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第22話


「う、馬に乗るのですか?殿下と?」


「仕方あるまい。ここには俺一人で来た。お前を落とす事はない。ほら、前に乗れ」

荷物を馬にくくり付け、馬上から手を伸ばす殿下に目を丸くしてしまう。


「アイザックも居るのですよ?」


「子どもは俺にくくり付ける。安心しろ、あまり急がん」


……全然安心出来ない。

しかし、アイザックは殿下の手の中だ。泣きつかれたアイザックは、殿下を睨んでいる様に見える。

殿下はそんなアイザックを見て、


「ほう。俺を睨むか。もう母親の気分を察しているか。フッ……血筋とは恐ろしいものだ」

と皮肉っぽくそう言うと片方の口角を上げた。

言ってる意味は分からないが、私は諦めて殿下の手を取った。


殿下は馬を走らせる。もちろんあまり急がずにいてくれるのは有難いが、私は今の状況を未だ飲み込めず混乱していた。


「あの……本当に私、殺されないんですか?」

と尋ねる私に、


「殺さん。まず、お前の父親達も処刑はしない」

と殿下は言葉少なに答えた。


「え?一家皆殺しなのでは?」


「誰がそんな事を……。まぁ、俺が冷酷無比だと言う噂を信じれば、そんなものか」


「単なる噂……なのですか?」


「……必要とあれば命を取る。が、不必要な殺しはせん」


「そう、なのですか?」


「当たり前だ」


変な感じだ。この国の王太子殿下と会話している。……あの宿屋での夜を含めると二回目だが。

私はふと、気になる事を口にした。


「あの……こんな所で油を売っていても良いんですか?国王陛下がお亡くなりになったのですよね?では、殿下が国王陛下に……」


「だから、急いでお前を捜していたんだ。俺は一週間後、国王になる。それまでにお前を捜す必要があった」


……全く説明になっていない答えに私は首を傾げるばかりだ。


日が暮れる前に王都に着いた。何度か休憩を取らせて貰ったが、馬に乗るなどという経験は今まで無かったせいで、体が痛い。変に力を入れていたみたいだ。


「疲れただろう。王宮に着いたらゆっくりすると良い」

という殿下の言葉に、


「へ?私、王宮に行くんですか?何故です?」

と私は驚いて声を上げた。


「静かに。アイザックが起きる」

と殿下は言うと自分の胸元にくくり付けたアイザックを見て微笑んだ。


その顔は今までに見た事がない様な優しい微笑みだった。



何故か王宮に連れて行かれた私とアイザック。


王宮に着いた殿下は馬を降りると私を抱えて降ろした。


「エリオット様!こんな時に、どちらへ行かれていたのですか!?」

と駆け寄って来たのは、あの時、うちの宿屋に一緒に泊まった近衛の副騎士団長だった。私にも見覚えがある。


彼は私とアイザックをチラリと見る。


「お前達が無能だからだ。時間がないのだから、俺が行くしかないだろう」

と言いながら、殿下は歩みを止めない。


殿下の胸にはアイザックが抱かれ、私の荷物は二つ共、殿下の手の中だ。

私も仕方なくその後を付いて歩くが、殿下の足が長すぎる為か、私の足が短いのか、付いて行くには小走りになるしかない。


殿下が通ると王宮の使用人達はさっと道を空ける為に脇へ避けて頭を下げている。……が、チラチラと私を見ているのを何となく感じる。


殿下はそんな事はお構い無しに、ずんずんと先を歩く。その隣には先程の副団長が、これまた小走りで並走していた。


「で、この方が?」

とアイザックを見ながら副団長が尋ねると、


「そうだ。とりあえず俺の部屋に行く。誰か適当な侍女を寄越せ」

と殿下が副団長に言うと、


「ハッ!」

と言った副団長は別の場所へと走って行く。


私は今聞こえた言葉に慌てて、


「あの……!どういう意味なのか説明を……!殿下の部屋って……」

と言う私の言葉を無視して殿下はどんどんと先へ行く。私は混乱しながらも付いていくしか無かった。



殿下が歩みを止めたのは、大きな扉の前だった。


「ここだ」

と言った殿下が扉を開く。扉の側に居た護衛も頭を下げながらも、アイザックを抱く殿下に目を丸くしていた。


開かれた扉の先には扉の豪華さに比べると質素な部屋が現れた。

しかし、私の足は前に進まず、そこで立ち止まる。


「どうした?入れ」

と部屋に入った殿下が振り返って私にそう言う。


「……部屋に入ったら、アイザックを返して貰えますか?」

と睨む私に、


「約束する」

と言って殿下は顎で私に入室を促す。

私は意を決して部屋へと一歩踏み出した。


部屋へ入ると殿下はアイザックと自分を縛っていた紐を解くと私へとアイザックを差し出した。


私は手を伸ばしてアイザックを受け取ると、思いっきり抱きしめた。

その姿を見た殿下は、


「……とりあえず説明しよう」

と言って私の肩を抱くと、長椅子の方へと私を連れて行った。










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