空に浮いていたはずの私は、岩の上で目を覚ました。
もう既に日は頭の上に来ていた。
身体を伸ばして目をこする。
酷く喉が乾いていたので近くの川辺に行き水を飲んだ。
昨晩の夢の内容を思い出す。
私は星になるという。
果たしてそれが夢であったのか、何かを伝えようとしていたのか……それすらも定かではないけれど、それでも随分はっきりとその夢を覚えていた。
何となく空を見上げてみる。
もちろんこの真昼間には星はまったく見えなかった。
ただ風だけが雲を流しながら吠えていた。
「ねぇ、何か思い詰めた顔をしているね」
唐突に声をかけられた。
その声の主は、風に尻尾をゆらしながら、つややかに黒毛を光らせている。
「キミは、誰?」
「おっと、僕はサン。生まれはここら辺じゃあないけれど、この間餌場を追われて家族と一緒にここにきたんだ。よろしくね。それで、君は?」
どこか憎めない雰囲気に警戒も忘れて私も自己紹介を返してしまう。
「私は、ルナ。ここにずっと住んでるはずだけど……最近そうじゃなかったんじゃないかって思うの」
「へぇ、それは、一体どうして?」
「私、夢を見るの。一面の、綺麗な星空を見る夢。でもここら辺に、そんなに綺麗な星空が見える場所を知らないから……。でも昔昔のことだけど、現実に確かにその空を見たことがある、そんな記憶もあるの」
「ふぅん、君は、不思議なんだね。その真っ白な毛色も、なんだかあの星によく似ている。うん、素敵だ。君は素敵だね」
何度も繰り返し私を褒めるその声は、不思議と悪い気はしなかった。
「なんだか嫌ね。変なお世辞。恥ずかしくなっちゃうわ」
「お世辞なんかじゃないよ。ね、ルナ。ここら辺のこと、僕にも教えてよ」
「しょうがないわね。ついてらっしゃい、サン」
すっかり機嫌の良くなった私は、このあたりを一緒にまわってあげることにした。
「へぇ、ここら辺は意外と豊かなんだね。すっかり気に入ったよ」
満足そうにサンは頬を緩ませる。
「それならよかったわ。ねぇサン、あなたがいた場所のことも聞いてみたいわ。例えば、綺麗な星が見えたりしなかった?」
「はは、君はそればっかり気になるんだね。でも残念、ボクの住んでいた場所には綺麗な星空が見える場所なんてなかったよ」
「そう……って、それだけじゃなくて!他にも色々教えて、ね」
「うん、いいよ。えっとね……」
サンはひとしきり故郷の話をしてくれた。
その後も私たちは語り合い、気がつけば空には夜の帳が下りていた。
「あ、見てサン。星が見えるよ」
「ほんとだ。綺麗じゃないか。僕のいた森よりずっと綺麗だ。それともルナ、君と見ているからかな?」
歯の浮くような言葉だけれど、何故かそれに絆されてしまいそうな自分もいる。
「何を言ってるのよ……でも、ちょっとわかっちゃうわ。あなたと会えてよかったって、そう思うもの」
しばらく沈黙が続いて、キラリと流星が煌めいた。
「ね、見た?今の!流れ星!」
「うん、きれいだ。とってもきれいだね」