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第6話 ゼノ

「はあ??イナバがなんとかしてくれるんじゃないの!?」


 翌朝、部屋に運ばれてきた朝食を食べながら衝撃の事実を確認する。


「じゃあどうやって魔法学園に入学するんだよ!?」


「だからそれをこれから考えるんじゃろうが!」


「これから考えるって......」


 八十神はガックリと肩を落とした。

 昨日、魔法学園と聞いてテンションが上がっていただけに落胆は大きかった。

 一度上げてから落とされるのはちょっとキツイ。


「はぁー」


「なんじゃ。若いのに溜息なんぞつきおって」


「結局、お先真っ暗じゃんか」


「きっと方法はあるはずじゃ。元気を出せい」


「根拠もなく元気は出ないよ」


「こんのぉぉぉ......現代っ子め!!」


「そういう問題!?」


「外に出るぞ!気分転換じゃ!」


「えええ!?」


 イナバに外へ連れ出されると......。


 そこには見たことのない新鮮な、自然豊かな村の風景が広がっていた。

 なにか古い時代(江戸時代かもっと前)の日本の田園風景に似ているような気もするが......でもやはり違う。

 ここは日本ではない。

 別次元の世界の国〔オリエンス〕なのだ。


「手前味噌ですが、のどかで自然豊かで良い所でしょう?」


 自ら案内をかって出てくれた村長がおだやかに微笑んだ。


「本島の都会から心身の疲れを癒しにいらっしゃる方もいるんですよ」


「ふんっ。ただのド田舎じゃろが。つまらん村じゃ」


 八十神の肩に乗った白兎が毒づいた。


「お、おい!いきなりそんな言いかた...」


「オイラは事実を言っただけじゃ」


「事実とかそういうことじゃなくて...」とイナバをいさめようとしながら八十神は村長の様子をうかがったが、その顔は笑顔のままだった。


「たしかに田舎です。八十神殿のような若者にはつまらないでしょうな」


「そ、そんなことは!」


「ホッホッホ。気にしないでいいですよ。ところで、イナバ様がなにか言いたそうですが?」


「ふんっ。オイ村長。魔法学園に何かツテはないか?」


「魔法学園に...ですか?ええと......それはまたなぜ?」


「実はな。この八十神少年をオリエンスの魔法学園に入れたいと思っておってな」


「なんと、八十神殿は魔法が使えるのですか?」


「八十神少年の中には大いなる力が眠っておる」


 え、そうなのか。

 昨日はお茶を濁されたけど、俺ってやっぱり魔法使えるのか!

 八十神は密かに興奮する。


「といっても、眠ったままで終わってしまうかもしれんがな」


 おい。結局どっちなんだ!

 八十神は密かにツッコミを入れる。


「だからこそ、そうならんように魔法学園でしっかりとした魔法教育を受けさせたいのじゃ」


 あ、そういうことね。

 イナバのやつ、なんだかんだで俺のこと、ちゃんと考えてくれているんだな。

 八十神は密かに納得した。


「なるほど。ということは、来年の入学を目指されているというわけですかな?」


「え??」


 八十神とイナバの疑問の声がユニゾンした。


「来年??」


「魔法学園の今年度はすでに始まってしばらく経ってしまっていますからね」


「失念しとったぁ〜!!」とイナバは叫ぶが「いや、待てよ」と急になにかを閃く。

 腕を組んで考えてから、イナバはぽんと手を叩いた。


「編入という手がある」


「そうか!編入か!でも方法は?」と八十神。


「わからん!」


「わからんのかい!」


「じゃが...」


 イナバはチラッと村長に視線を転じた。

 しかし、うーんとうなった村長から出てきた答えは、期待外れのものだった。


「残念ですが、ツテはございません」


 行き詰まった。

 ということは、この島のこの村で、一年間ダラダラ過ごすのか......。

 そう思った瞬間だった。


 ドガァァァァァァン!!


 突如として近くでとんでもない爆音が鳴り響いた。


「な、なんだ!?」


 島がゴゴゴゴッと揺れる。


「あ、あれは......」


 村長がある方向を見て声を震わせる。


「森が...燃えている?」


 森の奥から煙が立ち込めている。

 さらにそれだけじゃない。


「あの生き物は......!?」


 森の上空に、巨大な鳥のような獣がバサーッと羽ばたいている。

 全長七、八メートルはあるだろうか。


「あれは...」

 途端に村長の顔が青ざめる。

「大怪鳥プテラス」


魔物ゼノじゃな。いや、ただのゼノじゃない。改造ゼノか」


 イナバが八十神の頭に乗って言った。


「しかも、よく見ると人もいる」


「人もいる?まさか......魔法犯罪組織!?」


 八十神の発言に、村長がいっそう深刻さを表す。


「魔法犯罪組織エトケテラ。なんでも人工ゼノを利用して犯罪を犯しているという、悪名高い組織です」


「人工ゼノ?」


「はい。噂では死にかけの魔物を違法に入手して魔改造したとかなんとか。完全に違法です」


「つまり、大怪鳥プテラスを手に入れて魔改造して犯罪に利用しておるというわけか。ただのゼノだけでも一般国民にとっては充分危険な存在なのにな」


 イナバの表情が一段と険しくなる。


「看過できんな。エトケテラは」


「それより......こっちに向かってくる!」


「イナバ様!八十神殿!すぐに避難を!」


 村長が叫んだが、遅かった。


「えっ??」


 なんと、大怪鳥プテラスはひと息の間に彼らのすぐ上空まで到達していた。


「オイ!そこのジジイ!オマエが村長だな!」


 大怪鳥の上から声が響く。

 見ると、悪人ヅラの三人の者が怪鳥の背中にまたがっていた。


「ジジイ!この島に着いた日から村長のオマエに目をつけていた!」


「な、なんの用だ!」と村長。


「もう邪魔者はいない!昨日やっつけたからなぁ!」


「ま、まさか!貴様らが国家魔術師を!?」


 村長の反応に、趣味悪いスーツを着たチョビ髭の悪人がニヤけた。


「もうこの島に頼れる者はいない!殺されたくなかったらこの島全部をおれたちエトケテラに明け渡せ!!」


「そ、そんなこと......!」


「選択肢はないぞ!」


 大怪鳥の口がパックリ開いた。

 次の瞬間。


 ブワァァァァン!!


 轟音ごうおんとともに口内から光の塊が凄まじい勢いで放出された。

 光の塊は村の一角に着弾する。


 ドガァァァァァァン!


 先ほど以上の爆音が鳴り響く。

 爆風が噴き出し、破片が飛散する。

 村から煙と炎がごうごうと立ち上がった。


「さあさあ早くしろ!さっさとしないと村ごと焼き払ってしまうぞ!」


 チョビ髭の悪人は憎々しく高笑いを上げた。


「死人が出る前に早くやるんだなぁ!」


「くっ......!島を明け渡せば、この島が悪の巣窟となってしまう!だが逆らえば村民ごと焼き払われてしまう!どうすれば......」


 頭を抱える村長。

 しかし悪人は待ってはくれない。


「悩んでる間に村がめちゃくちゃになるぞぉ!」


 再び爆音が鳴り響いた。

 村が爆撃される。

 破片と煙と炎が舞い上がる。


「イナバ!どうしよう!」


 もうわけがわからなかった。

 完全に理解の範疇はんちゅうを超えてしまっている事態に八十神は狼狽える。


「逃げなきゃ!逃げなきゃ!逃げな...」


「落ち着けい小僧!」


「んべ!」


 八十神はイナバにグーパンチを食らった。


「な、なにするんだよ!?」


「とにかく冷静になれ!さもなくば助かるものも助からなくなる!」


「こんな状況で冷静になるなんて俺には無理だよ!」


「小僧。こんなもので慌てふためいていては先が思いやられるぞ」


「こんなものって!充分ヤバいじゃん!?」


「いや、こんなものじゃ。あれを見てみい」


 イナバはある方向を指さした。

 八十神は、言っていることの意味がさっぱりわからなかったが、それはすぐに解消される。

 悪い意味で。


「えっ??なにあの、バカデカいのは......」


 イナバの指し示した方向から、彼らに向かってとんでもなく巨大な鳥獣が重々しく羽ばたいて来ていた。

 全長は二十......いや、三十メートルぐらいか。


「あれはまさか!」

 村長が目をいて叫んだ。

「魔鳥獣、プテラスキングじゃ!」


「プテラス...キング!?大怪鳥プテラスと違うの!?」


「八十神殿。プテラスはあくまで魔物。しかしプテラスキングは魔獣。つまり、プテラスよりもより危険度の高い〔ゼノ〕ということ!」


「まさか......プテラスに反応して、プテラスキングまでもが現れおったのか。ゼノは同系統のゼノを呼び寄せる性質がある。じゃが、上位のゼノを呼び寄せるとは...運が悪いのう」


 イナバの顔は俄然厳しいものになる。

 八十神と村長は悚然しょうぜんとしてしまう。

 そんな彼らの反応を見て、エトケテラの悪人どもが疑問を浮かべた。


「ん?どこを見ている?なにかあるのか?......あれは......はぁ!?なんだあのバケモノは!?」


 まもなくプテラスキングの巨体は、八十神たちの上空から大きな影を落とした。

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