おっぱい&イケメン消失事件は、もちろん王宮でも起こっていた。
こちらでは、イケメン消失についても認知されていた。
むしろ、イケメン消失の方が問題視されていた。
消失したイケメンが、隣国の王子だったからである。
イケメン王子は、ポニョン国第三王女の婚約者だった。
政略的な婚約ではあったが、二人は一応思い合っていた。
書簡を届ける公務のついでに王女の元へ立ち寄った……と本人は言っていたが、どちらかというと書簡の方がついでというか、むしろ口実だったのだろうということは、誰の目にも明らかだった。
お茶を楽しみながら、お互いの近況を報告し合っている最中の出来事だった。
背後に控えていたイケメンの護衛二人と共に、王子は忽然と姿を消したのだ。
不幸中の幸いにして世継ぎの王子ではなかったが、世継ぎでなければいいというものではない。
しかし――――。
『国・際・問・題!』
――――の四文字が重くのしかかる前に、犯人から音声のみでの犯行声明がお届けされたおかげで、色々な諸々は結果的に有耶無耶になった。
犯人は高らかに笑いながら、こう告げた。
「お~ほっほっほっほぉ~! ポニョン国の授乳中以外のすべてのおっぱいとぉー、この国一番の貧乳であるド貧乳王女の婚約者を含むイッケメ~ンたちはぁ、こぉの、わたくしぃ、草原の魔女が頂戴いたしましたわぁ! お~ほっほっほっほっほっほぉおおおお! あーっはっはっはっはぁー! ああ、安心なさってぇ! 見る目のない王子はぁ、頂いたおっぱいでぇ、丁重にもてなすわぁん! 王子がド貧乳派からぁ、おっぱい・ぱいん・ぱい~んへ派の鞍替えをしたらぁ、ちゃあんと返してあげますわぁん!」
品性も知性も感じられない犯行声明は、そこで終わった。
王女と王子のお茶会が開催されていたサロンは、沈黙に包まれた。
突然の忽然消滅に頭も心もついていけず、「え?」という単語が像を結ぶ前の犯行声明である。
しかも、内容がひどい。
動揺から立ち直り、事態の把握に努めようとある程度の落ち着きを取り戻した頃合いに聞かされたとしても、脳みそだけが異空間へ飛び出しちゃった☆……状態に陥りそうだった。尚且つ、我に返ってから、この現実逃避は正当な逃避であると主張したくなるような、そんなふざけた内容である。
サロンに残された面々は、各自機能停止に陥っていた。脳みその方は、当然のように異空間へ旅立ち済みだ。それに伴い、本体の方は活動停止に追い込まれていた。
そんな最中、活動を維持している者が二人だけいた。
怒りにプルプルしている王女と、「ふむ?」と首を傾げている女騎士の二人だ。
二人と、その他の面々の違いは、ただ一つ。
犯行声明を発した草原の魔女を知っているか否か――――であった。