「びっくりさせちゃってごめんね。お母さんが急に倒れたらびっくりしちゃうよね」
私は───正確には私が倒れたわけではありませんが、今、私の身体は魔王のお母様の身体なので───本当のお母様に代わり、魔王様に謝ることにしました。
「もう大丈夫。もう大丈夫だから心配しないで」
私はそういって魔王様を包み込むようにしっかりと抱きしめました。
「ほ、本当か? ほ、本当にもう大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。大丈夫」
それは私の身体が「大丈夫」というよりも、魔王様を安心させる為の「大丈夫」でした。
「怖かった?」
私がそう問いかけると魔王様はコクンと頷きました。
「お母さんがこのまま死んじゃうかと思って心配したんだよね?」
またもや魔王様はコクンと頷きました。
「怖い思いをさせちゃってごめんね。本当に……本当にもう大丈夫だから安心してね」
すると魔王様は私にそっと手を回し、ひしと抱きつきました。そして「うん……」と頷き、そして───……そして大粒の涙をボロボロと流し始めました。
まるでダムが決壊し、堰き止められていた水が一気に流れ出たかのようです。
私は魔王様が泣き止むまで、その涙を一粒残らず受け止めました。