「もう冷えてきた。帰ろうか、ルナ」
しばらく夜空を見上げていたが、流石に寒くなってきた。そんな折にサンが帰りを促してくれた。
「そうね。それじゃあまた会いましょうね、サン」
去っていくサンの身体はやがて闇と溶け合い見えなくなった
「サン......あの子はなんだか、あの空みたいだわ」私はまた空を仰いだ。
数えきれないくらいの星が私を見下ろしている。
「私が星で、あの子が空.....なんて、あの子のロマンチックがうつったかしら」
なんだかあの星が、今の独り言を聞いて笑っているのではないかと思ってしまい.....少し、恥ずかしくなった。
私も住処に帰ることにした。
夜風が身体を冷やす。
身を震わせながらとたとたと足を早めた。
「あ、お母さん」
住処につく少し前のところでお母さんに出会った。
「あら、ルナ。あなたも星を見ていたのかしら…...?」
「 てことは、お母さんも?」
「そうよ……あの日を思い出すわ。ねぇルナ、あなた、覚えてるかしら。あの星の降る丘のことを...…」
お母さんの口から出たのは思いがけず私が長年追い求めていたことについての話だった。
「…...え!ききたい!私、ずっと知りたかったの!広い広い星空のこと!毎晩夢に見るの!ねぇ、教えて!」
もちろんその機会を逃すはずもない。
私はお母さんに飛びつくようにしてその続きを促した。
「あら…...そう…...。じゃあ...…教えてあげない」
しかし返ってきた答えはそんな私を跳ね除けるかのようなものだった。
「えー?!ど、どういうこと…...?」
「いえね…...。あなたがそんなに楽しそうに話すものだから…...思い出は…...幸せな形で残っているのが1番だわ…...」
なんだか悲しそうにそう言った。
「それって…...」
「なんでもないわ…...今の話は忘れて。あなたは綺麗な星空を見たことがある…...それだけのことよ…...」
「…...お母さん.....そんなこと言われたら…...」
「ごめんなさいね…...でも私には……もう寝なさい…...。きっと教えてあげるわ。ただ、今はまだ、やめておきましょう。あなたの目はまるで、あの星のように輝いているから...…」
まるでそれを知ることが酷く良くないことのようであるかのように言う。それほどまでに言うのならば、私としても折れるしかない。
「……わかった。おやすみなさい、お母さん...…」
私たちは無言で寝床に向かった。
そうしていつも通り変わらず朝がやってきた。
鳥のさえずる声が聞こえてきて、ぼんやりと意識を取り戻す。寝ぼけ眼を擦る私は、ゆるやかに過ぎていた時間がこの日から急速に動くことになることをまだ知らなかった。