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074話 決闘大会(03)

 ネフェルはボロボロと涙を流し、完全に憔悴してしまった。

 観客席に座っていられない程だったのでユキメに抱きとめられていた。


「よかった……。ルーシファス様が無事でよかった……」


 黒い暗黒の煙に包まれ、炎の矢を無数に撃ち込まれたルーシファスを見て、ネフェルは卒倒しそうになっていた。

 惨劇を目の当たりにし、しかし次の瞬間、ルーシファスが渾身の反撃でバルバトスを退け、見事優勝した勇姿に安堵を覚えると、緊張がほぐれて涙が溢れるとともに、全身の力が抜けてしまったのだ。


「良い試合だったわ。ルーシファス様もバルバトス様も流石ね。二人は良い好敵手同士ライバルになるわ」


 さんざん肝を冷やしたが、ネフェルは「全くです」と同意して頷いた。


 観客から大歓声を送られ、注目の的だったルーシファスはそのままネフェルのもとにやってきた。


 この行動には観客も、そしてネフェルも何事かと思った。


「あ、あの……ルーシファス様、どうなされたのですか?」


 困惑したネフェルがルーシファスに尋ねると、ルーシファスは膝をついてネフェルの前にかしこまった。


「アスタロッド家三男ルーシファス・ゼブフ・アスタロッドは魔界学園の決闘大会で見事二冠を達成しました。これは数年前、我が兄スレキアイ・バアル・アスタロッドさえも成し得なかった快挙です」


 そうだったんだとネフェルは率直に驚いた。

 二冠を達成するということはそれ程までに難しく、賞賛に値する快挙であるのだとネフェルは理解した。


 しかし、その一方でルーシファスが自らのもとにやって来て、膝を折る理由がわからなかった。

 それは観客も同じで、この場にいる全員がルーシファスの行為を固唾を飲んで見守った。


「ルーシファス・ゼブフ・アスタロッドは、この勝利をネフェル・パトラ・ホーンに捧げます。どうかお受け取り下さい」


 そう言ってルーシファスは支援魔法戦優勝のメダルと、総合魔法戦優勝のメダルをネフェルに捧げた。

 その行為に観客席は水を打ったように静まり返ったが、ややあってざわざわとざわめき始めた。

 皆口々に「あの令嬢は誰だ?」「二冠達成のメダルを捧げるですって!?」「ホーン家ってそんな貴族家が魔界にありましたっけ?」と近くの者と声を潜めて話し合った。


 間近でそれを見ていたユキメは、「ルーシファス様……! なんてことを……!」と血相を変えた。

 そしてすかさずネフェルに耳打ちをした。


(ネフェルちゃん! メダルを受け取って! 今ここでメダルを受け取らないとルーシファス様の面目が丸つぶれだわ! そしてこう言うの! 早くやって!)


 恐る恐るネフェルはルーシファスからメダルを受け取るとユキメに言われた通りの台詞を述べた。


「大儀であった。ルーシファス・ゼブフ・アスタロッドよ。そなたの勇姿は我が魔界学園の誉れだ」


 そして受け取ったメダルに口づけをすると、ルーシファスの首にメダルを掛けた。


 観客席は困惑の色がぬぐえなかったが、再び万雷の拍手に包まれた。

 ルーシファスは立ち上がると誇らしげにメダルを掲げ、観客に手を振って答えた。

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