魔女は、昨夜は随分とおっぱいを楽しんだようだ。
エロい意味ではない。魔女的な意味でだ。
一行が連れていかれたのは、玄関からすぐの大広間だった。
なかなかに阿鼻叫喚だった。
中にはこれを見て天国図だと喜ぶ者もいるかもしれない。しかし、大半の人間は、地獄絵図に票を投じるだろう。
「うわぁ…………」
魂が抜けかけたうめき声のようでもある呟きは誰のものだったのか。
呟いた本人すら、分かっていなかった。
口にはせずとも、皆胸の中では同じように呟き呻いていたからだ。
魔女が王子の性癖を危ぶむ発言をした時以外、平静を保ち続けていたサリですら、魂を飛ばしかけていた。
そのまま魂を遠くへ逃がし、しばしの休息を与えて癒してやりたい……そう願ってしまいそうになる光景が繰り広げられていた。
おっぱい的にも、イケメン的にも、割と大惨事だった。
正確には、おっぱい大惨事が起因となってイケメン大惨事も発生し、より一層のカオスを生み出していた。
昨夜の魔女はイケメンと遊ぶよりもおっぱい遊戯を優先したのだろう。
それだけが、今分かる確かな真実だった。
床には、お遊戯に使用されなかった無数のおっぱいが転がっていた。
おっぱいを模した水饅頭が、ぽよぽよコロンと転がっているだけにも見えた。
おっぱい饅頭は二個セットではなく、完全なるバラ売り状態で散乱していた。
おっぱい饅頭は、この場における一番の売れ筋商品だった。
何人かのタイプの異なるイケメンたちが、両手に持った饅頭を揉みしだいている。
恍惚に浸っている者もいれば、虚ろな眼差しでただひたすらモミモミしているイケメンもいた。至高の逸品を求めて饅頭巡りをしているイケメンもいた。
――――かと思えば。
壁際に蹲り、念仏を唱えるように「おっぱい怖い」と呟き続けながら震えているイケメンたちもいた。
今後が危ぶまれる有様ではあるが、天然貧乳たちはここに活路を見出した。おっぱいに怯えるイケメンたちの心を救えるのは貧乳である自分たちだけだ、と未来へ希望を抱いたが、すぐにとある現実に気づいて愕然とした。
奢れるおっぱいだった者たちは、すべからく男と見紛う平原となってしまったのだ。もはや、貧乳とも呼べない真なる平原胸だ。
ということは、つまりである。
――――奴らの方が、ワンチャンあるのでは?
そんな現実に気づいて愕然とした天然たちは、怒りと共に闘志を燃やした。
元おっぱいであった後天性平原たちが、おっぱいに怯えるイケメンを慰めうまいこと結ばれるなど許せない。
イケメンたちの解放は、ほぼ約束されたようなものなのだ。
このままでは、そんな恐ろしい未来が確定してしまうかもしれない。
それくらいならば、いっそ――――と。
ここへきてようやく貧乳組は、おっぱい奪還作戦に対して、真剣に取り組むことを決意した。
決意を固めた貧乳組は、だからと言って何をするでもなく、ただひたすらに――――。
全権を託されている隊長サリに熱いエールを送った。
だって、指示があるまで控えていろって命令されていたから仕方がないのだ。
一方その頃、平原二人はというと――――。
魂を飛ばしかけたまま、灰になりかかっていた。
おっぱい被害は、饅頭の大セールだけではないのだ。
というか、そっちはむしろ。
魔女のおっぱい遊戯の……ただの残骸に過ぎなかった。