「落ち着け!!!」
との陛下の声に、三人は一瞬にして静かになった。
「安心しろお前達、三人纏めて処罰を下す。三人仲良く鳥籠に移動だ」
と陛下が言うと三人とも真っ青になった。
「と、鳥籠なんて……そんな……」
「待って下さい!!鳥籠だけは……!!」
「ひどい……うっ……うっ、うっ」
三人とも大慌てだ。
ところで鳥籠って何?
そんな私の気持ちが伝わったのか、陛下が私だけに聞こえる声で、
「『鳥籠』とはある島にある監獄の事だ。一人一人の独房に入り、一生出られない」
と教えてくれた。
「え?それだけなのですか?労働があるわけでもなく?で、あれば彼女達は何故あんなに怯えているのです?」
「鳥籠にどんな印象がある?」
「自由がない……という揶揄に使われるイメージですが……」
「その通りだ。独房は狭く、横になる事も叶わない。全く自由がないのだ。もちろん食事も水もちゃんと与えるがな」
「ではどうやって休むのです?」
「座るスペースはある。いや小柄でどうにか工夫をすれば横になれるかもな。だが、誰とも話さず、狭くて暗い場所に一生だ。鳥籠に送られた者は今のところ、もれなく気が触れるのだ」
話を聞くだけでも息が詰まりそうだ。
「少し刑が重いのでは?」
「馬鹿を言え。王族の殺害未遂だ。お前が居なければ未遂で終わらなかったのかもしれないぞ?」
と陛下は言う。
確かに。彼女達はなんとも恐ろしい事をしたものだと改めて思い知った。
三人は自分達の罪の重さをやっと理解したようだ。
「へ、陛下!夫は?夫はなんと?!」
とマギーが鉄格子の隙間から手を伸ばす。
そうか……彼女はまだ離縁の事は知らないのか……。
「夫?誰の事だ?元夫なら知ってるがな」
との陛下の言葉に、
「ま……まさか」
マギーにも陛下のその意味が理解出来た様だ。
「お、察しが良いな。お前の元夫であるドノバン伯爵はお前達三人を切り捨てたよ。ちなみについ先程だが、ダズリン男爵からもお前達三人の除籍届けが出されている。もうすぐ貴族でもなくなるな」
陛下のその言葉にマギーは
「ギャーッ」
と叫んだかと思えば鉄格子を両手で握りしめガチャガチャと揺らし始めた。鳥籠に行くまでもなく気が触れてしまったのかもしれない。
「お前達勘違いするなよ。本来なら、直ぐに処刑されてもおかしくない事をお前達はしたんだ。鳥籠は私の恩情だ」
……恩情とは?
「経緯はどうであれ、私がクレアと結婚出来たのはあの夜のお陰だ。言わばお前達は恋のキューピッドって言う訳だからな」
と陛下は私の腰をますますきつく抱いた。
ふと我に返ったマギーが今度は私に向かって、
「クレア、貴女どうにかしなさい!娘でしょう?!」
と目を釣り上げた。私は彼女に向かってはっきりと、
「貴女の子どもじゃありません」
そう言うと、陛下に
「そろそろ帰りませんか?」
と提案した。
あの三人が鳥籠へと移されたと聞いたのはそれから三日後の事だった。
もう二度と会うことはないだろう。
それで私がスッキリしたかと言えばそうでもない。いや、元々あの家を出た時にスッキリしていたのだ。
そして、また私が頭を悩ませている事がある。
「またですか?殿下、そろそろ皆にバレてしまいますよ?」
「大丈夫!!今お母様居ないから!」
私の悩みのタネが今日もやって来た。ローランド殿下だ。
あれから殿下は王妃の庭へたまに顔を出すようになってしまった。
時間としてはほんの僅かなのだが、アナベル様にバレたらと思うとヒヤヒヤしてしまう。
ローランド様はアイザックがお気に入りだ。
今日もゆりかごで寝ているアイザックのほっぺをツンツンして、ニマーッと笑っている。
「ザックはよく寝るね!」
「寝る子は育つと言うのですよ?」
「じゃあきっとザックはお兄様みたいに大きくなるね!」
と無邪気に笑う殿下を見ていると、怒るに怒れない。
「困ったわね」
ローランド殿下を見送った後、私がダイアナに言うと、
「寂しいんでしょうね……」
と彼女はローランド殿下の抜け穴を見ながら、そう呟いた。
あれからロータス様が調べた所によると、ローランド殿下の乳母だったアンナと言う女性がいたらしい。
ローランド殿下は彼女だけに心を許していたと聞く。だが、ローランド殿下を庇うアンナにアナベル様はきつく当たる様になり、その上罰としてむち打ちなどの折檻をしていた様だ。その怪我が元でアンナは乳母を続けられなくなり、辞めてしまったのだと。
その報告を受けた陛下はとても怒っていたが、流石にアナベル様の管轄である使用人の事までは口を出せないと悔しそうだった。
その後に陛下がアンナ宛にお見舞いの品をそっと届けていた事を私は知っている。
アンナが去ってしまい、ローランド殿下はますます孤立しているらしい。殿下はまだ五つ。甘えたい盛りの筈なのに。
「そうでしょうね。でもローランド殿下の事がバレて、代わりに他の者が罰を受ける事になったら、傷つくのはローランド殿下だわ」
「ですよね。殿下はお体も弱いので何かあったら寝込んでしまうとも聞きました」
「きっと……心が壊れてしまう前に自分で自分を無意識に守っているのよ。自衛本能なのかもしれないわ」
こうして私とダイアナがローランド殿下についてアレコレ考えたとて、彼を助ける術が見つからない。少しでもこの庭に来る事で、ローランド殿下が癒やされているのならと思うと、あの秘密の抜け穴を塞ぐ事も出来ずにそのままにしているのだ。