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077話 決闘大会(06)

「今年こそは俺が優勝させてもらうぞ、グランダム殿」


 抜き身の剣をグランダムに突きつけ、カーコスはグランダムにそう告げた。


「その心意気は見上げたものだ、カーコス殿。さらに腕をあげたと聞き及んでいる。しかし、俺もこの勝負、絶対に負けることができない。今年も優勝を果たし、二連覇を成し遂げさせてもらう」


 グランダムの意気込みも並々ならぬものがあった。


 二人がしばし対峙した後、試合開始の合図が下された。


 その合図と同時に仕掛けたのはカーコスだった。


 切っ先をグランダムに向けて構えると、一直線に突進した。


 迎えるグランダムは冷静にカーコスとの距離を見極め、間合いにカーコスが踏み込んだ瞬間、背中の大剣を抜き払いつつ、大上段から真っ直ぐに振り下ろした。


 かすっただけでも大怪我は免れないグランダムの強大な一撃だったが、カーコスは紙一重でかわすと、すり抜けざまにグランダムを横殴りに斬りつけた。


 その一撃は正確にグランダムの首筋を狙っていた。


 グランダムは身を引いてギリギリでカーコスの切っ先を避けたが、一歩退いたことでカーコスにつけ入る隙を与えてしまった。

 カーコスはその隙を見逃さず、グランダムに詰め寄った。


 グランダムは激しくカーコスに打ち込まれ、防戦一方に陥った。大剣を盾にするようにしてカーコスの攻撃を凌ぎ、反撃の機会を窺った。


 しかし、なかなかその機会は訪れず、ついに決闘場の端まで追い詰められてしまった。


 決闘大会では決闘場から相手を落としても勝利となる。

 その為、カーコスは勝利まであと一歩となり、グランダムを決闘場の外に追いやるべく、より一層激しく攻め立てた。


 耐えかねたグランダムが横殴りに剣を振ったが、カーコスは身をかがめて危なげなくその一撃を見送った。

 そしてこの一撃はカーコスが待ち望んだものだった。

 剣を振った後は隙が生じる───。その隙を突いてグランダムに斬りかかることが狙いだった。


 決闘場の外にグランダムを追いやり「場外負け」で勝利を得るなど不本意だった。

 あくまで剣術の腕前でグランダムに勝つ───。カーコスの目指す勝利はそれ以外になかった。


 狙い通りグランダムに隙を生じさせたカーコスは半ば勝利を確信しつつグランダムに斬りかかった。

 肩口を目がけ、一撃を振り下ろしたが、その一撃をグランダムの大剣に阻まれた。


 グランダムは大剣を振り切ってしまっていたが、カーコスの一撃を、神がかり的な反射神経で、剣の握りで受け止め、防いだのだ。


 まさか防がれるとは思わず、カーコスは次手の対応が一瞬遅れてしまった。


 そのわずかな隙をグランダムは見逃さなかった。

 常人では振りかぶる事さえできないであろう大剣を軽々と操り、カーコスに連続で斬りかかった。

 その大剣を剣で受けることは叶わず、カーコスは身を翻して避けるしかなかったが、鋭いグランダムの打ち込みに、瞬く間に体制を崩された。


 そしてついに突き倒されてしまったカーコスは、すぐに起き上がろうとしたが、目の前には大剣を大上段に構えたグランダムが仁王立ちしていた。


 勝負あり───試合終了だった。


「まさかとは思うが、決闘場の端に追い込まれたのは、俺の油断を誘う罠だったのか?」


 カーコスの表情は苦々しかった。


「俺はそんな小細工はせん。あれは本当に貴様に追い詰められたものだ」


 グランダムは尚も仁王立ちのままだった。


「では剣の握りで俺の一撃を防いだあの行為は、このような事態も想定し、鍛錬をしたものなのか?」


「それも違う。あれは咄嗟の機転だった。恐らくギリギリの勝負の最中、俺の神経も研ぎ澄まされ、考えるより先に身体が動いた結果だろう。だが、そうしたことができるのも、日々の鍛錬の賜物だ。偶然だったとは言わん。これも俺の実力だ」


 そう云われてカーコスは緊張がほぐれたように苦笑した。


「では俺は偶然で貴様に敗れたのではなく、実力で敗れたというわけだな」


「そうだ。わずかだが俺の実力が貴様より上だった。それだけだ」


 グランダムもようやく剣を下ろすと、カーコスをそのままにして踵を返した。


 敗者に対する気遣いはなかった。

 もとよりカーコスもそんな気遣いは無用だった。


 ───俺に勝ちたければ実力で勝れ。


 グランダムの背中はカーコスにそう告げていた。

 カーコスはこの勝負は自分の完敗だと敗北を認めた。

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