「むむぅ…」
アミィが歩きながら妙な声を上げている。
「どうかしたの?」
「いやね、あの暑~い場所から離れた途端、やけに寒くなってきたと思わない?」
「いわれてみれば……確かにそうね」
あたりは風もよく吹いていて、それも冷たい。
さらにあまり木が見当たらなくなってきたせいで直にその風が身体を冷やそうとしていた。
「ねぇ、ルナ。どうだろう、ここはちょっと休んでいかないかい?」
アミィが私に提案する。
「うーん、確かにそうだけど……」
「まああんまり急いでも仕方ないからね。ルナ、そうした方がいいんじゃない?」
サンもその意見には肯定的なようだ。
「そうと決まれば早速休める場所を探さないとね!」
アミィは途端に張り切り出す。
「アミィ、寒さに関わらず休みたかっただけなんじゃない?」
「そ……そんなことないよ!」
どうやら図星だったらしい。
「まあ私も疲れてきてたしちょうどいいか」
「じゃあとりあえずこの風を凌げるところ!それだけでも探そう!」
しばらく歩くと洞窟を見つけた。
「あ!おあつらえむき!」
「じゃあここで休もうか」
「サン、草を集めましょうか」
もう直に座り込もうとしていたサンを引き止める。
「あ、ボクもいくよ~」
「アミィは食べ物を探してほしいかな」
「まかせて!アミィセンサーなら、わけないよ!」
アミィは自慢のヒゲを撫でる。
「アミィセンサーそんなのにも使えるんだ……」
サンも羨ましそうに自分のヒゲを撫でた。
「じゃあ安心して任せられるわね!」
「期待して!」
「よし、解散!」
その掛け声とともにそれぞれ活動を開始した私たちは、日が暮れる前に集まることを定め洞窟に収集品を持ち寄ることにした。
「あ、これなら暖かそう!」
私たちの集めた草を見てアミィが弾んだ声を上げる。
「アミィもなかなかやるね!」
「ふふふ~もっと褒めて~」
寝床が作れる程度の草と、全員でも食べきれないくらいの木の実が集まった。
「改めて思うとさ、なんか家族以外で食事したり寝たりするのって、ワクワクするよね」
「ほんとね!私もお母さんとばかりだったから、こういうのってちょっと楽しいわ」
「ボクは……」
「あれ?アミィ、なんだか……」
彼女はどこか落ち着かない様子だった。嬉しそうでもあり、悲しそうでもある。
「う……ううん。なんでもないんだ……」
いつもはおしゃべりさんなのに、なんだかやけに口数が少ないじゃない……。
「……アミィ」
「……」
「……お腹が空いたのね!早く食べるわよ!」
そういうと私は真っ先に木の実を手に取り口に含んだ。
「あ、ルナそれ僕が狙ってたやつ!」
サンが慌てた様子で声を上げる。
「あっちにもあるわよ!さ、食べましょ食べましょ!」
「……へへっ……!待て待て~!それはボクがとったやつ~!」
アミィはちょっと元気になったようだ。
みんなおなかいっぱい食べたので、もう寝ることにした。
「くおぉぉ……すふひぃ……」
「サン、うるさい……」
すっかり疲れ果てていたせいか、サンはすぐさまうるさい寝息を立て始めた。
「ね、ルナ……起きてるよね……」
そんな騒音の中で、アミィがこそこそと私に囁きかけてきた。
「アミィ……あなたもやっぱりこのいびきに……?」
「あはは……それもあるけど……さっきのこと」
「……別にいいのよ。何も話さなくても」
「なにさ、ルナったら。星の巫女のことはあ~んなに聞きたがったのにボクのことは興味ないのぉ……?」
アミィは頬を膨らませながら悪態をつく。
「変なトコで拗ねないの……。別に興味がないって言ってるんじゃないわ。ただ、思い出したくないことって、あるじゃない。私だって、サンには……お父さんのことについて嘘をついたわ」
「ルナでも嘘つくんだ……」
アミィは意外そうな顔で私を見つめた。
「私を何だと思ってるのよ……。私は別に正直者でもなければ聖者でもないわ。嫌なことは嫌だし。だから……星の巫女からも逃げたかったわよ。でもアミィ、あなただって戦ってるじゃない。ユリィズも、ミドーも、命を賭けたじゃない。それで私は星の巫女から逃げないことにしただけよ。だから、別の嫌なことはまだ嫌よ。あなたにだって、お父さんのことは話してあげないわ。……だから、あなたも別に話すことはないわ」
「ルナ……いつか、教えて。お父さんのこと」
「じゃあ、あなたの家族のこと、その時は聞かせてもらうわ」
「もちろん!」
アミィは憑き物が落ちたようににっこりと笑う。
気づけば夜は更けて、やがて私はすっかりと眠ってしまった。