぉ、愛。どこ行って……
なんでそんな疲れてんの?」
「べ、別にぃ?」
場所は変わり、ここは愛や尊の通う高校。
"用事"を終えた愛は、学校へと到着。その足で、教室に入る。
すでにクラスメートはほとんど揃っているが、まだホームルームの予冷は鳴っていない。
ぎりぎりセーフというやつだろう。全力で"用事"を済ませて、全速力で戻ってきたのだ。
しかし、息を切らしている愛を、尊が疑問に思うのは当然のことだろう。
「ちょっと、全力疾走しちゃって……」
「その過程が気になるんだが……
ま、それよりもだ。見ろよこれ!」
愛の様子に首を傾げる尊だが、彼女がなにも話そうとしないのなら、仕方ない。話題は変わり、尊の声が弾む。
目の前までやってきた尊の手には、スマホが握られている。
見ろよ、と、スマホの画面を愛は突き付けられる。
……正直、尊が嬉しそうにしているのはこちらも嬉しいと同時に、なんだか嫌な予感もするのだ。
そして、その嫌な予感は……だいたい、当たる。
「なになに……げ!」
「また出たんだよ、レッドが!」
「…………へぇー」
尊は、まるで少年のように目を輝かせている。
突き付けられたスマホの画面……そこには、とあるニュース映像。愛は、固まる。
その内容は……
今朝……というかついさっき出現した怪人を、颯爽と現れたヒーローレッドが、颯爽と怪人を倒し、颯爽と去っていく映像だった。
さっきの今で、もうこんなものが出回っているのか……感心よりも先に、愛は内心で舌打ちをした。
「げ、ってなんだよ、げ、って」
「あー、いや、あはは……げ、げっぷが、出そうになっちゃって?」
「なんだよそれー」
つい出てしまった言葉、それをごまかそうとするのたが……
正直、もっとマシな言い訳があったのではないかと思う。げっぷて……
「すげーよなぁ、一発だぜ一発!
はぁ、やっぱレッドはかっこいいな!」
さておき。いったい、誰があの動画を撮っていたのだろうか。
このご時世だ。やろうと思えば素人だって、ネットに動画をアップできる。
正直、取材陣やカメラマンのようにちゃんとした対応ができない分、こっちの方がかなり厄介だ。
隠し撮りされネットにアップロードされれば、アップロードした人物を特定するのも難しい。
方法は警察に頼むとかなくはないだろうが、そもそもネットに上がってしまっては、誰がアップロードしたか特定してももう遅い。
はしゃいでいる尊。男の子は、こういうヒーローが好きだ、と認識はしている。
それでも、だ。こうも全面的に表現されると、愛としても歯がゆい気持ちだ。
「っ……尊ってば、レッドのこと、好き……だよね?」
「おう! めちゃくちゃ好きで、尊敬もしてる!」
「っ!」
その、屈託のない尊の笑顔に……愛は、なんとも言えない感情に襲われる。
嬉しいやら恥ずかしいやら、いろんな意味で今にも悶え転がりたい気分だ。しかし、それはできない。
……愛の、誰にも言えない秘密……
それは、怪人に立ち向かうヒーローレッドの正体が、なにを隠そうこの、柊 愛本人だということなのだ。
「ふ、ふーん……」
ひょんなことから、ヒーローになってしまった愛……当時は、町の人々を守るヒーローなんて、憧れたものだが。
蓋を開けてみて、びっくりだ。
『あれ、このレッドって……間違いかなぁ? ピンクとかじゃ、なくて?』
『いや、ごめんレッドしか空きがなくてのぅ。
キミにはレッドとして活躍してもらいたい』
『でも、レッドって男……
あ、女の子レッドってことですね! し、新鮮だなぁ! これからは、表現の自由? ですもんね!』
『なにを言っとる! レッドと言えば男! 男と言えばレッド!
これ世の中の常識じゃ!』
『えぇ……
でも私、女……』
『あと、レッドと言えばリーダーと定番が決まっとるのでな。
今日から頼むぞ、リーダー』
『なんだって!?』
あれよあれよと、ヒーローレッドとして活躍することになった。
それも、男として。
幸い、顔も隠す全身タイツだから、見た目でバレることはない。自分は小柄なタイプだが、中身が女子高校生と知られなければ、体格からも判断はつかない。はずだ。
それに、男女の容姿の違いは、スーツの伸縮性でごまかせている。多分。
成長してきている胸も、体のラインが出ないタイプのスーツなのでわからない。きっと。
声も、低くを意識すればなんとか乗り切れる。戦闘中は喋らなくて済むし。
いつも口早なのも、女声だとバレるのを、防ぐためだ。
「あぁ、いつか会って握手してほしいなぁ、レッドぉ」
「……」
男として振る舞うのも、最初は困惑が大きかったが……
なぜなら……
「きっと、男の中の男! ってな感じの中身なんだろうな!
な、愛もそう思うだろ!?」
「あー、うん、ソウダネー」
この幼馴染は、レッドを男だと……それも、男の中の男だと、信じている。
まあ、世の中のほとんどの人が、そう思っているだろうが。
戦隊ヒーローのレッドが、花の女子高生なんて、誰が思うだろう。
そんな尊に、もしレッドの正体が自分だとバラしてみろ。
『はぁ? レッドの正体がお前とかマジかよ……くっそ萎えるわ。
ないわー、二度と近づかないでくれ。ぺっ』
こうなってしまったと、したら。
あぁ、だめだ……考えただけで、死ねる。