その日、国中の女たちのおっぱいが盗まれた。
ちなみに、所謂貧乳と呼ばれるサイズのおっぱいは難を免れ、授乳中のおっぱいも免除された。
この時、国中の一定レベル以上のイケメンたちも攫われていたのだが、おっぱいショックが強すぎて、あまり話題にならなかった。
突然の出来事だった。
さっきまでそこに存在していたはずのおっぱいが忽然と姿を消したのだ。
本体を残して、おっぱいだけが姿を消したのだ。
幸か不幸か乳首だけは残された。
豊かだったおっぱいは、ただの『板と乳首』へと変貌した。
一瞬の出来事だった。しかも、同時多発だった。
一瞬にして、上半身だけが女から男になったようでもあった。
巨乳を誇っていた者達ほど、被害とショックが甚大であった。
パツン・ポヨンと張っていたおっぱいを失っていたことによって生じた胸周りの布余りは哀れを誘った。
ご自慢の谷間を見せびらかすような破廉恥なドレスを着ていた者たちは、スルーン・ストーン・ペターンショックをダイレクトに味わうハメになった。
パッドで多大なる水増しをしていた者は、それらの大惨事を見て「あら、あの人もパッドを入れていたのね。ちゃんと縫い付けておかなかったのかしら? けれど、ずれたパッドは何処へ行ったのかしら? もしかして、背中におっぱいが出来ちゃってるのかしらん?」などと呑気なことを考えていたが、後に水増し過多なパッド愛好者であることがバレて苦境に立たされたりもしたらしいが、まあ、余談である。
大変な事態ではあったが、ひとまず暴動に発展することはなかった。
被害にあった女性たちはショックのあまり呆然自失だったし、気を失うものも多かった。
男たちもまた、突然の消失にショックを受けたり、まさか自分の大切なモノもなくなっているのではと慌てて確認した後、無事と分かって安心のあまり放心したりで、ひとまずのところは、いかなる意味においても役に立たなかった。
被害にあわなかった女たちは、倒れた元巨乳たちの介抱にあたったりした。しかし、こちらはこちらで、内心では「奢れる巨乳どもに天罰が下ったのね。ざまあ!」などと思っており、騒ぎ立てるどころか神に感謝を捧げる始末だった。
初期騒動が治まった頃、国王から御触れが出た。
御触れには、ざっくりいうとこんな感じのことが書かれていた。
『この度の騒動は、国外れの草原に住む魔女の仕業である。
既に騎士と魔術師が奪還のために出立したから、騒ぎを起こさず、大人しく吉報を待っていろよ?』
人々は、御触れの通り、大人しく待つことにした。
国への信頼や怖れ敬う気持ちから、ではない。
単に魔女を恐れたのだ。
草原に魔女が住んでいるという噂は、あった。
けれど、これまでに魔女が何かを仕出かしたことはなく、魔女だからといって、特に恐れられてはいなかった。
しかし、である。
件の魔女は、姿も見せずに、ほんの一瞬でこれだけのことを仕出かしたのだ。
イケメン行方不明のことは、まだ事件になっていなかった。
それを置いても、一瞬で、国内の貧乳と授乳中以外のおっぱいがすべからく失われてしまったのである。
特に傷口もなく、巨乳が貧乳にツルンと様変わりしたのだ。
とんでもない力である。
どう考えても一般人が太刀打ちできる相手ではない。
下手に逆らえば、次は何を奪われるか分からないのだ。
おそらく、魔女は貧乳なのであろうということは、何となく察することは出来た。
しかし、皆口を噤んだ。
触らぬ神に祟りなし…………だからである。