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第2話 ウサギ

「俺、どうなるんだ。なにがなんだかさっぱりわからない......」


 いきなり猟師に撃たれて、目が覚めた八十神がいたのは、牢屋の中だった。

 とりあえず生きてはいる。

 麻酔銃で撃たれたのだろうか。

 目立った怪我はしていない。

 殺されなくて良かった。

 なんてそういう問題じゃない。

 そもそも現代の日本で、いきなり猟銃に撃たれるなんてことあるのか?

 人権侵害にもほどがあるぞ!


「俺は人里におりてきた熊か!」


 今さらツッコミを入れてもしょうがない。

 いったん冷静になろうと、八十神は無理矢理にでも心を落ち着かせようとした。

 冷静になって、現状とこれからどうするかを、まずはしっかり考えるべきだ。 


「......んでね?」


 どう考えてもヤバかった。

 いや落ち着け。

 八十神は深呼吸する。

 とにかく、無実の罪だということを訴えるしかない。

 きっとわかってくれるはずだ。


「......わかってもらえなかったら?」


 そもそもいきなり撃たれている時点で普通じゃない。

 話せばわかるとかそういう次元ではないのかもしれない。


「逃げるか......?」


 でもその方法が思い浮かばない。

 ああクソッ。

 考えれば考えるほど絶望する!


「おい少年」


「......」


「そこの少年」


「......」


「そこの中肉中背の黒髪の制服姿の少年。お主じゃ!」


 八十神はびくんとした。

 誰かが、俺のことを呼んでいる?

 だが、まわりに人の姿は見受けられない。


「視線をさげろ!バカモノ!」


「視線をさげろ?......えっ?」


「オイラが見えたか?少年」


「う、ウサギがしゃべってる!?」


「なんじゃ。兎が喋っちゃ悪いのか」


 なんだこれは?夢でも見ているのか?

 八十神は目をこすって頬をつねった。


「悩んでおるのぉ〜若いってええのぉ〜」


 視線の先に、ニヤニヤした白兎しろうさぎが立っている。

 えっ、なにこれ、ヤバい。


「キモっ!!」


「誰がキモイじゃ!失敬な!」


「兎が喋ってるとかマジできしょっ!」


「このタワケがぁ!!」


 白兎が、ウガーッと八十神の顔に飛びかかってきた。


「ちょっ!痛い痛い痛い!」


「こんなにラブリーでプリティーなオイラにむかってキショイとはなんじゃあ!謝罪して撤回せんかぁ!」


「わかったわかったわかったわかった!謝ります謝ります!撤回します撤回します!ゴメンなさいゴメンなさいゴメンなさいっ!」


「わかればよい」


 白兎はパッと八十神から離れてスタッと床へ着地した。


「まったく最近の若いモンは」


「あ、あの、ええと」


「まあ今はまだ混乱しているじゃろうから大目に見てやるが」


「は、はあ」


「だがオイラが来たからにはもう安心せい!八十神神社やそがみじんじゃのせがれ、八十神天従やそがみたかつぐよ!」


「ええ!?俺のこと、知っているの!?」


「もちろんじゃ!いいか?今から簡単に今のお主の状況を教えてやる」


「お、教えてくれ!!」


「むっふっふ。よく聞け!お主はなぁ?」


「う、うん」


「転移したのじゃ!!」


「てんい?てんいって...転移!?」


「そして選ばれし八十神天従は、我が国〔オリエンス〕の救世主となるのじゃ!」


「救世主!?てゆーかここ日本じゃないの!?はあ!?」


「以上じゃ」


「なーるほど......てわかるかぁー!簡単すぎだわ!!」

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