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第8話 イケメンは返品いたします。

「分かった。要求を呑もう。どのみち、報告はせねばならないからな。約束するまでもなく、姫様は盛大な地団太を踏む羽目になるだろう。ところで、王子はどんな案配だろうか?」


 サリは迷うことなく魔女の要求を呑んだ。

 馬車の中では女魔術師ミハルの王族おっぱいに対する不敬発言を咎めたのに、己が仕える王女への不敬には寛大だった。しかも、王子とポニョン国のおっぱいのために苦渋の思いで目を瞑ったわけではなく、不敬など何もなかったかのようなスルーぶりだ。

 あまりにも自然すぎて、隊員五名も不敬スルーをスルーした。

 そして、スルーされた魔女は大喜びで高笑いを披露した……後、ピタリと笑いを止めたと思ったら、なぜかスンとした顔になった。

 魔女はスン顔で、こう言った。


「王子は、お返ししますわん。ある意味ぃ、おっぱいの魅力に目覚めてしまったようですけれどぉ、想像していたのとはぁ、なんか違いましたわぁん。ええ、速やかにお引き取り下さいませですわぁ。あと、他のイケメンたちも引き取っていただけますぅ?」

「…………ほう?」


 魔女は、スンとしたテンションで、王子の現状を軽く伝えるのみならず、王子返品を申し出た。ついでのおまけのように、その他のイケメンについても返品というか返却を約束したというか、ぶっちゃけ「いらんから、持って帰ってくれ」と丁重に願い出てきた。

 まさかの全イケメン奪還交渉成立だったが、サリは軽率に飛びついたはしなかった。

 こうして、見事なおっぱい美女(ちなみに魔女は、自称ではなく本当にしっとり・ねっとり系の美女だった)となったからには、おっぱいと共に攫ったイケメンたちとイケメンハーレムを楽しむつもりなのだろうな、と普通は考えるだろう。サリもそう考えた。その上で、ならば、せめて王子だけでも返してもらえないだろうかと交渉を持ち掛けるつもりでいた。しかし、持ちかけるまでもなく魔女の方から積極的に、王子共々攫ったイケメンすべての返品を申し出てきたのだ。

 イケメンハーレムを堪能し尽くした上での「もう、いいわぁん」的返品ならば、この展開も理解できないこともない。しかし、王子の性癖を心配した王女により、可及的速やかに奪還部隊が派遣されたため、昨日の今日でのこの舞台だ。

 飽きるほどの時間は、なかったはずなのだ。


(((((はっ!? まさか!? 女に目覚めたのでは!?)))))


 隊員たちはそう邪推し、身の危険を案じた。しかし、魔女は隊員たちのことなど視界にすら入れていなかった。

魔女には返品理由を隠すつもりも、そもそも交渉をするつもりすらないのだろう。「聞いてちょうだぁい?」というようにユサユサとおっぱいを揺らしながら、魔女は話を続けた。


「わたくしもぉ、最初はぁ、せっかくだからぁん、おっぱい美女としてイケメンハーレムを楽しもうと思っておりましたのぉん。でもぉ、少しばかりぃ、おっぱいで遊びすぎてしまったようですのぉん。そのせいでぇ、せっかくのイケメンたちがぁ、あんなことにぃん…………」

「え? 王子の性癖は、御無事なのか?」


 魔女はユサユサを堪能しながら、不穏にまみれた悔恨告白をした。

 これまで平静を貫いていたサリが、ここで初めて動揺を見せた。


「……………………王子はぁ、ちょっと特殊な方向にぃ……いいえん、実際に見てもらった方が早いですわぁん。ついていらっしゃあぃん」


 魔女は、フッと口元に乾いた笑みを浮かべ、どこか遠くを見つめた後、そう言って身を翻し、一行を館の中へと誘った。


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