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夏休みの自由研究『婚約破棄観察日記』
夏休みの自由研究『婚約破棄観察日記』
間咲正樹
異世界恋愛悪役令嬢
2024年12月18日
公開日
2,631字
連載中
 8月16日(火)くもり

 今日は兄上に連れられて、生まれて初めて夜会に参加しました。
 どれでも好きな料理が食べ放題だったので、ぼくは大好物のイチゴタルトをお皿に乗せようとしました。
 するとその時突然、王太子のベンジャミン様が伯爵令嬢のクラリスさんに、「ただ今をもって、君との婚約を破棄する!」と言ったのです。
 ぼくはとてもビックリしました。
 参加者たちもざわざわしています。
 クラリスさんが震える声で理由をたずねると、クラリスさんが男爵令嬢のデボラさんに、いんしつな嫌がらせをしているからだと言います。
 そんなはずはありません!
 クラリスさんは兄上の幼馴染なのですが、昔からぼくのことを実の弟のように可愛がってくれています。
 クラリスさんが優しい人だというのは、ぼくも兄上もよく知っています。
 そんなクラリスさんが、イジメなんてするはずがないのです。
 でも、王太子であるベンジャミン様の言うことには、誰も逆らえません。
 クラリスさんは泣きながら、会場から逃げるように出て行ってしまいました。
 そんなクラリスさんの背中を、兄上は悲しそうな顔で見つめていました。

夏休みの自由研究『婚約破棄観察日記』

 8月16日(火)くもり


 今日は兄上に連れられて、生まれて初めて夜会に参加しました。

 どれでも好きな料理が食べ放題だったので、ぼくは大好物のイチゴタルトをお皿に載せようとしました。

 するとその時突然、王太子のベンジャミン様が伯爵令嬢のクラリスさんに、「ただ今をもって、君との婚約を破棄する!」と言ったのです。

 ぼくはとてもビックリしました。

 参加者たちもざわざわしています。

 クラリスさんが震える声で理由をたずねると、クラリスさんが男爵令嬢のデボラさんに、いんしつな嫌がらせをしているからだと言います。

 そんなはずはありません!

 クラリスさんは兄上の幼馴染なのですが、昔からぼくのことを実の弟のように可愛がってくれています。

 クラリスさんが優しい人だというのは、ぼくも兄上もよく知っています。

 そんなクラリスさんが、イジメなんてするはずがないのです。

 でも、王太子であるベンジャミン様の言うことには、誰も逆らえません。

 クラリスさんは泣きながら、会場から逃げるように出て行ってしまいました。

 そんなクラリスさんの背中を、兄上は悲しそうな顔で見つめていました。




 8月19日(金)雨


 今日は兄上と二人で、クラリスさんの家に行きました。

 あまりのショックであれ以来クラリスさんは、部屋に引きこもってしまったそうなのです。

 兄上とぼくは、クラリスさんのお見舞いに来たのです。

 でも、家令の人が言うには、クラリスさんは誰にも会いたくないとのことです。

 それでも会いたくなるまで待つと、兄上とぼくは雨の中傘を差しながら、門の前でクラリスさんを待ちます。

 クラリスさんの部屋の窓からは、ぼくたちが見えるはず。

 ですが、待っているうちにだんだん服が濡れて、体が寒くなってきました。

 くしゅんとくしゃみが出ます。

 兄上はぼくに先に帰るように言います。

 「兄上はまだ帰らないの?」と聞くと、「俺はまだ待つ」とクラリスさんの部屋を見つめながら言いました。

 兄上をその場に残し、ぼくは家に帰りましたが、兄上が帰って来たのはすっかり日が暮れてからでした。

 兄上の全身は雨でびしょびしょでした。

 クラリスさんとは最後まで会えなかったそうです。




 8月20日(土)くもり


 今日も兄上とぼくは、クラリスさんの家にお見舞いに来ました。

 ですが、今日も門前払いです。

 兄上とぼくは昨日と同じく門の前でクラリスさんを待ちましたが、一向に出て来る気配はありません。

 ぼくはお腹がぐーと鳴ってしまいました。

 そういえば朝ご飯を食べていなかったのです。

 兄上はまたぼくだけ先に帰るように言います。

 仕方なくぼくは、一人で帰りました。

 その帰り道、木に大きなカブトムシがとまっていたので捕まえました。

 黒くて立派なツノが生えた、カッコイイカブトムシです!

 ぼくはこのカブトムシを宝物にしようと思いました。




 8月25日(木)くもり


 今日の兄上は、ずっと自分の部屋でぼーっとしています。

 最近は兄上だけでクラリスさんのお見舞いに毎日行っていたのですが、いまだにクラリスさんは兄上に会ってくれないそうです。

 「今日はお見舞いに行かないの?」と聞くと、「俺じゃもう、彼女の傷は癒せないのかもしれない」と弱気なことを言います。

 ぼくは怒りました!

 兄上はきっと、クラリスさんのことが好きなのです。

 だったら最後まであきらめず、その愛をつらぬくべきです!

 ぼくは宝物のカブトムシを差し出し、「これを貸してあげるから勇気を出して!」と言いました。

 兄上は一瞬だけ目を大きく開きましたが、すぐにいつもの笑顔に戻って、「ありがとう」とぼくの頭をなでてから、大股で部屋から出て行きました。

 うんうん、それでこそぼくの大好きな兄上です。




 8月26日(金)くもり時々晴れ


 今日は貴族学園のクラスメイトの、エリーちゃんの家に遊びに来ました。

 今日のエリーちゃんは頭に大きな赤いリボンをつけていました。

 ぼくが「そのリボン、似合っててかわいいね」と言うと、エリーちゃんはえへへと嬉しそうに笑います。

 エリーちゃんから、「今日はお人形遊びをしましょ!」と誘われました。

 ぼくはお人形遊びがあまり好きではないのですが、今日はエリーちゃんにお願いがあって来たので、がまんしてお人形遊びに付き合ってあげました。

 お人形遊びに飽きて、二人でエリーちゃんのお母上が作ったイチゴタルトを食べている時、ぼくはエリーちゃんにある相談をしました。

 それは、クラリスさんの無実を証明してほしいということです。

 なんでも、エリーちゃんのお父上は諜報部? というところで働いているそうなのです。

 エリーちゃんのお父上なら、きっとクラリスさんがデボラさんをイジメてなどいないことを明らかにしてくれるはずです。

 エリーちゃんは、「わかったわ、パパに頼んであげる! その代わり、一つ条件があるわ!」と言いました。

 ぼくはエリーちゃんから出された条件を受け入れました。




 8月28日(日)晴れ


 今日は久しぶりに、兄上についていってクラリスさんの家にお見舞いに来ました。

 いまだに一度もクラリスさんは会ってくれていないそうなのですが、この日ぼくは、ある予感がしたのです。

 ですが、しばらく待ってもクラリスさんが出て来る気配はなく、今日もダメかとあきらめかけた、その時でした。

 屋敷の扉がゆっくり開き、目を真っ赤にしたクラリスさんが出て来たのです!

 兄上の前に立ったクラリスさんは、「どうして私なんかのために、そこまでしてくれるの?」と聞きます。

 兄上は、「そんなの決まってる。君が好きだからだ」と言いました。

 兄上やるぅ!

 ぶわっと涙をあふれさせたクラリスさんは、兄上に抱きつきました。

 兄上はそんなクラリスさんを、そっと抱きしめます。

 うんうん、めでたしめでたし。

 おじゃま虫になる前に、ぼくはクールに去りました。




 8月31日(水)晴れ


 今日は国中が大騒ぎでした。

 それもそのはず。

 エリーちゃんのお父上のおかげで、クラリスさんの無実が証明されたのです!

 やっぱりデボラさんはウソをついていたそうです。

 ぼくの思っていた通りです。

 ウソをついたバツとして、デボラさんは修道院? というところに送られ、そのウソを信じてしまったベンジャミン様は、王位継承権? を失ったそうです。

 これにて本当のハッピーエンドです。

 兄上とクラリスさんは、来月正式に婚約することが決まりました。

 ついにクラリスさんが本当の姉上になるのです!

 ぼくは今から、とっても楽しみです。

 それではぼくはエリーちゃんとの約束通り、今からエリーちゃんの夏休みの宿題を手伝いに行って来ます。

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