「収入が45万で、返済が500万だと帳尻があってないような気がするんだが」
「その通りです、あってないです」
「今月分は払えたのか?」
「払えなかったので、来月必ず払うように凄まれました。繰り越し分の利息は倍という条件で」
「あぁ……」
「お財布が軽いです。ここから食料と水を補給しないといけないので……超赤字ですかね」
ラトリスは深くため息をつき、耳をしおれさた。
俺はラトリスの肩にポンッと手をおいた。
「大丈夫だ。俺もかつては毎月のようになぜか漂流してくる子供を無限に道場にひきとり、ありえない速度で上昇する食費をまえに絶望したものだ」
「オウル先生……」
「でも、何とかなった。追いこまれた時、人間は信じられない力を発揮できる」
「わたしにできますかね……?」
「ラトリスは凄い子だ。一番弟子だ。債務なんかに負けるわけがない。それに俺たちがいるだろ」
励ましの言葉を重ねると、ラトリスの眼差しに光が宿った。
「そうですよね。諦めなければ活路はありますよね!」
「よし、その意気だ。では、手始めに剣を抜いてみようじゃないか」
「剣? まさか、先生、借金を踏み倒す気じゃ……?」
「暴力はすべてを解決する。金貸しをヤル。これが無法者のやり方だ」
「いや、それは無法者にもほどがあります⁉」
ラトリスは首をぶんぶん横にふった。
なんだか乗り気じゃないのか。
「海賊の世界でも守るべき法があります。借りたお金は返さないといけません」
ラトリスは指をたてて真面目な顔でたしなめてきた。恐ろしいほど筋の通った正論。
「そうかぁ。ダメかぁ。まぁラトリスがそういうのなら剣で解決するのはナシの方向で」
借金を真面目に返済するとは恐れいった。
そういえばラトリスって根は真面目な子だったな。十年前の約束だって守ってくれたし、今もあの頃の真面目な不真面目のままなのか。
俺は自分の弟子がいい子に育って本当によかったと思いつつ、紙面を見つめなおした。えげつない返済額だ。リバースカース号って相当高かったのだな。
「次の返済日までに3カ月分滞納しているシルバーを稼いでしっかり返済です」
「え? 3カ月分の滞納だって? 今月だけの赤字じゃないのか……総額いくらなんだ?」
「だいたい1200万シルバーといったところですね」
詰みなのでは。今月の収入が45万なのでは。
どう考えても採算が合う気がしないのですが。
「さすがに厳しくないか? ここはやはり剣の力を使うしかないんじゃ……」
「落ち着いてください、先生‼ たしかに厳しいですが、それを覚悟して魔法の船を手に入れたんです。あの船は世界最速の船。真のポテンシャルを発揮すれば短期間での返済は夢じゃないです」
なんて真面目な子なのだ。それに比べ俺は……。
この子は俺のために多くを背負った。たくさんの時間を使った。
助けられたあとすら苦労ばかりかけるわけにはいかない。価値を示すのだ。俺の価値を。呪われた島から助け出してよかったと思ってもらえるくらいの価値を。
「ごめんな、ラトリス。俺、真面目に頑張るよ」
「そんな顔しないでください、先生。リバースカースは先生のためでもありましたけど、わたしの夢でもあったんです。それに希望はあるんです。実はですね、信頼できる筋からネタを仕入れまして。なんでも頑張り次第ですごく儲かる狩場があるようなんです」
海賊たちの拠り所に寄港した翌日、リバースカース号はせわしなく出港した。
愛弟子のため、身を粉にしようとも一生懸命働くのだ。