ネフェルは兄の試合から一瞬たりとも目を離さなかった。
目を覆いたくなる衝動に何度も駆られたが、ここで目を背けることは、兄を信頼していない証となってしまう。
その為、何があろうと兄を信じて一瞬一瞬を見届けたのだ。
試合が終わっても闘技場は静まり返ったままだった。
その静寂を破るようにユキメがパチパチと拍手を鳴らした。
それを合図に、後を追って万雷の拍手が闘技場に鳴り響いた。
それは優勝したグランダムに対する賛辞はもちろんだったが、同時にこの名勝負を共に作り上げたカーコスに対する労いと賞賛の拍手も含まれていた。
ユキメは涙こそこぼれてはいなかったが、目が真っ赤になっていた。
「素敵な勝負だったわね、ネフェルちゃん」
そう言ってユキメはネフェルの手を強く握った。
「はい。兄は立派でした。自慢の兄です。私は兄が大好きです。兄の妹であって良かったと心から思います」
その言葉がユキメのギリギリで耐えていた涙腺を崩壊させた。
大泣きするユキメをネフェルはしっかりと抱きとめ、背中をさすってなだめた。
そしてこの時、ネフェルはユキメが本当に兄カーコスを愛してくれているのだと再確認した。