王子とおっぱいを奪還せよ部隊を乗せた馬車は、馬のために多少の休憩を挟みつつ、速足の魔法を使用の上、夜通し街道を走り、翌日には国外れの草原に到着した。
派遣された女騎士はサリを入れて、三名だ。サリ以外は、被害を免れた貧乳騎士だった。
女魔術師も同じく三名が派遣されていた。こちらは、まとめ役の女魔術師ミハルが元からの貧乳で、残りの二名がおっぱい被害により貧乳……というか平原胸にされた者たちだった。
貧乳騎士たちは、おっぱい奪還よりも王子奪還に熱意を寄せていた。
平原魔術師たちは、おっぱいを奪われたショックよりも、一瞬で国中のおっぱいを奪った魔女の魔法への興味の方が勝っているようだった。
魔女との交渉は、サリに全権が託されていた。
そのせいか……いや、そうであっても、それはどうかではあるのだが、後天性平原胸たちは、脳内にも話にも花を咲かせていた。
「それにしても、ものすごい技術ですよね! 是非とも、この技術を解き明かしたいですよね!」
「本当! おっぱいのつけ外しが自由にできるなんて、夢の魔法技術よね!」
「そうそう! 重いし邪魔だし肩こりの原因だし! 仕事の時は取り外して、デートの時だけ取りつけるように出来たら理想よねー!」
「ねー! 必要な時もあるけど、邪魔な時もあるもんねー!」
「………………………………」
「なんとか、実用化したいよねー! その魔法! うーん、夢が膨らむぅ!」
「おっぱいは萎んじゃったけどね!」
「……………………フッ、フフフ……」
平原胸たちは、都合の良い夢をキャッキャッと語り合っている。
貧乳騎士たちが、やさぐれて走行中の馬車から飛び降りなかったのは、同志である貧乳魔術師ミハルが、凪いだ目の奥に薄っすらと闇を漂わせ、抑揚のない笑い声を漏らしつつも、この苦行に耐え忍んでいるからだ。
騎士として同志を見捨てるわけにはいかない――――その一心で、女騎士たちもまた苦行に耐えていた。
もちろん、任務をおろそかにするつもりはない。飛び降りた後は、走って馬車を追いかけるつもりだった。
後天性平原胸たちは、生きた呪いになりかけている天然貧乳たちを慮ることなく……というよりも、呪具を作成しつつある現状に気づいてすらいないようで、ぱやぱやと夢を語り、馬車内に、いたずらに花びらを巻き散らした。