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彼女はヒロインでヒーローで。訳あり女子高生の秘密は、重すぎる?
白い彗星
現代ファンタジースーパーヒーロー
2024年12月19日
公開日
6,707文字
連載中
どこにでもいる女子高生、柊 愛にはとある秘密があった。
恋もしたい、勉強もしたい。平凡な日常を謳歌したい彼女は、抱えた秘密の重さに平凡とはかけ離れた生活を送っていた。

好きな人と恋愛がしたい、デートがしたい。でも、それができない。
その理由とははたして……?

怪人が蔓延り、怪人を倒すためのヒーローが活躍する世の中。
そんな世の中で、愛は立ち向かう。

正体不明のヒーローレッドとして、人々を守るために。
そして、愛の恋の相手である幼馴染にもまた、秘密があった。愛は正体がバレないよう、ギリギリの日常を今日も過ごしていく。



小説家になろう、アルファポリス、ノベルピア、カクヨムでも連載しています!

第1話 彼女にはとある、秘密がある



「おはよー、愛ちゃん」


「おはようございまーす」


 晴れやかな青空、小鳥のさえずり、賑やかな通学路……いつもの、日常。

 通学路を歩くと、近所のおばちゃんから声をかけられる。小さい頃から構ってくれる、優しいおばちゃんだ。


 微笑ましく繰り広げられるいつもの光景に、彼女はそっと手を振って応えた。

 その際、笑顔を浮かべるのも忘れない。


 彼女の名前は、柊 愛ひいらぎ あい

 今年で十七歳となった、花の女子高生だ。


 制服に身を包み、鼻唄を歌いながら歩いて行く彼女の姿は、どこから見ても、ごく普通の女子高生だ。


 ……そんな彼女には、とある秘密がある。


「よぉ、愛」


「ひゃ!

 ……もう、尊ー……!」


 陽気な様子で歩いていると、ぽん、と愛の頭が叩かれた。優しく、タッチするような手つき。

 それでも咄嗟のことに、愛は思わず変な声を出してしまった。叩いてきたのが誰であるか、愛にはすでにわかっている。


 振り返ると、そこには顔なじみの顔があった。

 いや……顔なじみどころではない。


「ははは、相変わらずいい反応するなー、愛お前」


 ケラケラと笑うこの男は、神成 尊かみなり たける

 愛の幼馴染の、男の子だ。


 同級生の男子よりも背が高いので、ただでさえ小柄な愛は、彼を見上げる形になる。

 幼馴染ではあるが、そうでなくても彼はフランクな性格なので、わりと誰にでもこんな感じだ。


 こうやって、ちょくちょく愛のことをからかってくるのは、もはや日課だ。

 見るからにチャランポンで、特出して良い点もない。

 顔も頭も、普通の男。


「……ったく」


 背が高く運動神経がそこそこなだけで、頭がいいわけでもない。

 そんな男に、いつからだったか愛は、好意を寄せているわけだが。


「もう、いい加減、いきなりやるのやめてよ。

 ていうか、髪いじらないで」


「っても、隙だらけのお前が悪い。それに、お前の髪手触り良いんだもん」


「……」


 愛の頭は、尊にとって手が置きやすい位置にある。

 だから、頭を撫でやすいということだろうか。ちびと言われている気がして、いい気はしない。同時に、悪い気もしていない。


 だって正直、頭を撫でられるのは嫌じゃないのだ。それに、髪を触られるのも……

 だが……これが、幼馴染であるからこその距離感なのか、他の女の子にもやるのか、わからない。

 今のところ、他の女の子にやっている姿は見ていないが。いくらフランクでも、そこらの女の子の髪を撫でる姿は見たくはない。


 ただ、幼馴染だからだとしても……女の子の髪を、そんな安々撫でるなどと。変に勘ぐってしまっても、仕方がない。

 ……それとも、まさか女と思われていないのだろうか。


「最近は、成長してきてるんだけどなぁ」


「ん、なんか言ったか」


「なにも」


 尊は、ようやく手を離した。


「そんなに嫌なら、気配でも察知して、避けるんだな」


「そんなの……」


 いつもの、尊の軽口。

 気配を読むだなんて、そんなの"殺気"が乗っていれば一発でわかる。


 ……言わなくてもいいことを言いそうになり、愛は咄嗟に口を閉じた。


 猛は不思議そうな顔をしているが、セーフだろう。

 危ない危ない。


「な、なんでもないわ」


「? そうか」


 この手の感触は、心地よく、そしてあたたかい。だから避けないというのは、尊にはわかっていないのだろう。

 もしもこれが、自分の頭を潰そうと伸ばされた手であったならば、即座に反応できたに違いない。


 それから、くしゃくしゃになってしまった茶髪をいじる。このときのために、手鏡を常備している。くしもだ。

 髪が長いため、くしゃくしゃになったら元に戻すのに時間がかかるのだが……


「もう、せっかくセットしたのに」


「いいじゃんか、お前の髪サラサラだし、気にすることないだろ」


「なっ……」


「サラサラなら、手でちょちょいと押さえつければ、戻んだろ」


「……うん、そうね」


 本当にこの男は、そんなことお構いなしで……それでいて、さらっとこちらをドキドキさせるようなことを言ってくる。

 それが、実際は褒めようなどという意味ではないことも、わかっているのに……また変に、ドキドキさせられる。


 ……この髪を褒められるのは、嫌いではない。

 まあ今のが褒められたのかどうか、微妙なところだが。


 この髪は気に入っている。昔、尊にこの髪が好きだと言われ、以来伸ばしているのだから。

 そんな昔のこと、尊が覚えているかは、わからないが。


「お二人さん、毎度毎度仲が良いな」


「もう、やめてよ」


 登校中ともなれば、クラスメイトにも会う。

 その度、からかわれるのもいつもの日常だ。校門までの時間も、あっという間だ。


 ただ、愛はこの時間が嫌いではない。

 むしろ、ずっとこの時間が続けばいいと思っている。


 ただ、そう思う度に……胸が痛む。

 このあたたかな時間を提供してくれている尊にも、秘密にしていることがあるからだ。


 決して、バレてはいけない秘密。

 それは……



 ブィイイイイ……!



 スカートのポケットの中で、スマホが震える。

 取り出したスマホの、その画面を見て……愛は、ため息を漏らした。


 今日もまた、"出た"ということだ。いつものこととはいえ、ため息が漏れてしまうのは仕方がないと、勘弁してもらいたい。


「そういや愛って、スマホ二台持ってんのな。芸能人かっての」


「ごめん、私ちょっと用事思い出した!」


 スマホをポケットにしまい、愛は今来た道を、逆走する。

 当然、並んで歩いていた尊は、突然の出来事に頭が追い付かない。いつもの軽口に、反応もないのだ。


「は? いやだってもうすぐ学校……」


「一時限目までには戻るからー!」


「おーい!?」


 後ろから尊の声が聞こえてくるが、愛は構わず走る。

 本当ならば、その声に応えてやりたいのだが……


 残念ながら、そうもいかないのだ。

 なぜなら、この"報せ"は一刻を争うのだから。


 …………柊 愛。彼女には、とある秘密がある。

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