女騎士たちの悲鳴のような叫びがガランとなった広間に響き渡り――――。
私事に浸っていた女魔術師と闇落ちしかけていた女魔術師の視線は、サリの胸元へと吸い寄せられる。
――――が、おっぱい健在時から愛用していた鎧姿なため、その内に何が秘められているのかは分からなかった。
ならば、とサリの表情を窺っても、デフォルトである平静顔を保っていて、やっぱり分からない。
女魔術師たちは、魔女が装着中の至高のおっぱいにチラッと視線を走らせた。
ぽよんとぱつんを兼ね添えた素晴らしい胸元には、特徴的なトライアングルほくろ。
女魔術師たちは諸々を察した。
そして、おっぱいを取り戻した者たちも、元から持っていなかった者も、任務のためとはいえ自前の至高を失ってしまった女騎士隊長の哀切を想い黙とうを捧げた。
元から持たざる女騎士たちは、未だに絶賛取り乱し中だった。
交渉の末受け入れたわけではなく、交渉をチラつかせておきながらの有無を言わさない略奪エンドだ。
さすがに気の毒である。流石に「ざまあ!」とは言えなかった。
しかし、取り乱す女騎士たちにガクガク揺さぶられているサリは、至って平静にして冷静だった。
サリは押し付けられた現実を淡々と受け入れ、代わりに目を背けたい現実を解消するためのとある要求をした。
「分かった。そんなものでよければ、謹んで進呈しよう。代わりに、攫ってきたイケメンたちは、魔法で速やかに元の場所に戻してやってくれないか? 王子以外のイケメンを詰め込む用の馬車は用意していなかったものでな。あれを連れて帰るのは骨が折れそうだ……」
「分かりましたわぁん! こちらとしてもぉん! 居座られても迷惑ですしぃん! それくらいは、お安い御用ですわぁん!」
魔女がパチンと指を鳴らすと、溢れかえっていたおっぱいの一斉消滅を嘆いていたイケメンたちも、おっぱいなき後もおっぱいを恐れて蹲りブツブツを続けているイケメンたちも、綺麗サッパリいなくなった。
ちなみに一応馬車が用意されているはずの王子も強制送還されていた。
「よし、これにて一件落着だな。さあ、帰るぞ」
「いやいやいやー!? ちょっと待ってくださいよぉー!?」
「ほ、本当にいいんですか!? いや、任務は完了しましたけれども!? 本当に手放してよかったんですか!?」
あっさりと踵を返そうとしたサリに女騎士たちは取りすがった。
サリはそれを振り払ったりはせず、足を止めた。
「ああ、構わない。こうして失ってみて、改めて気づかされたんだ」
サリはそこで一度言葉を止め、フッと爽やかに笑った。
晴れやかで、澄み渡るような、とても清々しい笑みだった。
「騎士におっぱいは不要だ…………とな」
女騎士たちが呆気にとられている内に、サリはスルリと拘束を抜け出し広間を抜けていく。
ハッと我に返った女騎士たちは、慌てて後を追いかけた。
置いていかれては叶わないと、女魔術師たちも遅れてその後をついて行く
「ちょっと、隊長ぉー!」
「そんな、何かの格言みたいにぃー!」
「おっぱいのつけ外しは叶わなくなったが、それならそれで、練習時には胸に重し代わりになるものを詰めれば問題ないな。むしろその方が重さを自由に調整出来て、かえってよい訓練になりそうだ」
「…………くっ! だから、おっぱいを重り付きリストバンドみたいに言わないで頂戴っ!」
サリは楽しそうに希望に溢れた展望を語った。
無理をしているわけではなく、心からそう思っているのが感じられて、女騎士たちは呆れ、肩を落とした。
怨嗟混じりの呟きを吐き捨てているのはミハルだ。
――――かくして。
一人の女騎士の尊き献身により、国を揺るがす未曽有のおっぱい大事件は解決した…………と歴史の上では語られている。