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第4話 魔法犯罪組織

「実はこの島...ヤソジマには古い伝承があってな。その伝承の中に神使の白兎が出てくるのだ。しかも、その神使の白兎は遙か東方におわす神の御先みさきとされている」


「は、はあ」


「そして八十神殿。其方そなたは東方の国の出身で、実家が宗教施設と言ったね」


「は、はい」


 拘束を解かれた八十神は、また別の部屋に通された。

 もっと広い部屋だ。

 さっきまでとは対応が百八十度変わっている。

 今度は明らかに客人対応だ。

 目の前のテーブルにはご親切に飲み物まで用意されている。

 イナバの言うとおりに従ったら、本当にうまくいったのだ。


「おいオッサンども!」


 突然、イナバがぴょんっと八十神の肩に跳び乗って、切り口上こうじょうで喋りだした。


「まずは八十神少年に謝らんかぁ!この失礼極まりない無礼者どもめぇ!」


 ハッとした男たちはガタンと立ち上がると、平伏へいふくするように深く頭を下げた。


「ちょちょちょ!そんな!もういいですよ!」


「いや!本当に申し訳ない!麻酔弾とはいえ発砲までしたんだ!」


 八十神はあたふたとしてイナバに「そ、そこまで言わなくても」とささやいたが、神使の白兎は断固たる態度だ。


「こういうことはちゃんとしておかないといかん!でないと舐められるぞ!舐められて損するのは結局お主じゃ!肝に銘じておけ!」


「そ、そう言われればそうだけど」


 戸惑いながらも、とかく流されがちな八十神にその言葉は妙に刺さった。

 言ったのはウサギだが。


「そういうもんじゃ!これは自分自身の身を守るためでもあるんじゃ!」


「わ、わかったよ」


「ふんっ!さあオッサンども!しっかり謝罪せい!」


「このとおりだ!申し訳ない!ただ...」


 ここで男のひとりが顔を上げた。


「あのような対応をしてしまったのには理由わけがあるんだ!」


「理由じゃと?言い訳など聞きなくないわ!」


「ちょちょ!それは聞いてあげようよ!」


 八十神はイナバを制止して彼らの話を聞こうとした。

 もし何かしらの事情があるなら、それを知っておくのは今後の自分の安全にとってもプラスになるはずだからだ。


「まあよいわ。ではオマエらの理由とやらを聞いてやるわ」


 イナバはテーブルにスタッと飛びおりて、偉そうにあぐらをかいた。


 男たちが互いにうなずき合い、「じ、実は...」と男のひとりがおもむろに語りかけた時。

 部屋のドアがガチャッと開いた。


「ワシが詳しく話そう」


「そ、村長!?」


 入ってきたのは、男たちから村長と呼ばれる、白髪に白髭を伸ばしたおじいさんだった。

 彼は杖をついて近づいてくるなり、

「ワシがこの島の村長のテラダじゃ。まずは村民の非礼をびよう」

 しっかりと自己紹介と謝罪をし、村民と代わって正面の席に腰をおろした。


「おお。貴方が神使の白兎...イナバ様ですな」


「ほう?オイラのことを知っておるか」


「おおお......本当に言い伝えどおりじゃ......」


「村長!?知っているんですか!?」


「ああ。子供の頃、祖父から聞かされたことがある。神使の白兎、イナバ様の話を」


 村長の目には感動の光が射していた。


「まさかこんなタイミングでイナバ様が現れるとは。これは天佑てんゆうかもしれぬ......」


「こんなタイミング...か。どうやら事情がありそうじゃな。それが八十神少年を銃で撃って捕らえた事と関係があるんじゃな?オイラに会えてさぞ感動にひたりたいところじゃろうが、まずはさっさとそれを話せ!」


「は、はい!イナバ様!」


「ふんっ。さっさと貴様が出てくれば話が早かったものを。まあよい。ではその事情とやらを、八十神少年を捕らえた理由を、聞かせてもらおう」


 村長テラダはこくんと頷くと、憂惧ゆうぐの面持ちで語りはじめる。


「実は最近この島に、ある犯罪組織の一味が潜伏しているらしいという噂があるのです」


「犯罪組織?どんな奴らじゃ?」


「わかりません。ですが昨日、ある事件が起こりました。なんと、この島の警備を担当していた国家魔術師レース・マグスが何者かに襲われて重傷を負って本島に送還されてしまったのです!こんなことはまず滅多にない!」


「ふむ。それはおそらく......ただの犯罪組織ではないな」


「はい。魔法犯罪組織かと思われます」


「魔法犯罪組織!?」


 思わず八十神は声を上げてしまった。

 先ほどまでは魔法と聞いて、漠然とファンタジーなものを思い浮かべていたが......つまりは魔法を使って悪事を働く集団ということだろうか。

 いやいや怖い怖い!


「そして問題はそれだけではないのです」


 村長はさらに表情を曇らせる。


「まだ代わりの魔術師が派遣されて来ていないのです。昨今、国家魔術師の人手不足が問題視されていましたが、それが原因でしょうか」


「なるほど。ということは、今このタイミングで〔ゼノ〕が現れたら大変なことになると」


「そういうことです」


 イナバの言った〔ゼノ〕とは、いわゆる魔物の総称。

 なんでもイレギュラー的に生じる〔次元の裂け目〕から時々、人間の国に迷いこんで来るらしい。

 それを退治して治安を守るのが国家魔術師だ。

 最初にイナバから説明を受けた時。八十神は、あまりにも非現実的過ぎて話半分どころか話十分の一ぐらいで聞いていた。

 だがこうやって他人の会話の中で聞いていると、次第に現実味を帯びてくる。


「それで不審者と思われる存在に敏感になっておったというわけか。小僧、納得したか」


 イナバが様子をうかがうように八十神をチラッと見た。


「まあ、うん」


 八十神としては首肯しゅこうするしかなかった。

 そもそも彼にとっては何もかもが青天の霹靂へきれきみたいな話で、納得するもしないもないのだ。


「......ところで」


 ここで村長がひと息の間を置いてから、話を切りかえた。


「物騒な話をした後で言うのもなんですが、もしよろしければワシらの村でゆっくりしていきませんか?田舎だが歓迎させてください」


 村長の好意に、八十神は思う。

 これは願ってもない申し出なのでは、と。

 でもイナバはどう考えるだろう。そう思ったのも束の間。


「うむ。では歓迎を受けてやろう」


 イナバはあっさりと承諾した。


「今はそうするしかあるまい。今後に向けてまずはここを拠点にするぞ」

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