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第5話 悪くないかも?

 やった!

 布団だ!

 横になれる!


「疲れたぁ〜」


 八十神は、ばふんとベッドに倒れこんだ。


「おいおい。食べてすぐ寝ると牛になると親に教えられなかったか?」


 イナバが枕元にぴょんと乗ってきた。


「寝る前に今後の方針を決めておくぞ。いつまでものん気にこの村へ留まっておるわけにもいかんからな」


「今後ってなんなのさ」


「すでに説明したじゃろう?お主はいずれオリエンスを救うべく共に闘う仲間を探さなければならぬ」


「そんなRPGみたいなの、俺にはムリだよ......」


「今さら何を言っておる。どの道そうするより他はないのじゃぞ」


「それにさ。国を救うったって、そもそもオリエンスはそんなに危機なの?戦争が起きているわけでもないんでしょ?確かにこの島は色々大変みたいだけど、それはたまたまでしょ?」


「ハァー。平和ボケ小僧じゃな、お主は」


「な、なんだよいきなり」


「危機というのはそうなってからでは遅いんじゃ。そうなる前に準備・対策を講じておかなければならんのじゃ」


「それはそうなんだろうけど」


「今、オリエンスでは〔ゼノ〕の発生と魔法犯罪組織の活動が徐々に活発になりつつある。なのに国家魔術師の人手不足。これはいずれ必ず深刻な問題が生ずる。その先には国家の存亡の危機となるような脅威が待ち受けておるんじゃ!」


「話が大きすぎて重すぎて俺にはシンドイよ。俺はただ、充実した高校生活を送りたいだけなのに。青春を取り戻したいだけなのに......」


「だったらなおさらじゃ」


「どういうこと?」


「ハァー。お主はオイラの言葉を額面通りにしか理解できんのか」


「な、なんだよ、その言いかた」


「いいか?魔術師は国の許可(免許)を受けた国家魔術師となって初めて正式に活動ができる。ではそのための資格はどうやって取るのか?」


「試験を受けるんじゃないの?」


「そうじゃ。そして試験を受けるにも一定の資格が必要じゃ。ここまで言えばわかるじゃろ?」


「そ、そうか!学校か!」


「そうじゃ。それが魔法学園じゃ!」


「ということは......魔法学園に行けば仲間も見つかるってこと?」


「そういうことじゃ。お主の言う充実した青春とやらも味わえるんじゃないか?ま、それは小僧次第じゃろうが」


「魔法学園に行く......か」


 考えた瞬間、八十神のテンションがにわかに上昇する。

 こんな気持ちになるのは、ここに来て初めてだった。

 この際、充実した高校生活、青春が過ごせるなら場所は問わなくてもいいんじゃないか?

 こっちの魔法学園とやらで頑張るのも悪くないかも?

 むしろこっちなら、今までのすべてを断ち切って完全な新スタートが切れる。


「いいかも」


 八十神の口からこぼれた。


「急にやる気が出てきおったか?」


 イナバがニヤニヤとした。

 つられて八十神もニヤけそうになったが、ふと肝心なことに気づいた。

 というか、なぜ俺はこんな重大なことを気にしなかったんだ!?


「なあイナバ!」


「なんじゃ?急にどうした」


「俺って...魔法使えるの?使えるようになるの?」


 質問すると、八十神は緊張して息を飲む。

 ところがだった。


「使えるぞ」


 イナバはあっさりと答えた。


「そ、そう......!」


 八十神の胸が高鳴った。

 俺も...魔法が使える!


「じ、じゃあさ?どうやって使うんだ??」


 期待に胸を膨らませながらたずねた。

 ところがだった。


「ふんっ」


 今度のイナバは渋い顔つきで答えをにごした。


「えっ?教えてはくれないのか?それとも知らないのか?」


「ふんっ。いずれにせよまだ早いわ」


「は?どういう意味?」


「どういう意味も何もない。もう寝ろ」


「なっ!なんだよそれ!」


「うるさいわ!」


「ぐべっ!」


 イナバから理不尽な兎蹴りを喰らった八十神。

 結局、この日は魔法についての具合的なことは、何も教えてもらえないまま眠りについた。

 納得はできなかったが、それ以上に八十神は疲れていたのである。

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