私をなめてもらっては困ります。
伊達に「社内で一番の気遣い苦労人」と言われているわけではありません。
これまでの人生、ついつい相手を気遣い、自分の事より他人の事を優先して損な役回りをどれほど繰り返してきたことか……。
そんな私ですので、魔王様がまだ何か隠されていることを見抜くなんて朝飯前です。
「言いたいけど誰にも言い出せず、ずっと我慢してるんだよね? 私なら大丈夫。お母さんなんだもん。なんでも聞くよ。だから言って。自分の中に溜め込まないで吐き出しちゃって」
「いいの? 本当に言っていいの?」
私はゆっくり力強く、諭すように頷いて見せました。
まだ警戒していた魔王様ですが、野生動物が恐る恐る人に近づくように、ポツリと漏らしました。
「……僕、魔王になりたくない」