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燃え盛る河

峠を越えしばらく歩いたところで私はあることに気づいた。

「ねぇアミィ」

「ん~?」

欠伸をしながら伸ばした声で私に適当な返事をする。

「アミィとはじめて会った時、お母さんの場所をきいたじゃない?」

「そうだね」

「その時あなた、もう星の降る丘にいる、みたいなこといったじゃない?」

「わかった!なんでこんな何日も歩いてるのに夜明けにいなくなったお母さんに追いつけないのかって言ってるんでしょ?!」

私の思いを代弁するかのように自分で全部を語り出す。

「察しが良くて助かるわ」

「それはねぇ、簡単な話なんだけどキミのお母さんは、魔法使いだったんだよ」

「お母さんが?!」

しれっと言うけれどそんなこと一言も言われてないんだからそりゃあ驚く。

「そうだよ。ボクはアミィ・ユノンの名を継いでるって話は前にしたでしょ?そんな感じで一族が魔力を引き継いでいるケースが多いんだ。それでもボクみたいに名前まで継ぐのは珍しいけど……」

「じゃあ私も魔法使いの一族だったのね……」

なんだか他の魔法使いの子たちの本気さを見てきたから少し申し訳ない気持ちになる……。

「本当だったらその血は希少だから親から子にしっかり説明して受け継がれるはずなんだけどね

キミのお母さんはよっぽどの決意があって何かを隠しているのかもしれないね」

「もしかしてお父さんがいないのも……」

「きっと一族の問題があったんだろうね」

そんなこと知らずに、私はお父さんのことを心のどこかで軽蔑していた……。ごめんなさい。いつか会える日があるのなら必ず伝えたいな。

「でもお母さんがそんな移動する魔法が使えるなら私も使えるんじゃ……?」

「お母さんがしっかり教えてくれていればね」

「私をまくために教えなかったのかしら……」

「理由のひとつにはありそうだね」

折角何か一つでもはっきりとした魔法が使えそうだったのに……。なんだか惜しい気持ちだ。

「しょうがない!僕たちはしっかり歩いて進もう!」

「そうね!」

サンの言う通りだ。私たちはいつだってそうして来たはずだし、魔法なんて存在も知らなかったんだ。この身のある限りは歩いていけるんだ。



「ところでアミィ、目的地はまだかな?」

「なんだか暑くなってきたよ……」

とはいえ流石に歩き続けるというのは実に疲れるものだ。行先も終わりもわからない旅だ。ここがどこでどこへ向かっているのかがわかればまだマシだったのかもしれないが、その先行きのわからない不安が得に心身の疲労を促進させる。

おまけに……。

「う~ん、そろそろだよ。それにしても本当に暑い……」

「なんか異常な暑さだね……」

やけに暑い。

なんだか道の先が歪んでいるような……。

「どうしてかしら……私なんだか、道がぐにゃぐにゃに見えるわ……」

「ルナもかい……?僕もだよ」

それは私にだけそう見える幻覚というわけではなさそうだ。相応の熱をもって目前に映る景色は確かにひしゃげたようにくねくねと踊り狂う。

「ん~……相当な暑さだね……何か理由があるのかも……」

「もしかして……また魔法……?」

「この流れからするとそうなるよね……」

「とりあえずアミィセンサーの導く先に急ごう……!」



私たちはしばらくその茹だるような暑さの中グダグダと歩いていくと、ようやくアミィセンサーの示す場所にたどり着くことができた。

「これは……」

目の前には、河があった。

大きな大きな河が。

「なんで……?」

その河に流れてるのは水じゃなかった。

「暑い……暑いよ……!」

その河は、燃えていた。

「ちょっとアミィ!これは一体どういうこと……?!」

明らかに常軌を逸した景色だ。これが魔法ではなくてなんというのだ。いつもだったら飛びつくように魔法を主張してくるクセにやけに静かにしているものだから私から問い質した。

「結論から言おう……これは……

魔法ではない……!」

しかしアミィの口から飛び出したのは私の予想に反した答えだった。。いつも通りに魔法の内容を分析しうんちくを傾けてくるものだとばかり思っていたのだが……。

「えっ?!」

「だだ……だってこれ!!」

「この惑星の終わりの始まりなんだ……あらゆる河がこうなって……この惑星はまた水色じゃなくなってく……」

アミィは重々しく答える。

「みんな燃えちゃうの……?」

不安そうにサンが訊く。

「……ちょっと違う。この流れてる熱~いやつが冷えて固まると、地面になるんだよ。それが増えてくと……惑星から川や湖がなくなるんだ」

「そんな……」

「更に悪いことにこの惑星は緑が増えすぎたせいで植物が水を蓄えすぎちゃうんだ。雨が降っても水溜まりはできない……。つまりもう川はできないし例の、海、なんてものはとっくの昔に小さく小さくなってどこかへいっちゃったよ」

私の住処の周りは本当に平和だったのだ。思えばサンもそんなふうにして住む場所を追われて私の住処までやって来たのだから、何か思うところはあったのだろう。

「じゃあこの河はなんでアミィセンサーにひっかかったんだろう」

アミィセンサーが魔力を感知するものならば魔法でないこの火の河はセンサーで捉えられるものではない。

「伝えたかったのかもしれないね」

アミィはじっとその燃え盛る紅蓮を見て呟く。

「何を?」

「知らなかったんでしょう?この惑星がどうして滅ぶのか」

「そうね……」

「多分最後の審判の時にためらわないように、みたいな感じじゃないかな?キミがやらなきゃこうなる、みたいなね」

「わかってるわ……私はやらなきゃ……ユリィズもミドーも……約束したんだ……」

広い広い大河を、ドロドロと、ゆっくりゆっくり流れていく赤い水。

私は毛皮が燃えてしまいそうに熱いのも忘れて

しばらくその河を眺めていた。

「ね……ねぇルナ……そろそろ……」

毛皮をじっとりと湿らせてヘロヘロになったすごい形相でサンが私の肩を揺さぶる。

「……あっごめん!行こっか!暑いよね!」

「ルナ……頼むね……」

アミィも例外なく汗をかいているようだったが、いつになく真剣な表情で私を見据えてそう言った。

「わかってるよ……アミィ……」

私はこの景色を変えなければならない。

この命が尽きても。

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