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第3話 おっぱいの魔手

 女騎士もまた、おっぱい被害者の一人だったが、護衛の任のため鎧を身に着けていたので傍目にはそうと分からなかった。

 女騎士は突如軽くなった胸元に感慨を覚えながらも自身のことには触れずに、犯行声明を発した草原の魔女について言及した。


「草原の魔女……とは、姫様が王立女学院に通われていた際、姫様と貧乳を競い合っていた娘のことですよね?」

「そ、そんなもの、競い合っておらんわ!」

「貴族のご令嬢ではなく、聖女候補として、魔法の才能を見込まれて入学した市井の娘ですが、結局大聖堂勤めにはならなかったんでしたっけ? なるほど、野に下って魔女となったのは、このためだったのですね……」

「あー、魔法の才能的には随一だったのだがな……。性格に問題ありとして大聖堂入りは見送られたと聞いてはいるが……。無駄に才能を使いおって……」


 王女と護衛の騎士の関係ではあったが、気心が知れた仲なのか、女騎士の物言いに遠慮はなかった。王女も、事実ではあっても見過ごせない事案には、すかさず反論したものの、不敬を咎める気配ない。苦い顔をしてはいるが、それは女騎士ではなく魔女に向けられたものだった。

 とりあえず、大聖堂の判断が正しかったことは、今ここに証明された。


 そんな二人の会話が呼び水となったのか、空っぽになっていた残りの面々の頭蓋骨の中に異空間へ旅立っていた脳みそが帰還した。

 とはいえ、脳みそはまだ本体に馴染んでいないようで、空っぽだった面々は、ぼんやりと王女のなだらかを通り越して平らかな胸周りをぼんやりと見つめている。

 王女は、少し前までパッドを愛用し、やりすぎにならない程度に盛っていたが、婚約者である王子が貧乳派と知り、潔くパッドを全廃したため、なかなかの平原ぶりだった。


「それで、姫様。どうされます?」

「もちろん! 奪われたなら、奪い返すまでじゃ! サリよ、そなたに任せる! よいか? 何としても、貧乳派の王子が巨乳に目覚めてしまう前に、王子をおっぱいの魔手から取り戻すのじゃ!」

「お任せください。あ、そうだ、姫様。あと、隣国のみなさんも。魔女に攫われた王子は、必ず私たちが救出いたしますので、ここは一つ……。おっぱいを奪われたポニョン国の女たちを憂えた心優しき王子が、おっぱいを取り戻すために護衛二人と共に魔女の元へ向かった……ということにしましょう。ほら、攫われた王子が攫われた先で、おっぱいぽよんぽよん歓待を受けていたなんて、そちらとしても、あんまり外聞がよろしくないでしょう?」


 ぼんやりと王女の貧乳を見つめていた隣国の面々は、ここでようやくハッと我に返った。面々は何とも言えない顔つきで目配せを交わし合った後、女騎士サリの提案を受け入れることにした。

 とりあえず、王子の身に危険はなさそうではあるのだ。

 王子の性癖の危機ではあるが、おっぱい歓待を受けて貧乳派から巨乳派への鞍替えを迫られるなど、おいたわしさを感じるどころか、うらやまけしからん話である。おっぱいであは~んな歓待を受けている王子の姿を思い浮かべると、どうしても深刻さがそがれる。というか、胸中は王子をうらやむ気持ち一色で、頭の中は「王子が戻ってきたら詳しく話を聞かねば……」という桃色思考でいっぱいだった。

 帰還したばかりの脳みそは、桃色思考に支配され、王子の外聞を犠牲にすれば有効な外交カードを手に入れられるな……などという外交思考は完全に桃色に塗りつぶされていた。

 男だから、仕方がないのである。

 ちなみに、サロンに居合わせた王女以外の女性陣はもれなくおっぱい被害にあっており、その脳みそは未だ異空間……ではなく彼岸へと旅立ったままだった(どこ吹く風の女騎士サリは除外する)。


 ――――こうして、王女の決断力と女騎士サリの機転により、ポニョヨン国は、ひとまず外交問題のピンチからは免れた。


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