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第4話:それぞれの仕事

 スマートフォンのアラームが鳴り、凜は目を覚ました。少し働かない頭でカーテンを開け、日光をを全身に浴びる。


「ん~~~~ッ」


 伸びをしてから軽く運動をして、寝巻から着替える。


 在宅ワークと言えど毎日しっかりと着替え、朝食を食べてから仕事を始めるという規則正しい生活を心がけていた。


 朝食は簡単にトースト2枚と目玉焼き。飲み物のコーヒーはインスタントだった。


(色々こだわって自分で豆から挽いてた時期もあるけど、結局は面倒でインスタントに落ち着いたなぁ)


 コーヒーの香りが部屋を満たし、落ち着いた気持ちになる。


「いただきます」


 何の変哲もない朝食だが、温かい食事というだけで活力になった。


 20分程かけて朝食を済ませ、凜は仕事に取り掛かる。


「今日はコラムが2本か」


 小説に関する月刊誌に掲載するコラムの仕事が入っているので、それを片づける。


 机に向かい、PCの電源を入れて意識を仕事モードに切り替えた。


 コラムのテーマは『小説家としての原点』と『1人暮らし』。凜はしばらく考えてからキーボードに指を這わせた。


 2時間が経過したころ、コラムの半分ほどが完了したが、調子よく書き進められていたので休憩を取らずに完成まで一気に書き上げる。


 そして再び2時間が経過すると、1本目のコラム『小説家としての原点』が無事に完成した。


「終わったぁ」


 喜びと共に時計を見ると正午を過ぎていた。


「もう昼か。何食べようかな」


 ぼんやりと凜は昼食を考え、冷蔵庫に向かった。





 昼休憩に入った香奈乃は、スタッフルームの椅子に腰掛けると、大きく息を吐いた。


「疲れた」


 ふくらはぎの痺れを感じ、座ったままで足のストレッチをする。


 今朝はいつになく忙しかった。風邪で2人のパートが休んだことと、複数の新商品が入荷したことで少ない人数で店を回す結果になり、全員が目の回る思いで働いたのだった。


 休憩は1時間。その間に昼食を済ませ、足の疲れを回復させなければならない。


(まずは、お昼よね)


 私物のリュックの中から、コンビニで買ったサンドウィッチと職場のスーパーで買ったお茶を取り出す。


 サンドウィッチは、定番の卵とハム。それを食べながら、日課になっているSNSのチェックも始めた。


(昨日のゲーム実況は盛り上がったから、SNSの方もコメントが多いなぁ)


 自分に関する言葉で溢れた画面を眺めながらサンドウィッチを頬張る。


 面白さや可愛さを褒めてくれるファンは有り難い。香奈乃のモチベーションも上がるので今日の配信の糧になるし、午後の労働にも耐えられる気がした。


 ニヤニヤしながらスマートフォンを眺めていた香奈乃だったが、スタッフルームに人が入ってきたので澄まし顔に戻した。


「おつかれさま」


「お疲れ様です」


 香奈乃のと同じパートとして働いている40代の女性。彼女も朝から必死に働いた一人であり、椅子に腰掛けるやいなや疲れた表情を見せた。


「最近風邪が流行ってるらしいわよ? 次男の中学校でも学年の何人かが風邪で寝込んでるらしいのよ」


「そうなんですね。気を付けないとお店回らなくなっちゃいますね」


 季節の変わり目はどうしても体調を崩しやすい。もし風邪でも引けば、仕事にもVtuber活動にも影響が出るのは明白だった。


(風邪はネタにはなるけど、苦しい思いはしたくないし引かないのが正解よね)


 そんな事を考えながらサンドウィッチを齧る。 


「そう言えば、えーと何だっけ? 最近インターネットで流行ってる、V、Vtuberってわかる?」


「え?」


 反射的に聞き直し、硬直した表情を向ける。


(身バレ?)


 Vtuberをやっている人間の恐怖することは共通していた。


 自身がVtuberとして活動している事がバレる身バレは避けたい事柄だった。


 バレたところで何か問題がある訳ではないが、知り合いが自分の配信を見ていると知ってしまえば、ノリ良くゲームもできないし迂闊うかつな事も言えなくなってしまう。


 冷や汗をかきながら身構える香奈乃に対し、同僚の女性は話しを続ける。


「ウチの長女がハマってるらしいのよ。ライブに行きたいとかグッズが欲しいとか言い出してね。私も夫もよくわからないから、知ってそうな人に聞いてみてるのよ」


(あ、あぶねー。バレたのかと思った)


 内心では心底震えていたが、それを表情には出さずに言葉を絞り出した。


「さ、さぁ。私も何となく聞いたことありますけど、詳しいことはわからないですねぇ」


 力になれないことをアピールしながら昼食を続けた。


 そして、もう少しでサンドウィッチを終えるという頃、スタッフルームに店長が駆け込んできた。


「申し訳ないんだけど、どっちか店の方に出てきてくれないか。客足が急に増えちゃって、人手が足りないんだよ」


 そう言われて無視もできない。香奈乃は手早くお茶を飲んで立ち上がる。


「今行きます」


 短い休憩を終えて店内に戻り仕事を再開する。店長の言うように、先ほどより客の人数は多かった。


 香奈乃は急いでレジに入り、笑顔で客の商品のスキャンをする。


(これはトンカツ)


(麻婆豆腐)


(カレー。いや、肉じゃが)


 疲れを少しでも誤魔化すため、客のカゴの中身で夕飯を推理する遊びをしながら、香奈乃は午後の仕事をこなしていった。


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